鑑賞からだいぶ経ってしまい申し訳ありませんが木川剛志監督のドキュメンタリー映画『Yokosuka1953』の横須賀上映に行ってきましたのでその感想をあげます。
一言で言って、最高に素晴らしい映画。未見の方、ぜひ見てください。RRRくらい強くオススメします。
2017年の「第9回商店街映画祭ALWAYS松本の夕日」にてグランプリを受賞した『替わり目』の木川剛志監督による渾身のドキュメンタリー映画。
キネマ旬報ベストテンの文化映画ベストテンで22位にランクインされた(2022年度)
実はかれこれ観るのは2回目なのですが、大きい会場で観るのは初めて。
今回、あの『Yokosuka1953 』が、横須賀で上映されるというので、これは観たい!と思って片道2時間かけていってきました。
統一地方選の真っ只中だったので、早速小泉進次郎の街頭演説に遭遇(笑
JR横須賀駅を出てすぐ目の前に見える軍艦。この地で木川洋子さんが産まれて、戦後混乱期の数奇な人生を歩んで行ったのかと思うと感慨深いものがあります。
『替わり目』を観たのはだいぶ前のこと…と思っていたけど、自分のブログを調べ返すと2017年と割と最近のことだった。
その2年後に木川さんの元に一通のFacebookメッセージが届き、長編ドキュメンタリーを撮ることになろうとは、木川さん含め誰も思わなかった。
『替わり目』はフィクションの短編映画であるが、そういえばドキュメンタリーの要素もある映画だった。
和歌山の商店街の落語家たちのドタバタなのだが、落語シーンは噺家さんの力を信じてほぼ虚飾なし、固定カメラ無編集で見せ切っていた。
話を『Yokosuka1953』に戻す
木川さんに見知らぬアメリカ人女性からメッセージが届く。
私の母の日本名はKigawaというのだが、母の母についてもしかして何か知ってますか?
みたいな趣旨のメッセージである。
普通の人なら、怪しいと思って無視するか、知りませんと答えて終わる話であるが、木川さんは話を聞き、見ず知らずの「木川」さんの母親について調べ始める。
木川洋子さん、アメリカ名バーバラ・マウントキャッスルさんは戦後の混乱期にアメリカ人の父と日本人の母のもとに婚外子として産まれ、母に育てられ後に生活に困窮した母は洋子さんを施設に入れる。当時横須賀に多くいた身寄りのない混血児のための施設で、アメリカ人により作られたもの。
母が迎えに来てくれると信じて待っていた洋子さんだが、母は来ず、1953年に横須賀でアメリカ兵と養子縁組をしてバーバラと名前が変わってアメリカに渡る。
しかしアメリカで幸せな生活が待っていたわけではなかった。虐待され、学校ではジャップと言われいじめられ…
それでも生きぬいたバーバラさんは結婚して子供を産み、孫にも恵まれ、ようやく幸せになれた。
そんなバーバラさんの娘がなんとか祖母の消息を探ろうと、FacebookでたくさんのKigawaさんにメッセージを送ったのだ。
木川さんも上映後のトークで言っていたが、たくさんの偶然がこの映画を作っている。
TANAKAやSUSUZUKIならまずこのような物語は成立しなかっただろう
KIGAWAという珍しすぎるほどでもないが考えてみると知り合いにいないくらいの絶妙なやや珍しい苗字であること。
そのたまたま投げたメッセージを受け取ったKIGAWAさんが大学の講師で映画監督で観光映像大賞を運営に関わるようなドキュメンタリー肌の人だったこと
まだ映画にしようともなんとも思っていなかった頃にきちんとカメラを回していたことだ。監督自身のカメラだから全部主観映像だし、音声は悪いし、でもそんなことも含めて、「たまたま撮っていた映像」感が数々の奇跡で産まれた本作をより魅力的にしている。映画は見た目じゃない。つくづく思う。
(誰とは言わんが、カラコレもしてない映画なんか観る気もしない、なんて言う奴に限って、見た目いいだけのくだらない映画をほめちぎるポンコツバカだったりするものだ)
他にも映画を観ていると、え?そんなことあるの?と思ってしまうような偶然というか映画の奇跡と呼びたいようなことがたくさん起こる。
劇映画の脚本ならご都合主義と批判されそうな、でもガチリアルな偶然が記録映画にストーリーを与えサプライズを与え感動を与え、そして強い社会性を与え、歴史の証言者となる。
バーバラさんの過去を追うことで見えてくるのは戦後政治の闇である。
米軍から米兵のための夜の歓楽街を作れと言われ、言われた通りに作る当時の日本政府。
その政策がたくさんの不幸な子供を生み、そうした子供らのための施設は見かねた心優しいアメリカ人によって作られていた。
アメリカが悪い、日本が悪い、と言いたい部分もあるけれど、戦争は終わってからも人を不幸にする国家が行う最大の愚行だと、やはりそう思うのである。いざって時に戦争できるようにしようと、そればかり自公政権は言うけれど、まずその前に戦争にならないような努力をすべきではないか。
映画はバーバラさんを日本に呼ぶために行ったクラウドファンディングのことも描いている。日本という国から何もされなかったバーバラ=洋子さんをせめて日本人のお金で日本に帰省させたかったという木川さんの思いが素晴らしい。
そして何よりもこの映画を素晴らしいものにしているのは、洋子=バーバラさんのお人柄である。
お年を召されたバーバラさんは、誰もを愛し、誰からも愛されているのではと思える。
もし母に何か言葉をかけれるとしたら何を言いたいか?という質問に対して、実にシンプルな答えをする。「I'm O.K.」と言いたいと。
あれだけ辛い人生を送ったのにまだ母親を気遣うことのできるバーバラさんのその一言に涙腺が緩む。
映画の中でバーバラさんは、母と過ごした横須賀の景色を見て、街の匂いをかぎ、母を知る人と喋り、話を聞き、ハグして、そしてかつて母が作っていたものと同じ作り方だというパンを食べる。五感の全てで今は亡き母を感じていた。
木川監督が意図したかしてないかはわからないが、全身で母を感じてもらおうという監督の優しい思いがそうした映像に結実しているのだろうと思う。
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『Yokosuka1953』
監督・脚本・撮影 木川剛志
出演 バーバラ・マウントキャッスル、木川剛志、津田寛治(ナレーション)
2023/4/22 横須賀市文化会館にて鑑賞
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