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悲夢 [監督:キム・ギドク]

2009-06-29 21:49:50 | 映評 2009 外国映画
個人的評価: ■■■■■□
[6段階評価 最高:■■■■■■(めったに出さない)、最悪:■□□□□□(わりとよく出す)]

「夢に非ず」かと思ったら「悲しい夢」だった。
内容的には「非夢」の方があってる気がする。

期待は決して裏切らず、予想は必ず裏切る男キム・ギドク。
シャマラン、アルモドバルとともに世界三大理解不能監督の称号をあげたいキム・ギドクの最新作は、オダギリジョーが普通に日本語喋って韓国語を喋るその他の面々と会話してしまう特殊すぎる作品だ。
オダジョーの顔面大アクションや、オダジョーのウトウトによりヒロインの夢遊病が自動起動する場面の判りやすいスリルにイヒヒと笑いを抑えられない映画である一方で、精神世界の描写が繰り返し続く難解な芸術映画でもある。

---以下ネタバレなので、観賞後に読むことをお薦めします---

もともとカルトな監督ではあったが、本作はファンの中でもさらに好みが別れそうなラストが印象深い。
文字通りの意味で「それをやっちゃおしまいよ」というオチの付け方が個人的には好きじゃない。
輪廻を感じさせた「春夏秋冬そして春」「絶対の愛」、ラストがまた始まりであった「サマリア」「うつせみ」。
映画が終わっても物語は終わらない無限性にキム・ギドクの魅力を感じていたつもりだったのだが。

だが本作の狙いを考えれば、あのラストに持っていきたかった監督の気持ちは判る。

「相反するように見えて実は同じもの」のメタファが本作には散りばめられている。
オダギリジョーが演じる主人公の職業(仕事なのか趣味なのか判然としないが)は印鑑作りである。
序盤で主人公が印鑑用の石に筆で書いた「非」という文字と「夢」の上の方だけが写る。この時点では文字は左右対称である。その後「夢」の下半分が書かれて「非」に「心」を付けたして「悲」とするのだが、印鑑用の下書きなので左右逆であり、できた印鑑で布に写された文字で本作のタイトル「悲夢」がクレジットされる。
印鑑の文字は左右逆だが、それは左右逆でない文字を記すことを目的としている。ここに「相反するように見えて実は同じもの」としてまず「左右」が呈示されている。

そして様々な対称ペアが映画に出てくる
「主人公の黒い服とヒロインの白い服」
「男と女」
「好きと嫌い」
「夢と現実」
「母国語と外国語」
主人公とヒロインが身につける物も手錠と蝶々のネックレスで、「束縛と自由」を想起させる。
眠りと目覚めで均衡のとれる主人公とヒロインが共に眠りに落ちると、事件が起こり、悲劇になる。だがその悲劇こそが2人を結びつけ、愛を深める唯一の材料である。そこから「苦悩と悦楽」というペアも見えてくる。

というわけでその対称の締めくくりとして「生と死」を持ってくる・・・というのは判んなくもない。
だが個人的にはそこにオチを見出さないでほしかった。
例えば片方が眠れば、片方は起きていて、決して一緒に行動は出来ないながらも、それでも愛し合う・・・みたいな一抹の不安をかかえた未来へと映画を結んではどうだろうか。
あるいはオダジョーをアルゼンチンあたりに引っ越しさせて昼夜逆転させるとか(笑)

ともかくラスト付近の精神世界描写に、宗教音楽的な声楽曲の大音響と、きつい顔のドアップ連続とで、人によってはマイナス方向に強く感情を持っていかれるだろう(嫌な気分になるって意味)。
そうはいってもさすがにキム・ギドク。下手な映画よりずっとネタ元機能が強力なので、観て良かった。

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2 コメント

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対照 (kimion20002000)
2009-09-01 23:58:25
TBありがとう。
「黒白同色」おっしゃるように、対照軸が、よく考えられていますね。

>オダジョーをアルゼンチンあたりに引っ越しさせて昼夜逆転させるとか(笑)

うーん、手錠もいいけどさ、夢遊病で絶対出られないように、もうちょっと玄関を自分では開けられないようにしちゃうと簡単だけど、それじゃ、映画にならないか(笑)
返信する
コメントありがとうございます (しん)
2009-09-02 00:25:24
>kimion20002000様
蝶になって抜け出すくらいの女性なので、どんなに厳重なドアにしてもたやすく脱出してしまうでしょうね・・・
返信する

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