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ミルク [監督:ガス・ヴァン・サント]

2009-07-13 20:18:21 | 映評 2009 外国映画
個人的評価: ■■■■□□
[6段階評価 最高:■■■■■■(めったに出さない)、最悪:■□□□□□(わりとよく出す)]

ラストのハーヴェイ・ミルクの独白に痺れた。
曰く「希望だけでは生きて行けないが、希望がなければ生きる価値がない」
有名な演説のようで、これだけを聴きたければ別に映画を観なくてもよい。たしか黒澤明の言葉だったと思うがメッセージを訴えたいだけなら映画にせずプラカードを掲げて街を歩けばいい。
けれど私のようにミルクという人物を全く知らなかった人にはいい勉強になったし、同性愛者の人権運動から大衆のエネルギーをフィルムに刻み付けショーン・ペンの名演で観るものを楽しませそして名台詞で最後を締める・・・という構成が観るものをいい感じに熱くさせる。

とはいえ全面的に絶賛できない自分がいる。
公民権運動そのものよりもミルクという人物の人と也ばかりを描いていいのだろうか。彼は公民権運動を指揮したのでも創始したのでもなく、彼自身が劇中で言っていたようにムーブメントの渦中においてたまたま中心に近い位置にいたにすぎない(と、映画を観て感じた)。
ミルク氏本人の生き方をひたすらに追う物語は、運動それ自体を脇に追いやる形となった印象もうける。

だからといってある人物の伝記ものと割り切ってみたとしても、「いいとこどり」しただけのダイジェスト版伝記の域を出ていない。そういう人がいました、ということを語るだけで、ミルク氏の政治手腕や、カリスマ獲得のカラクリがイマイチ見えてこない。あのエピソードを除いては・・・
仲間を使ってゲイの群衆を暴動寸前まで煽っておいてから調停役として登場するエピソードは抜群に面白かった。ああいう場面が沢山あればよかったのに。

ただし政治的な部分と無縁な痴話げんかのエピソードなどは面白く、キャラクターがしっかり描かれているとゲイであっても、その青春や恋愛に共感可能だと再認識。彼らも同じ人間なんだなぁと実感させられ、それによって差別や偏見を除いていこうとする作り手の意図はしっかり受け止めた。

そして、あれほど政治的だった人間が、あまり政治的でない殺され方であっけなく人生の幕を降ろすところも、しんみりとした余韻を残す。
青天の霹靂のような事件で突然この世を去ったハーヴェイ・ミルク。彼を悼むキャンドルの大行列は、絶望という闇の中で灯され徐々に広がっていった希望の灯火のようでひたすら美しかった。

[追記]
ショーン・ペンが監督した「イントゥ・ザ・ワイルド」(個人的にはすごくつまらなかったのだけど)で主役を演じたエミール・ハーシュ君が、ミルクの弟分の活動家を演じている。2人の絆の強さを観る思いだが、そうなるといっそカラミのシーンがあってもよかったな・・・と低俗なことを考える。

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