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男たちの挽歌2 映評 <第二章 レスリー(キット)編>

2006-09-16 22:13:27 | チョウ・ユンファ
挽歌2 レスリーの初登場シーン

<2-I レスリーよ永遠に>
2003年4月・・・
香港映画ファンたちに衝撃的なニュースが伝えられた
「レスリー死す!!」
「遺書を残して自殺」
「これから毎年レスリーの命日には肉を食べないわ。byマギー・チャン」

…多少、意味不明な報道も混じっていたが、多くの香港映画ファン、中華圏映画ファンが、悲しみにくれた。
その一方でこのニュースは挽歌ファンの試金石でもあった。
この悲報を聞いたとき、最初にレスリーの歌う切ない系バラード「奔向未来日子」が頭の中で自然と鳴り響き、電話ボックスの中ユンファに抱かれている姿を思い浮かべ、さらにホーさんの気分になって救急車に轢かれそうになるほど茫然自失状態になれば完璧な挽歌ファンだった。もちろん黒スーツを来てレスリーの遺影に別れを告げた後おもむろにサブマシンガンを持ち出し外に出て行けばもっと完璧である。


あの悲報を聞き、「欲望の翼」のラストや、「さらばわが愛」のラストが思い浮かぶようじゃただの映画ファンであり「挽歌ファン」ではない。
(それにしてもレスリーという男は、多くの映画で多くの監督たちによって好んで殺されてきた男である)

アイドル歌手として香港ポップス界を順風満帆に駆け上り、俳優転進で「挽歌1」では荒削りとか雑とか大根とか言われつつも「欲望の翼」で見事に演技派転向完了。カンヌ狙いのアート作品からヒット狙いのアクション・コメディと何でもこなせてイケメンで歌も上手いまさにスーパースターだったレスリー。
一方でベビーフェイスがたたって青二才役に甘んじ、自分を肉体的に傷つけ精神的に追い込むことでしか心情を表現できず、いつしか傷つく自分に酔いしれる倒錯的ナルシストへと変化。
挽歌2のレスリーの演技は1とは比べ物にならないほどリアルかつ熱い。ちょうど演技派への転向過程のころ撮られた作品であり、青二才でマゾでナルという彼の個性の全てが発揮された80年代レスリーの代表作と言っていい。
ちなみに90年代は青二才から大物への変貌期と位置づけることができ、同時にノーマルからゲイへの転向期とも位置づけることができる。
レスリーとウーが組んだ三作品は全部80年代に撮られ、レスリーは全部“弟”役で、全部かわいい恋人が設定されていた。ようするにアイドルとして女性ファン獲得のため、ノーマルなイケメンという役回りでしかウーに使われていない。
しかし過剰な友情描写、宿敵描写にホモセクシャルの匂いを感じないでもないウー作品に、晩年のレスリーが起用されていれば、異様に色っぽく艶っぽい新しいアクション映画へと昇華していったのでは・・・と少々残念な気がしないでもない。

<2-II レスリー節全開のマゾナルシーン>
挽歌1&2において、ティ・ロンやユンファは銃弾を浴び、ボコボコに蹴られ殴られても、決して病院へ行こうとしない。必死の形相で痛みを堪えながら反撃したり怒鳴ったり仲間を助けたりする。
それに比べてレスリーは、挽歌1&2で3回も病院に担ぎ込まれる(しかも3回目は手遅れ・・・)。だがこの3回の病院送りで彼が喰らったのは銃弾4発だけである(しかもその内2発はホーが撃ったもので明らかに急所を外している)。

もちろん、銃弾1発でも喰らったら病院に担ぎ込まれる、というのは当然のことだ。だがホーやマークの鬼神のような戦いを観ていると、ついついキットがとても弱っちく見えるし、ホーがシリーズ2作目になってもまだキットを子供扱いする理由もよく判る(ホーさん、あんたが化け物なんだよ)。

しかし、この挽歌シリーズ恒例のレスリー病院送り/手術シーンは、はたして「まだまだ子供な弟を心配する兄貴」を描くためだけに用意されたのだろうか?

挽歌1の場合はそれだけの理由と考えて差し支えないだろう。そうじゃないように感じるのは挽歌2のレスリーERシーンである。別に根拠はない。
挽歌2のころレスリーは自分の演技が作品を重ねるたびにめきめきと上手くなっていったことを実感していたハズだ。人気も実力も上がり気力も充実していた彼は、こう思ったのではないか?
・・・・この美しい顔が青白くなり、紅い血が口や傷口からどくどくと溢れている・・・これこそ美だよ!!
あるいは
・・・・最期の時を迎え、ぜいぜい喘ぎながら、友に抱かれ、愛する妻と子供を思う・・・そんな演技をしてみたい!!
いかにもナルシストなレスリーの考えそうな事じゃないか
さらに、レスリーは要するに病院フェチなのでは・・・っていうか手術されたり、撃たれたり、ぶん殴られたりすることで恍惚を覚えるタイプなのでは・・・?

挽歌2では、「ホー、キットを撃つ」のエピソードの前半部分、妙に長くレスリーが黒めがねの悪人にボコボコにされるシーンがある。挽歌1でもマークがシンにボコボコにされる異様に長いシーンがあったが、挽歌2の頃の監督としてある程度成熟してきたウーが同じ様なことをするだろうか(あ、しそうだね)

そしてホーに撃たれた時のキットの吹っ飛び方が、なんか楽しそうに見えるのは気のせいだろうか?

そして挽歌レギュラー一番のイケメンである誇りを胸に、自分で自分を演出しまくったような、絶命シーン。
黒めがね殺し屋に致命傷の一発を浴び、ケンに助けられ、子供を産んだばかりの妻ジャッキーの待つ病院に向かう。
しかし、病院に付くまで保たないと悟ったレスリーは電話をかけさせろとケンに頼む
ケンに抱かれながら、ジャッキーに電話するキット
キット  「女房よ 男か? 女か?」←このとき口から垂れる血は一筋
ジャッキー「女よ」
キット  (ケンに)「女だって」(電話に)「体重は?」
ジャッキー「2800グラム かわいいの」
キット  (ケンに)「2800グラムだよ。小さくない」←このとき口から垂れる血は三筋
ケン   「俺と兄きは未熟児で生まれた」
キット  「どっち似だ?」
ジャッキー「私よ でも目はあなたね」
キット  (ケンに)「とてもかわいくて、目は僕に似てる」
ケン   「父親がハンサムだ」←そう聞いてキットにやりと笑う
~中略~
キット  「僕はとても幸せだ」
ジャッキー「そんなに会いたければ早く来るのよ」
キット  「今行くよ」←主題歌がかかりはじめる。キットの意識が薄れ体が沈んでいく
ジャッキー「名前をつけてないわ」
ケン   「キット 名前はまだ考えてないのか?」
キット  (ケンに)「スン・・ホー・インだ」←ついに力つき、ばったりと倒れる。そして主題歌は前奏が終りレスリーのボーカルが聞こえてくる



友の腕の中で、傷つき血の気を失い、それでも妻と子供を思って、力つきる
嘘みたいにかっこ良すぎる自らの死を、しかも、自らの歌で彩っている。
こいつ、絶対に陶酔してる。
ねえ、ユンファさん、今の倒れ方美しかった?・・・とか聞いてる姿が想像できる。

陶酔しながら死んでしまうこのシーン・・・ひょっとして2003年4月の悲劇はこの時始まっていたのでは・・・
そう思うと、様々な思いが交錯し、胸かきむしりたくなる、挽歌2名シーンの一つである(いや観るたび笑ってますよ。)

<2-II その他、レスリー的にチェックのシーン>
中盤のアクションシーン
挽歌1&2通して、唯一の、ユンファもティ・ロンもなしで、レスリーがソロで暴れ回るアクションシーン。
スローモーションで華麗に回転しながら、無表情で次々と悪人たちを射殺していく。

音楽は、あの挽歌テーマ(主にユンファ活躍の時にかかることが多かった曲)が、ここではレスリーだけのために鳴り響く。
このシーンを観る限りレスリーは、ジョン・ウー組として完璧なパフォーマンスをしている。しかし、レスリーとウーのコラボはこの後「狼たちの絆」で終了してしまう。レスリーが俳優業を一時離れている頃、ウーはトニー・レオンを気に入って使い、レスリーが俳優復帰したころにはウーはハリウッドへ渡ってしまったのだ。

挽歌シリーズといえばキットの妻ジャッキーを演じたエミリー・チュウも重要だ。

他、何に出てるのか知らないが、「挽歌のジャッキー」で充分すぎるほど映画界に貢献している。
挽歌シリーズに関して、女性をないがしろにしすぎる、という批判を聞いた事がある。もちろんその批判の矛先はジャッキーより任務が大事、任務と称して女の子といちゃいちゃ(まんざらでもない)、出産にも立ち会わないばかりかそのまま死んでしまうレスリーに向けられているものと思われる。
たしかにジャッキーは観ていて哀れなくらいだが、ロマンチストで女のリアルなど考えないジョン・ウーと、自分が美しくなることが第一のレスリーは、特に救済も希望も与えず、ジャッキーを冷たく突き放す。
ま、考えてみればキットの死こそ、ジャッキーへのお詫びだったのかもしれない。ホーやケンがいる限りキットに平安など訪れる筈はないのだから
いまごろジャッキーはもっと家庭を大事にする男と再婚し、ジャッキー似のスン・ホー・インちゃんも今頃は20歳くらいだから、はじけるほどの美しい娘になっているだろう。父と叔父と叔父の親友がクレージーな乱撃バトルを繰り広げていたことなど知りもせずに、青春を謳歌していることだろう・・・

それから、レスリーvs黒めがね
一瞬レスリーの脳裏をよぎる流れ星のイメージ映像がかなり笑えるのだが、緊迫感あり、作品中でも白眉のシーンだ。黒めがねはレスリーが振り返り撃ってくるまでけして撃たない。そしてその時がきたら一発だけ撃つ。勝負に勝ったらとどめはささない。

しかし、シナリオのセオリーからいけば、この黒めがねは弟思いの兄、ホーとの対決で敗れるべきだったのではなかろうか。
黒めがねはホーではなくケンに対決をしかけ、敗れ去るのである。まあ、ここはユンファだから成し得た世界トップクラスの対決シーンになったので、良しとする。

<2-III 挽歌2 主題歌『奔向未来日子』>


今日のことは聞かないでくれ
お前には知る必要もない
これでいいのか
判断できない
知りたがっても意味ないことさ

僕の人生のことは聞かないでくれ
過去の話など語る必要もない
愛があってもなくてもね
何も聞かないで
僕を気にしたり理解したがるな

涙も言葉も要らない
ほとばしる血潮もだれのためか
僕らはお互い未来に向かって
よりよい明日を探していたのに

悲しいことはもう聞かないで
言葉にする必要もない
あの時も あの事も
仕方なかった
内輪の話は誰も知らない
永遠の秘密だよ


レスリーが自らの命を立つ時、この歌が頭をよぎったのだろうか?

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『男たちの挽歌2』出演者別映評
<序章 デジタルリマスター版を批判する>
<第一章 ティ・ロン(ホーさん)編>
<第二章 レスリー(キット)編>
<第三章 ディーン・セク(ルンさん)編>
<第四章 ユンファ(ケン)編の前編>
<第四章 ユンファ(ケン)編の後編>

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2 コメント

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お待ちしてます ()
2006-05-20 21:39:06
挽歌への強い思い入れに感動しつつ読ませていただきました。次回のUPを首を長くしてお待ちしてます。
返信する
コメントどうもです (しん)
2006-06-03 10:14:35
>kさま



写真いっぱい使う記事は書くのが大変で、なかなか先に進めません。キリンの様にくびを長くしてお待ちください。
返信する

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