木洩れ日通信

政治・社会・文学等への自分の想いを綴る日記です。

亡き夫から託された映画『花はどこへいった』

2008年10月24日 | Weblog

坂田雅子さんの映画『花はどこへいった』。
先週の土曜日から坂田さんの、ベトナム戦争に使われた枯葉剤の被害のその後を追ったドキュメンタリー映画『花はどこへいった』が千石劇場で公開されている。
で、初日に見にでかけた。坂田さんの挨拶は1回目の上映後となっていたが、2回目の上映の最初にも挨拶があった。
坂田さんは用意した原稿を読む形で語りかけた。
人前で話すことにもある程度慣れているはずだと思うけど、それでも原稿を用意して、律儀に語りかけるその姿に彼女の誠実さを感じた。
私は坂田さんを一学年上と思っていたけど、それは勘違いで、坂田さんは高校二年生の時に交換留学生として、アメリカに行き、三年生の半ばに帰ってきたのだった。
映画『花はどこへ行った』は、心を打つドキュメンタリーだった。
ベトナム戦争で、アメリカ軍が使った枯葉剤については、それを浴びたベトナム人に身体上の被害が現れ、特に赤ん坊にその被害は顕著に現れ、奇形児、虚弱児が数多く生まれたことは知識としては知っていた。
日本人が枯葉剤被害者としてまず思い浮かべるのは結合双生児のベト・ドクの兄弟のことだろう。
日本で分離手術をし成功するものの、兄のベトはほぼ寝たきり状態で、数年前に死亡している。だが弟のドクが兄の分も強く、賢く生き、ついこの間結婚まで果たした。
ベト・ドクの兄弟のうちドクは、枯葉剤被害者の中で、その障害に打ち勝ち、力強く生きる「象徴的人物」になっているわけだが、坂田さんの映画は、ドク以外の被害者が、貧しいベトナムの農村で、家族に支えられながらも、悲惨な状態で生き続けていることを見る者に突きつけた。
坂田さんがビデオカメラを手に、通訳やガイド、その他案内者と共に被害者の家族を訪ね、相手に語ってもらうのだが、ベトナムの人々はみな淡々と語り、激しい怒りを口にする者はいない。
ただ少しでも現状が改善され、年老いていく親の代りに自分の身を自分で処すことができない被害者を助けてほしいと訴えるのだった。
「アメリカの罪」と言うことを考えさせられた。原爆と枯葉剤、そしてイラクでの劣化ウラン弾。
そもそも坂田さんがこの映画を作るキッカケは、夫グレッグの急激な症状による肝臓ガンでの死だった。夫の友人からグレッグの死は枯葉剤によるものではないかと示唆されたのだ。
坂田さんとほぼ同年齢のグレッグは、ベトナム従軍のアメリカ兵士だった。
映画『7月4日に生まれて』のローニーほど愛国的ではなかったかもしれないが、アメリカの中流家庭に育った普通の少年だった。
ベトナム戦に従軍したグレッグは、ローニーのように身体障害者にはならなかったが、枯葉剤を浴びた。
除隊した彼は、日本の京都にやって来て、高校時代にアメリカ留学の経験のある坂田さんと意気投合することになる。ただし、ベトナムで枯葉剤を浴びているので子どもは作らないということだった。20才そこそこの坂田さんにとってそれは大きな問題ではなかった。
だが、グレッグ氏はベトナムでの経験はあまり話したがらなかったという。坂田さんもベトナム戦争にそれ程強い関心があるわけではなかった。といってまったくのノンポリではなく、新左翼系のヘルメットをかぶって写っている姿も映画に挿入されていた。
グレッグはアジアに強い関心があり、カメラを手にアジアを放浪した。特に自分がかの国の人々を苦しめ大地を荒らしたベトナムを愛し、何度も訪問し、カメラにおさめ、やがてその写真はアメリカの有名な雑誌に掲載されるようになった。
坂田さんも夫の仕事との関連かと思うが、写真通信社の経営というビジネスで忙しく過し、グレッグ氏の生前、夫婦で共に過す時間はそうは多くなかったという。
グレッグ氏の晩年、二人の拠点は群馬県内の山荘で、グレッグは、群馬で妻雅子の通訳の下、講演もしている。
そこで彼は、「自分はアメリカという国を捨てた」と言っている。戦争ばかりして他国を苦しめる国、アメリカを捨てたという意味だろう。
国は捨てたが、アメリカ人としての民族性は捨てることはできない。
講演は英語だし、きっと小さい頃からなじんだアメリカの食べ物もあるだろう。
夫の枯葉剤被害によるガン死によって、坂田さんは枯葉剤被害に今なお苦しむベトナムの人たちの苦しみを伝える映画を作った。
これは加害者の立場であるグレッグ氏には作りたくても作れない映画だったはずだ。
『花はどこへいった』は、グレッグ氏の人生の伴走者、理解者である妻坂田雅子が、夫から受け取った「使命のバトン」の結実である。
ベトナム戦争では枯葉剤を製造したアメリカの化学会社が大もうけをし、イラク・アフガンの戦争でもやはりアメリカの武器製造、軍需物資調達・輸送を請け負う企業が大もうけ。
戦争で儲ける企業の存在、坂田監督がもっとも告発したかったのがそれではないかと思った。



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
«  人類宿命の病い「読字障害」 | トップ |  今の日本に必要な政策は? »

コメントを投稿

Weblog」カテゴリの最新記事