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ブレードランナーLIVE (2023/3/5渋谷bunkamuraオーチャードホールにて)

2023-03-09 23:32:00 | 映評 2013~
私、生涯で一番好きな映画は?と問われると1秒の迷いもなく『ブレードランナー』と答えます。
なにをどう贔屓目に見てもクラシック音楽と関係ない映画ですが、強いて言えば生演奏の演奏会であるところがクラシックっぽいと言えなくもないので、無理矢理は承知でここに書きます。

目次
●ブレードランナーLIVEの感想
●蛇足1 ブレードランナーサントラアルバム、ニューアメリカンオーケストラ版について
●蛇足2 ブレードランナー初心者のための公開バージョン解説

-----ブレードランナーLIVEの感想----




2023/3/5渋谷bunkamuraオーチャードホールにて
『ブレード・ランナー』(リドリー・スコット監督、1982年作品…を再編集し1992年に「最終版」と銘打たれて公開されたバージョン…をさらに再編集し2007年に公開された「ファイナルカット版」)の本編全部上映、かつヴァンゲリスによる劇伴音楽を映像に合わせて生演奏する演奏会かつ上映会になります。

生演奏って言ってもブレードランナーの音楽って全部シンセじゃなかったっけ?と思うかもしれませんが、このLIVEではヴァンゲリスのスコアを11人のミュージシャンで演奏するように編曲されたスコアを使います
キーボード3人(うち1人が指揮者兼)
パーカッション2人
バイオリン2人(うち1人がヴォーカル兼)
ヴィオラ1人
チェロ1人
ベース1人
フルート&テナーサックス1人
という編成です。
ちなみに弦楽器は全て生音ではなく、電子バイオリンや、電子ヴィオラというやつで、電子的に加工された音が奏でられ、ヴァンゲリスのオリジナルスコアに近い音が響いておりました。

色んな種類のパーカッションがずらり並んで壮観でしたが、あれはブレードランナーの作曲当時ヴァンゲリスの自宅にあったものを再現したということです。ブレードランナーの作曲作業をしていたヴァンゲリスの姿を思い描きながら聴くのも一興…
映像の変化にピタリ合わせながらの演奏でしたが、指揮者兼のキーボード奏者以外は皆スクリーンに背を向けての演奏でした。指揮者の役割が非常に重要だったわけですし、そういう意味では名指揮だったと思います。
しかし演者の皆さんいま映像で何が起こってるか分からないのはどんな気分なんでしょうね。

デッカードとレイチェルのラブシーンではテナーサックスの生音がとても艶めかしく素晴らしかったです。
あるいはゾーラを追跡しチャイナタウンを彷徨うシーンを彩るアラビア風のヴォーカルは、バイオリン奏者の1人が生歌で演じておられ、絶妙なミステリアスさを醸してくれました。パンフで知ったのですがアラビア風のヴォーカルは、アラビア語でも何語でもなく、意味のない言葉の歌詞なのだそうです。数十年ブレードランナーを愛してきて初めて知る情報でした。奥が深いですね。ブレードランナー…
そしてエンディングの、あの疾走感あふれるあの曲が11人のミュージシャンによって奏でられる4分間は怒涛の如き音の激流に飲み込まれ、気分は上がりっぱなしでした。
素晴らしい演奏をありがとう、と心から思いました。

One More Kiss, Dear も生演奏生歌で聴きたかったってのは欲張りすぎでしょうか。ま、あの曲は劇伴でなく現実音としての使われ方なので生演奏するとかえって変な感じになったでしょうけど

それから会場の大きさに比べるとスクリーンサイズが小さく感じ、できればIMAXくらいのサイズのスクリーンでやってほしかったです。

ともかく、何十回も観たブレードランナーが生演奏により、下手な3D映画よりはるかに立体的な肌触りとなって心に響いてきまして、新鮮な感動を味わいました。
演奏も圧巻!って感じで、このメンバーによるブレードランナー音楽再録のアルバムを発売して欲しいくらいです。
生演奏付き上映会…そりゃサイレント映画時代の昔は当たり前でしたが、現代においては得難い感動がありまして、他のオーケストラ生演奏上映会も行ってみたいなと思ったりしました。
E.T.の生演奏付き上映会とかきっと感動しただろうなぁ







-----蛇足1 ニューアメリカンオーケストラ版ブレードランナーサントラについて----

ブレードランナーのオケによる演奏と言えば思い出すのは、このLIVEとは別の話になりますが、80年代にリリースされた「ブレードランナーサウンドトラック・ニューアメリカンオーケストラ版」です。
そのころすでにカルト的人気作だったブレードランナーですが、ヴァンゲリスはその少し前に映画『炎のランナー』でアカデミー賞を受賞し、映画の仕事が沢山舞い込んできました。『南極物語』もその一環ですね。
ただヴァンゲリスは自分が「映画音楽家」と思われることを快しとせず、炎のランナー以降の作品はあまりサントラを発売しなかったのです。ブレードランナーも然りでした。
しかしブレードランナーファンの熱い要望に応えて発売された、誰がそんなことを思いついたのか…な珍品サントラが、ブレードランナーの楽曲をオーケストラ用にアレンジして再録した件のアルバムなわけです。
どの曲も、なんだか絶妙にダサいというかクサいというか。こんな曲なわけねーだろとファンに突っ込まれまくるような曲でした。映画だとシンセで情感たっぷりに奏でられていた「ブレードランナーブルース」が、なぜかトランペットのソロで演奏されたり。
それでも当時はブレードランナーの音楽を聴くにはそれしか選択肢がなかったので聞いていたのです。
なんだか聴いているうちにその絶妙なダサさを含めて愛するようになりました。
たしかこのオーケストラ版ブレードランナーエンドタイトルが、なんかの車のCMで使われていた記憶があります。
そんなニューアメリカンオーケストラ版ブレードランナーサントラも、いまや入手困難なレアアイテムです。
私もかつてLPで買ってカセットテープにダビングしたものをmp3に落としたものしか持っていません。買えるものならCDが欲しいなーと思います。
ちなみに90年代になってようやく映画と同じ音源によるブレードランナーサントラが発売されたのでした。

蛇足に余談ですがヴァンゲリスの音楽でも「炎のランナー」なんかはオーケストラアレンジ版にも名演が沢山ありますね。
記憶に新しいところではロンドンオリンピックの開会式でサイモン・ラトルが指揮した「炎のランナー」は、ニューアメリカンオーケストラとは全然違って、洗練された流麗な演奏でその美しさに酔いしれたものです…え?曲なんか覚えてねーよ、ミスタービーンの変顔しか記憶にねーよって?


----蛇足2 ブレードランナーの様々なバージョンの解説-----

ブレードランナー初心者のために初公開版(1982)と最終版(1992)とファイナルカット版(2007)の違いをざっくり説明します

ブレードランナーは試写の評判がすこぶる悪く「なんじゃこりゃ」「意味わからん」「もっといい終わり方ないんかい」という声が続出
心配になったプロデューサーが、全編にわたり、わかりやすくするためのナレーションをつけることにし、主演のハリソン・フォードを呼び出してナレーションの録音をしました。おそらくナレーションのセリフを書いたのは脚本にクレジットされている2人のうちの1人ハンプトン・ファンチャーではないかと思います。ドキュメンタリーでのハリソンの証言から推測です。
さらに、ハリソン・フォードとショーン・ヤングを呼び出してハッピーエンディング的な昼のドライブシーンを追加撮影しました。
このナレーションの録音と追加撮影部分を演出したのはリドリー・スコットではありません。ただしリドリーはそうした改変をすることを製作陣とのミーティングで承諾しています。
もう一つ、意味わからんと不評だった劇中のカットを一つだけ削除しました。それはピアノを弾きながらまどろんでいるデッカード(ハリソンの役名)が見る「ユニコーンの夢」です。
そうして公開されたのが初公開版です。

そこまで色々したのに映画は公開時は興行的にも批評的にも振るわず、コケたとまでは言いませんが、成功したとは言い難いものでした。
…が、しかし『ブレードランナー』は数多くの熱狂的ファンを生み出し、再上映のたびにファンが押しかけ、さらにVHSのセールスもよくレンタルビデオでも人気が出ました。

なお今でこそ評判悪いこのナレーション付き公開版ですが、私が初めてブレードランナーにノックアウトされたのはこの版でした。
中学の頃札幌のジャブ70ホールというすすきの奥の場末感ある狭い劇場でリバイバル上映を観まして、上映後外に出ると夜のすすきののネオンが2019年ロサンゼルスのように思えて「俺は元警官、元殺し屋、元ブレードランナー…」などとナレーションのセリフを口ずさんだのを覚えています。
ナレーションのセリフも、ラストシーンも私は感動しましたし、今でもたまにあえてナレーション付きバージョンを鑑賞することもあります。

初公開から数年後に「完全版」なるバージョンが発表されました。
ナレーションあり、ラストのドライブあり、ユニコーンなし…の基本的には初公開版と同じですが、映像的刺激が強いためカットされた、ロイがタイレル社長の目をつぶすカット、プリスがデッカードの鼻に指を突っ込むカットが追加されたもので、特に大きな印象の変化はありませんでした。

そして初公開から10年「最終版」
これが、セカンドインパクトでした。
「最終版」はようするに、初公開時にリドリーが本当は望まなかったものを全て取り去ったのです。いわゆるディレクターズカット版です。
つまり、ナレーションなし、ラストのドライブなし、ユニコーンありになりました。
普通は映画のディレクターズカット版と言えば「泣く泣くカットした未公開シーンを付けたバージョン」であり初公開時より長くなるものです。
しかしブレードランナーはディレクターズカット版の方が初公開版より短くなったのです。これは映画史上においても極めて稀なケースではないでしょうか。
この時私は山形で大学生でした。シネマ旭という山形市で一番大きいスクリーンで、ほぼガラガラの映画館で鑑賞し、この時すでに何十回も観た映画だったのに、初見のような感動を覚えました。
レイチェルを連れてエレベーターに入ってドアがバタンと閉まったところで、バッサリと本編が終わり、エンドクレジットに入るのもむしろ余韻をより深く感じさせた素晴らしい演出でした。初公開版だとここからラブテーマがフェードインしてきて、『シャイニング』の未使用テイクの山間部の空撮映像に続いてデッカードとレイチェルのドライブシーンに入るのです。
もう一つ、ラスト直前でデッカードが拾う、ガフが置いていったであろうユニコーンの折り紙が強い意味を持つのです。
デッカードが誰にも喋っていないユニコーンの夢をガフはなぜ知っていた?
デッカードもレプリカントではないのか?という説は初公開時からあったのですが、その節をより強く補強したのです。

だからこそ私はデッカードはなんてことなく普通に人間でした…ってことになっていた『ブレードランナー2049』は、つまらない答え合わせ映画のように思えてしまい、そこそこ面白かったのは認めますが、作らないでほしい映画でした。

そして「ファイナルカット版」です。
これは「最終版」をベースに、さらにいくつかの未使用カットをつけたり、あとデジタル技術で映像を修復したり、失敗箇所の修復を行ったものです。
例えばデッカードがヘビ屋を脅すシーンですが、どう観ても口と動きとセリフが合っていなかったのですが、それをセリフの再録音を行ってピタリと合わせています。
ハリソン・フォードはもうおじいちゃんで声も変わってしまったので、ハリソンの息子にセリフの再録をさせたと言います。
この修正は良いと思います。
ただし映像面の修正には今でも疑問を感じます。
機能停止したロイの腕から放たれた鳩が舞い上がっていくカットですが、それまでのバージョンではそのシーンは土砂降りの雨が降っているのに、鳩を見上げるショットだけ晴れているのです。
私は、あの不自然な晴れ間は、デッカードかロイの心象風景だろうと解釈していました。そこに色々なリドリー・スコットの思いを想像していたのです。
ところがファイナルカット版で鳩のカットにCGで雨が付け足されたのを観て…おいおいあれほど色々考えさせられた謎の晴れ間は単なるミスかよ!そのシーンの意味を考え続けた俺の30年を返せ!とか思いました。

では、今回はこんなところで

また素晴らしい音楽と映画でお会いしましょう


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