久しぶりの投稿になってしまいました。
今回は、つい先週のアカデミー賞に関連したことを書こうと思います。
(などと言っても今やウィル・スミスしか印象に残ってないかもしれませんが…)
クラシック音楽好きの間で人気の『ウエストサイドストーリー』は残念ながら助演女優賞のみの受賞でした。ま、しかしアニータ役のアリアナ・デボーズさん、演技も歌もダンスも圧巻でしたから当然でした。
『ウエストサイドストーリー』については前回・前々回とげっぷが出るほど書きまくったのでもういいでしょう。
作曲賞を受賞したハンス・ジマーについては近々とりあげようと思いますが、今回はタイトルにこじつけて作品賞を受賞した『コーダ あいのうた』について書いてみます。
ちなみに写真は「駆け込みだけど授賞式の前に見たんだよアピール」です(笑)
といいましても、『コーダ あいのうた』は劇中でクラシック音楽は1曲たりともかかりません。
この作品のタイトル「コーダ Coda」も、音楽用語における終曲部を表すあれのこと…ではありません。
「Children Of Deaf Adults (親がろう者の子供)」の略です。
しかし私は、このタイトル、音楽用語の Coda にもひっかけているのではないのかな・・・と思いました。
-------
物語の主人公は、タイトルの通り、「聞こえない」両親と兄を持つ、「聞こえる人」のティーンの女の子ルビーです。
彼女は歌が好きで、歌の才能を見出した高校の音楽教師とともに、音楽大学を目指す…ざっくりいうとそういう話ですが、もちろんそれだけではありません。
ルビーの家の家業は漁師です。しかし法の定めで聞こえる者が1名以上漁船に乗り込んでいる必要があり、ルビーは高校生という青春盛りの時期ですが、早朝は家族と漁船に乗り込み家業を手伝わなくてはなりません。ルビー自身もそれは仕方がないことだと思っているし、家族もまたルビーの幸せを願いつつもルビーに頼らざるをえないわけです。
しかも政府の理不尽な政策のために家業の売上は落ちる一方。ある日度重なるピンハネにキレた父と兄は、漁協の寄り合いで漁協から独立し起業するとぶち上げます(手話で、娘ルビーの手話通訳で)。しかし起業っていっても常時一緒にいてくれる手話通訳がどうしても必要なわけで…自分の夢と家族の二者択一を迫られた10代の女の子の成長と青春の物語です。
ある意味でお互いに依存していた家族関係の大きな転機となる数か月(1年くらい?)を描いています。
この映画で描かれた期間を「4人家族の18年間の物語」の最後の一年間とするなら、家族交響曲第一番の最終楽章のコーダに当たるのではないか…と思うわけです。
まあ、しかしこの家族交響曲、きっと今後もお兄ちゃんが結婚したり、ルビーが社会で活躍したりで、第二番、第三番が作られていくんだろうな…とそんな明るい希望を持たせて終わるところがいいのです。
----------
映画は誰が見ても悪い気はしないだろうという愛すべき内容です。
少女の成長、家族の愛、問題ある社会の中でも明るく優しく逞しく生きていく家族。皆がそうあってほしいと願うところに着地していくストーリー。
ただ映画としては、無難で目新しさはないとも言えます。
物語の構造は、スティーブン・ダルドリー監督の2001年作品『リトル・ダンサー』や、李相日監督の2006年作品『フラガール』なんかとよく似ています。他にも類例はいくつも上げられますし、感動もの映画の脚本テンプレートにのせて書かれただけのような気もします。もともとフランス映画『エール!』をリメイクした作品なのですが、脚色と言う意味では、『ドライブ・マイ・カー』の方がはるかに技巧として優れていたと思います。
ストーリーの奥深さではアカデミー候補だった『パワー・オブ・ザ・ドッグ』の方がすごいと思いますし、エンターテインメントとしての華やかさ・力強さにおいては『ウエストサイドストーリー』や『デューン』の方が上だと思います。
けれども私は『コーダ あいのうた』は今、アカデミー賞をとるべくしてとった映画だと思いました。(後付けで言ってカッコ悪いですが)
こねくり回したすごい脚本とか、金をたっぷりかけた豪華絢爛さより、ステイホーム時代の今、素朴に、だれにでもわかる家族の愛の物語を、技巧でなく、思いだけで伝える。
そんな映画はなんだか不思議と心にすっと入ってきました。
どこにでもいそうな人たちが、手話という言語で普通に泣いたり笑ったりしている姿に、私たちがずっとそこにあったのに見てこなかった、見ようとしなかった世界を、見せてくれました。
実際、ろう者の役を当事者であるろう者の俳優が演じているというのも、社会が良い方向に変わっていく瞬間を見せてくれた気がします。もろもろトータルで、心をきれいにしてくれたような、そんな気がする映画でした。
繰り返しますが、映画として特別すごいことはあまりない映画ですが、恐らく10年後も20年後も思い返してよかったな…と思える映画の一つだと思います。
まだ大手シネコンで上映していると思います。見て損はないと断言できる映画ですから、この機会に是非とも。
------
字幕に「健聴者」という表現もありましたが、それもやや配慮に欠く表記でして、本記事では「聞こえる」と書きました。
難しいですが、社会のアップデートに私もついていかなくてはなりません。
それでは本日はこんなところで!!
また素晴らしい映画と音楽でお会いしましょう。
#コーダ #コーダあいのうた #トロイコッツァー #アカデミー賞
今回は、つい先週のアカデミー賞に関連したことを書こうと思います。
(などと言っても今やウィル・スミスしか印象に残ってないかもしれませんが…)
クラシック音楽好きの間で人気の『ウエストサイドストーリー』は残念ながら助演女優賞のみの受賞でした。ま、しかしアニータ役のアリアナ・デボーズさん、演技も歌もダンスも圧巻でしたから当然でした。
『ウエストサイドストーリー』については前回・前々回とげっぷが出るほど書きまくったのでもういいでしょう。
作曲賞を受賞したハンス・ジマーについては近々とりあげようと思いますが、今回はタイトルにこじつけて作品賞を受賞した『コーダ あいのうた』について書いてみます。
ちなみに写真は「駆け込みだけど授賞式の前に見たんだよアピール」です(笑)
といいましても、『コーダ あいのうた』は劇中でクラシック音楽は1曲たりともかかりません。
この作品のタイトル「コーダ Coda」も、音楽用語における終曲部を表すあれのこと…ではありません。
「Children Of Deaf Adults (親がろう者の子供)」の略です。
しかし私は、このタイトル、音楽用語の Coda にもひっかけているのではないのかな・・・と思いました。
-------
物語の主人公は、タイトルの通り、「聞こえない」両親と兄を持つ、「聞こえる人」のティーンの女の子ルビーです。
彼女は歌が好きで、歌の才能を見出した高校の音楽教師とともに、音楽大学を目指す…ざっくりいうとそういう話ですが、もちろんそれだけではありません。
ルビーの家の家業は漁師です。しかし法の定めで聞こえる者が1名以上漁船に乗り込んでいる必要があり、ルビーは高校生という青春盛りの時期ですが、早朝は家族と漁船に乗り込み家業を手伝わなくてはなりません。ルビー自身もそれは仕方がないことだと思っているし、家族もまたルビーの幸せを願いつつもルビーに頼らざるをえないわけです。
しかも政府の理不尽な政策のために家業の売上は落ちる一方。ある日度重なるピンハネにキレた父と兄は、漁協の寄り合いで漁協から独立し起業するとぶち上げます(手話で、娘ルビーの手話通訳で)。しかし起業っていっても常時一緒にいてくれる手話通訳がどうしても必要なわけで…自分の夢と家族の二者択一を迫られた10代の女の子の成長と青春の物語です。
ある意味でお互いに依存していた家族関係の大きな転機となる数か月(1年くらい?)を描いています。
この映画で描かれた期間を「4人家族の18年間の物語」の最後の一年間とするなら、家族交響曲第一番の最終楽章のコーダに当たるのではないか…と思うわけです。
まあ、しかしこの家族交響曲、きっと今後もお兄ちゃんが結婚したり、ルビーが社会で活躍したりで、第二番、第三番が作られていくんだろうな…とそんな明るい希望を持たせて終わるところがいいのです。
----------
映画は誰が見ても悪い気はしないだろうという愛すべき内容です。
少女の成長、家族の愛、問題ある社会の中でも明るく優しく逞しく生きていく家族。皆がそうあってほしいと願うところに着地していくストーリー。
ただ映画としては、無難で目新しさはないとも言えます。
物語の構造は、スティーブン・ダルドリー監督の2001年作品『リトル・ダンサー』や、李相日監督の2006年作品『フラガール』なんかとよく似ています。他にも類例はいくつも上げられますし、感動もの映画の脚本テンプレートにのせて書かれただけのような気もします。もともとフランス映画『エール!』をリメイクした作品なのですが、脚色と言う意味では、『ドライブ・マイ・カー』の方がはるかに技巧として優れていたと思います。
ストーリーの奥深さではアカデミー候補だった『パワー・オブ・ザ・ドッグ』の方がすごいと思いますし、エンターテインメントとしての華やかさ・力強さにおいては『ウエストサイドストーリー』や『デューン』の方が上だと思います。
けれども私は『コーダ あいのうた』は今、アカデミー賞をとるべくしてとった映画だと思いました。(後付けで言ってカッコ悪いですが)
こねくり回したすごい脚本とか、金をたっぷりかけた豪華絢爛さより、ステイホーム時代の今、素朴に、だれにでもわかる家族の愛の物語を、技巧でなく、思いだけで伝える。
そんな映画はなんだか不思議と心にすっと入ってきました。
どこにでもいそうな人たちが、手話という言語で普通に泣いたり笑ったりしている姿に、私たちがずっとそこにあったのに見てこなかった、見ようとしなかった世界を、見せてくれました。
実際、ろう者の役を当事者であるろう者の俳優が演じているというのも、社会が良い方向に変わっていく瞬間を見せてくれた気がします。もろもろトータルで、心をきれいにしてくれたような、そんな気がする映画でした。
繰り返しますが、映画として特別すごいことはあまりない映画ですが、恐らく10年後も20年後も思い返してよかったな…と思える映画の一つだと思います。
まだ大手シネコンで上映していると思います。見て損はないと断言できる映画ですから、この機会に是非とも。
------
ちなみに、私、前の記事で「Children Of Deaf Adults」のことを「親がろうあ者の子供」と書きましたが、それは間違いでした。(今は直しました)
ろうあ(聾唖)の「あ」は、「声を出せない」という意味ではなく、「しゃべれない」という意味でして、本作に登場する楽しい一家のお父さんお母さんお兄ちゃんは「手話」と言う言語で「しゃべっている」ため、「ろう者」であっても「ろうあ者」ではないのですね。実は映画本編の字幕でも「ろうあ」と表記されていて、日本向けの制作や宣伝にも若干の問題があるのです。
難しいですが、社会のアップデートに私もついていかなくてはなりません。
----
アカデミー賞で助演男優賞をとったお父さん役のトロイ・コッツァーさんが素晴らしかったです。授賞式でヒゲ剃ってパリっとした格好だと思った以上にイケメンで(失礼)
でも受賞スピーチで手話で話す内容が劇中のお父さんそのまんまで、映画でもリアルでも大爆笑を誘います。普通にこの役者好きだわー!
字幕に「健聴者」という表現もありましたが、それもやや配慮に欠く表記でして、本記事では「聞こえる」と書きました。
難しいですが、社会のアップデートに私もついていかなくてはなりません。
それでは本日はこんなところで!!
また素晴らしい映画と音楽でお会いしましょう。
#コーダ #コーダあいのうた #トロイコッツァー #アカデミー賞