[台湾に行くホー]
映画は序盤部のクライマックスへ
台湾へ最後の仕事と向かう前に、ホーは、モジモジ君みたいなかっこのキットとまた兄弟じゃれあいをして、軽く笑わせる。
ともかく舞台は台湾へ。
ホーとシンは取引相手に裏切られ、壮絶な銃撃戦が始まってしまう。
音楽なし、お得意のスローモーもなしで、クールにリアリズムに徹して淡々と描写され銃撃戦。
この銃撃戦シーンは、後年のジョン・ウーほどスタイリッシュになりきっておらず、むしろ70年代のアメリカ刑事アクションを髣髴とさせる。
サム・ペキンパーに強く影響を受けたジョン・ウーであるから、ペキンパーと同時代に活躍した監督たち、ドン・シーゲル、ウィリアム・フリードキン、ジョン・フランケンハイマーらの影響を受けていたとしても別におかしい話ではない。
とはいえ、単にドンパチするだけのシーンではなく、ちゃんとアクションの中で、ホーの性格設定が活かされている。
修羅場慣れしていて危険を察知しているところ、いざ銃撃が始まるや、仲間のためなら自らが傷つくことも厭わず、体をはって助けようとするところなどもさり気なく描き、ホーへの感情移入を導く。アクションシーンてアクションしか描かない最近のハリウッド映画に見習って欲しい上手さだ。
ジョン・ウーは挽歌以前にも香港で何本かの映画を撮ってきた。カンフーものやコメディものなどであるが、自分は「挽歌」以前の作品はほとんど見ていない。ただ本によると、どれもヒットはせず、香港の映画会社ともめたりもして、2年ほど台湾で映画制作を続けたらしい。そしてツイ・ハークの招きで香港にもどり、台湾での苦渋の時代に温めてきたアクション映画の企画をツイ・ハークにもちかけて撮ったのが「挽歌」である。
台湾で三年間服役し香港に戻るホーに、ジョン・ウーは自分自身の姿を投影していたのではなかろうか。
顔も似ている。
[ホーと台湾の警部役のジョン・ウーのツー・ショット]
そうなると、ホーの帰還を三年待ち続け、巻き返そうと訴えるマークに、ツイ・ハークの姿をダブらせることもできる。
ユンファはジョン・ウーの憧れのヒーローであって、ウーの分身ではない。
「挽歌」シリーズでのウーの分身は優しさあふれるホーさん。
ウーの自伝的要素が強いといわれる「ワイルド・ブリット」でも主役はユンファではなく、もっと落ち着いた印象の俳優トニー・レオンに任せている。
[父を狙う殺し屋vsキット]
台湾でのアクションと並行して香港でのアクションが描かれる。
ホーの取引失敗をうけて、警察に全て喋られると困ると判断した組織は、ホーの父を人質にしようと考える。
父を連れ去ろうと組織の一員が来たそこに、運悪くキットとジャッキーが居合わせる。
組織の男(殺しのプロと思われる)と、青二才のキットではまるで相手にならない。レスリーの演技は褒められたものではないが、逆にがむしゃらにパンチを振り回すだけの青臭さを感じさせて悪くはない。
また既に述べたように、ジャッキーのアクションが見れる唯一のシーンである。一度は包丁を振りかざすも刺すのを躊躇い、刺客にぶん殴られる。だがその後キットが殺されそうになるのを見て、ついに包丁を刺客の背中に突き刺す・・・と、荒唐無稽にならないよう、じっくりと練られた脚本であることが判る。
殺し屋が来る前にジャッキーが鍋に火をかけるさり気ない描写も、後で反撃のアイテムに使う伏線とするところも丁寧だ。
しかしこのシーンも後年のジョン・ウーのようなスタイリッシュさは皆無。包丁が突き刺さる部分アップ、殴られ流血した顔のアップ、香港風のややオーバーアクト気味な演技など、ハリウッドのこなれたアクションに慣れた観客には、香港風のサーピス過多な演出には引いてしまうかもしれない。
だが、キットはボコボコにされ、三人がかりでなりふり構わずガムシャラに戦って刺客を仕留め、そして父は死んでしまうという悲壮感溢れるシーンは、心に強く残る。そして何より次の名シーンへのタメとしてこの悲壮さは重要だったろう。
悲壮感を強調する演出としての効果音の使い方も特筆したい。
このシーンの後半からは、室内だというのに何故か風の吹きぬける「ヒュウウウウ」という音がひっきりなしに鳴り響く。
キットの心にあいた穴を吹き抜けるような風の音は、悲壮感を増幅させる。
同じ風の音は、映画のラストシーンでも、悲壮感を盛り上げるため使われるが、ラストは同時に兄弟の和解のシーンでもある。兄への憎しみが始まるシーンと、兄を許すシーンとで同じ音を使うところに、ジョン・ウーの計算が感じられる。
[そしてマークも台湾へ・・・あの名シーンの序章]
そして、舞台は再び台湾へ。
ホーは仲間をかばうため、警察に投降。弟分のシンはなんとか逃げ延びる。
そしてホーを追って台湾に来たマークは、ホー逮捕のニュースを新聞でよみ、ハラリと新聞を落とす。
この新聞の落とし方がなんかやけにわざとらしくて、つい笑ってしまうのだが、続いてかかる挽歌テーマのフルートソロの寂しげなアレンジと、踏み切りを1人寂しくわたるマークの姿に、友を失ったマークの喪失感が漂い、心に染みる。
マークは台湾の組織からホーを売った裏切り者の居場所を聞き、たった一人で、裏切り者が宴会をしている楓林閣へと向かう。
さて、いよいよあの名シーンだ。ちょいと長くなってきたので、あのシーンについては別記事でたっぷりと解説する。
******
[男たちの挽歌 映評一覧]
[男たちの挽歌 映評 第一部] 作品概論と、オープニングについて
[男たちの挽歌 映評 第二部] ホーとキットについて、エミリー・チュウのこと、ユンファ屈辱について熱く語る・・・など
[男たちの挽歌 映評 第三部] 台湾でのアクションシーン、台湾でのジョン・ウーの苦渋時代の投影について、キットと父を狙う殺し屋との泥臭い対決など . . .
[男たちの挽歌 映評 第四部] 映画史もの名シーン・楓林閣大銃撃戦 について
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映画は序盤部のクライマックスへ
台湾へ最後の仕事と向かう前に、ホーは、モジモジ君みたいなかっこのキットとまた兄弟じゃれあいをして、軽く笑わせる。
ともかく舞台は台湾へ。
ホーとシンは取引相手に裏切られ、壮絶な銃撃戦が始まってしまう。
音楽なし、お得意のスローモーもなしで、クールにリアリズムに徹して淡々と描写され銃撃戦。
この銃撃戦シーンは、後年のジョン・ウーほどスタイリッシュになりきっておらず、むしろ70年代のアメリカ刑事アクションを髣髴とさせる。
サム・ペキンパーに強く影響を受けたジョン・ウーであるから、ペキンパーと同時代に活躍した監督たち、ドン・シーゲル、ウィリアム・フリードキン、ジョン・フランケンハイマーらの影響を受けていたとしても別におかしい話ではない。
とはいえ、単にドンパチするだけのシーンではなく、ちゃんとアクションの中で、ホーの性格設定が活かされている。
修羅場慣れしていて危険を察知しているところ、いざ銃撃が始まるや、仲間のためなら自らが傷つくことも厭わず、体をはって助けようとするところなどもさり気なく描き、ホーへの感情移入を導く。アクションシーンてアクションしか描かない最近のハリウッド映画に見習って欲しい上手さだ。
ジョン・ウーは挽歌以前にも香港で何本かの映画を撮ってきた。カンフーものやコメディものなどであるが、自分は「挽歌」以前の作品はほとんど見ていない。ただ本によると、どれもヒットはせず、香港の映画会社ともめたりもして、2年ほど台湾で映画制作を続けたらしい。そしてツイ・ハークの招きで香港にもどり、台湾での苦渋の時代に温めてきたアクション映画の企画をツイ・ハークにもちかけて撮ったのが「挽歌」である。
台湾で三年間服役し香港に戻るホーに、ジョン・ウーは自分自身の姿を投影していたのではなかろうか。
顔も似ている。
[ホーと台湾の警部役のジョン・ウーのツー・ショット]
そうなると、ホーの帰還を三年待ち続け、巻き返そうと訴えるマークに、ツイ・ハークの姿をダブらせることもできる。
ユンファはジョン・ウーの憧れのヒーローであって、ウーの分身ではない。
「挽歌」シリーズでのウーの分身は優しさあふれるホーさん。
ウーの自伝的要素が強いといわれる「ワイルド・ブリット」でも主役はユンファではなく、もっと落ち着いた印象の俳優トニー・レオンに任せている。
[父を狙う殺し屋vsキット]
台湾でのアクションと並行して香港でのアクションが描かれる。
ホーの取引失敗をうけて、警察に全て喋られると困ると判断した組織は、ホーの父を人質にしようと考える。
父を連れ去ろうと組織の一員が来たそこに、運悪くキットとジャッキーが居合わせる。
組織の男(殺しのプロと思われる)と、青二才のキットではまるで相手にならない。レスリーの演技は褒められたものではないが、逆にがむしゃらにパンチを振り回すだけの青臭さを感じさせて悪くはない。
また既に述べたように、ジャッキーのアクションが見れる唯一のシーンである。一度は包丁を振りかざすも刺すのを躊躇い、刺客にぶん殴られる。だがその後キットが殺されそうになるのを見て、ついに包丁を刺客の背中に突き刺す・・・と、荒唐無稽にならないよう、じっくりと練られた脚本であることが判る。
殺し屋が来る前にジャッキーが鍋に火をかけるさり気ない描写も、後で反撃のアイテムに使う伏線とするところも丁寧だ。
しかしこのシーンも後年のジョン・ウーのようなスタイリッシュさは皆無。包丁が突き刺さる部分アップ、殴られ流血した顔のアップ、香港風のややオーバーアクト気味な演技など、ハリウッドのこなれたアクションに慣れた観客には、香港風のサーピス過多な演出には引いてしまうかもしれない。
だが、キットはボコボコにされ、三人がかりでなりふり構わずガムシャラに戦って刺客を仕留め、そして父は死んでしまうという悲壮感溢れるシーンは、心に強く残る。そして何より次の名シーンへのタメとしてこの悲壮さは重要だったろう。
悲壮感を強調する演出としての効果音の使い方も特筆したい。
このシーンの後半からは、室内だというのに何故か風の吹きぬける「ヒュウウウウ」という音がひっきりなしに鳴り響く。
キットの心にあいた穴を吹き抜けるような風の音は、悲壮感を増幅させる。
同じ風の音は、映画のラストシーンでも、悲壮感を盛り上げるため使われるが、ラストは同時に兄弟の和解のシーンでもある。兄への憎しみが始まるシーンと、兄を許すシーンとで同じ音を使うところに、ジョン・ウーの計算が感じられる。
[そしてマークも台湾へ・・・あの名シーンの序章]
そして、舞台は再び台湾へ。
ホーは仲間をかばうため、警察に投降。弟分のシンはなんとか逃げ延びる。
そしてホーを追って台湾に来たマークは、ホー逮捕のニュースを新聞でよみ、ハラリと新聞を落とす。
この新聞の落とし方がなんかやけにわざとらしくて、つい笑ってしまうのだが、続いてかかる挽歌テーマのフルートソロの寂しげなアレンジと、踏み切りを1人寂しくわたるマークの姿に、友を失ったマークの喪失感が漂い、心に染みる。
マークは台湾の組織からホーを売った裏切り者の居場所を聞き、たった一人で、裏切り者が宴会をしている楓林閣へと向かう。
さて、いよいよあの名シーンだ。ちょいと長くなってきたので、あのシーンについては別記事でたっぷりと解説する。
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[男たちの挽歌 映評 第一部] 作品概論と、オープニングについて
[男たちの挽歌 映評 第二部] ホーとキットについて、エミリー・チュウのこと、ユンファ屈辱について熱く語る・・・など
[男たちの挽歌 映評 第三部] 台湾でのアクションシーン、台湾でのジョン・ウーの苦渋時代の投影について、キットと父を狙う殺し屋との泥臭い対決など . . .
[男たちの挽歌 映評 第四部] 映画史もの名シーン・楓林閣大銃撃戦 について
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いや~、この作品への深い愛に敬服します。
私はユウファも好きなんですが、この『挽歌』、ティ・ロン演じるホーがとても好きなんです。自分の運命は自分で決めると突き進むマークに対し、ホーはキットのことも含め、自分の道をきめられずにいる。その思い悩む彼の表情、哀愁をおびたあの表情がたまらいんです。なるほど、ウー監督は自身と重ねあわせていたのですね。
あと所謂香港風の演出ですが、リーやそしてジャッキー等多くの香港作品を鑑賞してきた私は嫌いではないですね。十分に許容範囲です(笑)。
そしていよいよあのシーンですね。
あの踏切でたたずむユンファの姿は実にカッコいい。
当時私はこれをみてトレンチコートを買ってしまいました。
ウーがティ・ロンに自分を重ねていた・・・というのは私の仮説です。
そうやって見るとまた違った味わいが・・・