自主映画制作工房Stud!o Yunfat 改め ALIQOUI film 映評のページ

映画作りの糧とすべく劇場鑑賞作品中心にネタバレ徹底分析
映画ブロガーら有志23名による「10年代映画ベストテン」発表!

追悼 佐藤純彌監督

2019-02-17 19:17:02 | 映画人についての特集
佐藤純彌監督が亡くなられた

実はつい先日ジョン・ウーの「マンハント」を観てそのリメイク元である佐藤純彌監督「君よ憤怒の河を渡れ」も観ようかと思ってた矢先のことであった。
90年代、未見だが「北京原人WHO ARE
YOU」という作品が一部でも超とんでも映画としてネタになったことがあった。いつかその通称「ペキフー」も見てみたい

数々の商業主義にまみれた映画を手掛けながら、ただの雇われ監督としてではなく、明確に深すぎる爪痕を残してこられた佐藤純彌監督
作品の思い出を語るとつい、バカにしたみたいな言葉ばかり出てしまうのだが、私は佐藤純彌監督作品をジョン・ウー作品と同じくらいに愛していた。「君よ憤怒の河を渡れ」の感想は後日にちゃんと鑑賞してから「マンハント」とともにあげることにして、とりあえず、私が観た佐藤純彌監督全作品の感想を改めて列挙する。

ありがとうございました。佐藤純彌監督。ご冥福をお祈りいたします。

-----

「ゴルゴ13」
高倉健主演版
ほかに実写劇場版には千葉真一主演版もあるが、それは佐藤監督ではない(ただし映画としては千葉版の方がずっと面白い)
テーマ曲が女性コーラスで「ゴルゴー」ってくるのがウケる
高倉健演じるデューク東郷は意外にもビジュアル的にはかなりそれっぽいのだが、口調が健さんなのは仕方ないか。
オールイランロケで健さん以外全員イラン人キャストなのはいいのだが、いかにも吹き替えなイラン人の声優芝居と健さんの芝居がミスマッチ。アクション的見せ場も乏しく脚本もさほどひねりなく、ちょっと残念な作品。
ところでこの映画の公開年度は1973年。革命前のイランで、西側国家と良好な関係を保っていた頃だ(それがイラン国民にとって良好であったとは言えないが…)。
なぜその話を持ち出したかというと、ベン・アフレックが監督主演しアカデミー作品賞を受賞した「アルゴ」に絡めたくて。
「アルゴ」は1979年のイラン革命の際にアメリカ大使館職員を助け出すため「アルゴ」という映画制作をでっち上げて映画撮影隊と称してイランに潜入するという実話に基づいた話だった。
もしも佐藤監督のゴルゴ13がなんらかの手違いで撮影開始が6年ほど遅れていたら…いまごろベン・アフレックのオスカー受賞作のタイトルは「アルゴ」でなく「ゴルゴ」になっていたかもしれない。おしかったなー

「新幹線大爆破」

佐藤純彌監督の代表作にして最高傑作どころか、日本映画史に残る犯罪映画の傑作である。
健さんが演じるのは寡黙な犯罪者。そういえば健さんに寡黙な人情家という側面を持たせたのは山田洋次監督や降旗康雄監督の功績だが、佐藤純彌監督はゴルゴといいこれといい、寡黙な犯罪者として健さんを使う。「野生の証明」も影のある元軍人だし、アウトローとしての健さんの魅力を掘り下げていった監督かもしれない(もちろんアウトロー健さんは任侠映画イメージの延長でしかないのかもしれないが)
ともあれ、冷酷でもない、根っからの悪人とは思えない、だが極めてクールに新幹線爆弾による恐喝事件を進めていく健さんは犯罪者であるにもかかわらずしびれるほどカッコよかった。
この映画の説明台詞は事件そのものに対する説明であって、登場人物の心情や過去に対する説明は極力廃しているのが素晴らしいと思うし、その辺のシナリオの上手さは今においてもなお、というか、今だからなお見習うべきところがたくさんあると思う。
後に「ある一定のスピード以下になると爆発する爆弾」というアイデアをハリウッドが頂戴してキアヌ・リーブス主演の「スピード」として大ヒットを呼んだ。「スピード」はバスに爆弾が仕掛けられる話だったけど、そういえば終盤で地下鉄が爆発するミニチュア特撮があったのはもしかすると「新幹線大爆破」へののオマージュか

「人間の証明」
後述する「野性の証明」を映研メンバーと大爆笑激アツ鑑賞会したあとに見たので、当然そういうのを期待してしまい、あれれ、なんか普通の映画だぞ?と肩透かしを食らってしまった。
実際の制作順で言えば「人間」77年→「野性」78年なので、野性の証明と違うなーって感想は的外れもいいとこなのだが
「男たちの挽歌」で言えば先に2を観てから1を観たような不幸な鑑賞順になってしまった。そんなんであまり印象に残っておらず、いつか再見し再評価したい。

「野性の証明」

2000年代の初め頃、80年代の角川映画に猛烈にはまってしまった時期があり「魔界転生」「戦国自衛隊」「セーラー服と機関銃」など笑って笑って楽しんでいたころ、山形大学映研OBで集まって酒飲みながらの深夜の映画鑑賞会を開催した際に見た真打ち登場感半端ない映画。角川映画の良いところもダメなところも全てが10倍増しされたような無茶苦茶な映画で、特に後半の高倉健と松方弘樹率いる特殊部隊との戦いの間などは爆笑が途絶えることがなく、そのくせ何故かラストで泣いてしまうという(いつだか山崎貴監督が「笑うと心が開くので泣きやすくなる」と仰っているのを聞いてなるほどあの時の涙はそういうことか!と心密かに納得したものだ)そんなウルトラCを決める超無駄な超大作。日本バカ映画史に燦然と輝く奇跡の作品だ。
「新幹線大爆破」が佐藤純彌監督の最高傑作であることに異論はないが、「野性の証明」の方が佐藤監督の持ち味がある意味最大限に発揮された作品ではないかと思う。しかしこの映画は記憶にな残らない、使い捨てな感じ、ジャンクフード的なカラッとした感じ(つまりいかにもなカドカワ映画っぽさ)がまたいいと思う

「おろしや国酔夢譚」

映画としては悪くもないが、特別すごい傑作ってほどでもない。けれど個人的な記憶としてはすごく残っている。
この映画は私が唯一、父親と2人で観に行った映画だ。当時は大学1年で、山形から札幌に久しぶりに帰省した。たしか父の方から映画に行こうと言ってきたと記憶している。
敬虔な共産党員だった父は、たとえ帝政時代の話であろうとも「ロシア」というキーワードは引っかかるものがあったのだと思われる。
映画が終わった後で父とビールを飲んだ。
健さんなみに口数少ない父親なので大した話もなく、なんとなく居心地悪い感があったが、思えば父とサシで飲んだのはこの時だけだ。
映画のラストは長いロシアぐらしの末についに帰国を許された主人公(緒形拳)が日本に帰るが、日本国(江戸幕府のころ)は彼を犯罪者として捕まえる。この切なさはしっかりと胸に染みている。
緒形拳の帰国の地はたしか国後か択捉か、ともかく千島列島のどこかだ。
今安倍政権は四島変換の方針すら捨て2島返還くらいで手打ちにしようとしているがロシアに気を使い固有の領土という表現を禁じるようになった。ロシアは2島すら返さないだろう。ロシアには領土を、トランプにはノーベル平和賞に推薦という、露骨なおべんちゃら外交を続ける安倍政権を、おろしや国酔夢譚の主人公や、私の父が今生きていたらなんと言うだろうか
と、父の話してるとつい政権批判したくなるのだった。

「私を抱いてそしてキスして」
大学1年の時に、きちんと映画館で観た。
当時はなんでも観る学生だった。
エイズを題材にした説教くさい泣かせ映画だが、でもちゃんと泣いた。
泣かせ映画としてはキチンとツボを押さえて作られていた。

「男たちの大和」
ヒットもしたし、キネ旬ベストテンにも入るなど久々に佐藤純彌監督が興行的にも批評的にも成功した作品となった。
ただ私としては色々微妙な映画だった。
別に戦争賛美という映画でもないし(私は戦争は嫌いで9条護憲派な人間だが、映画はたとえ戦争賛美であっても面白ければ評価する人間…のつもりだ。例えば「二百三高地」なんかは実はかなり好きな映画だ)、戦闘シーンの描写もそれなりに力が入っているし、でも結局泣かせ方がうまくなかったというか、ドラマで泣かせることをやろうとしすぎて失敗してた気がする。佐藤監督は新幹線大爆破のように淡々と事件を追う方があっているのだ。変に「広島で待ってるわ」などと言う女性をわざわさ2人も出して、泣かせようとするのがミエミエで、ひたすら人が死ぬ様を大和が沈むまで淡々と見せていく方が良かったのではと思う。
大和も引きのショットが少ないので、それは戦場を体験させたい狙いだったかもしれんけど、だとするとプライベートライアン以降の戦争映画としてはドキュメンタリータッチ戦場シーンは弱すぎた。
久石譲という作曲家は基本的にはあまり好きじゃないのだけど、この映画の音楽は良かったと思う。
長渕剛の主題歌「クローズユアアイズ〜瞳をとじて〜」ってのが、当時は閉じるのは瞳じゃなくて瞼だと突っ込まれてたっけ。(世界の中心で愛を叫ぶの時から言われてた事だが)

----
そんなこんなで佐藤純彌監督と数々の傑作、珍作にありがとうございました!
コメント (4)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 追悼 リンゴ・ラム | トップ | ともしび 【監督:アンドレア... »
最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (kossy)
2019-02-17 21:38:16
亡くなられたのですね!
今知りました。
俺は『野性の証明』が大好きで、当時たまたま試写会が当たり、監督と薬師丸さんの舞台挨拶だったかを観ました。
金沢ロケも多く、マイオールタイムベスト20辺りに食い込んでいます。まだリストアップさえしてませんが…
北京原人は女優のヌードだけしか印象に残ってないです。
『君よ憤怒の』も好きなのですが、今観るとお粗末過ぎて笑ってしまうこと確実です。当時はボディダブルという言葉も知らず、中野良子のヌードに興奮しました😅
返信する
霧積イコールキスミー、ストローハットイコールストーハ、 (うぼで)
2019-02-17 23:16:58
佐藤監督の訃報今日知りました。洋画を観ている様な気分にさせてくれる作品群を作られてましたね。機会があれば再見してみたいです。ごゆっくりお休み下さい(-.-)Zzz・・・・。
返信する
Unknown (studioyunfat)
2019-02-18 00:04:11
うぼで様
そうですね、妙なスケール大きい感あって洋画みたいっていうの納得です
安らかに…
返信する
Unknown (studioyunfat)
2019-02-18 00:08:29
kossy様
野性の証明、私だって大好きですよ。記事ではちょっと茶化してる感ありますが愛してる映画です
薬師丸さん、可愛かったですよね
舘ひろしもかなり高ポイントでした

野生と野性の違いご指摘ありがとうございました
修正しました
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

映画人についての特集」カテゴリの最新記事