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映画ブロガーら有志23名による「10年代映画ベストテン」発表!

マンハント もしくはジョン・ウーは憤怒の河を如何にして渉ったか

2019-03-06 12:45:57 | ビデオ・DVD・テレビ放映での鑑賞
ジョン・ウーの枯れっぷりを堪能できる好編だ。ツッコミどころ満載だが、映像が死ぬほどスタイリッシュに程遠いので純粋にダサさを笑える、ある意味超爽快アクションにして、むき出しのジョン・ウーを楽しめる。


義理の父に犯罪者として育てられた者がその父に牙を剥くのは「狼たちの絆」であり、殺しの濡れ衣を着せられ逃亡を余儀なくされるのは「挽歌2」であり、追う刑事と追われる男にいつしか友情が芽生えたりお祭りで賑わう川辺で狙撃が行われたりするのは「狼・男たちの挽歌最終章」であり、医療の施設が悪の根城だったり刑事が犯罪者とのシンパシーから事件の謎を明かしていくのは「ハードボイルド」だったり…と、どこをどう切ってもジョン・ウー映画なのに、どこを切ってもダサいのは何故なのか!?
まるで、ジョン・ウーを愛しているが才能のない奴がジョン・ウー映画をパクったみたいな映画を、よりにもよってジョン・ウー本人が撮ってしまうという、壮絶なズッコケ映画

なんだってこんなに絵がダサいんだろう。スタッフの技量を疑うけど一番悪いのはオーケー出してるジョン・ウーだ!
あとね、申し訳ないんだけどね
フクヤマ!こいつはジョン・ウー映画向きじゃないよ
カッコつけ方がテレビサイズだよ。慣れのせいだけの問題ではないと思うなー(これもフクヤマのせいでなくオーケー出してるジョン・ウーを責めるべきだが)

ジョン・ウー映画のトニー・レオンはカッコいいだけでカッコつけてない。カッコつけるならユンファくらいおどけた感じにする余裕がいる。余裕なくていっぱいいっぱいでも挽歌2のルンさんなみにキメキメまくったら一周してシビれるんだ。
フクヤマさんのカッコつけ方、なんかせこい!せめて金城武ならもう少しウー映画っぽくやってくれたろうに

などといいつつ、この映画はジョン・ウーがスタイリッシュでもなんでもなかった頃の、例えば「ソルジャー・ドッグス」とか「ワイルドヒーローズ暗黒街の狼たち」とかと同じような食感で、グダグダな割には結局最後まで楽しく見れる珍品だ。

そしてリメイク元の「君よ憤怒の河を渉れ」と比較すると、そこにはジョン・ウーなりのオリジナルへの愛とともに、ジョン・ウーらしく料理された箇所から彼の作家性を垣間見ることができるのである。
例えば2人組の殺し屋は「君よ憤怒」を引き継いだ設定だと思うが、君よ憤怒の殺し屋コンビはただ金で雇われた程度の奴らだが、ジョン・ウー映画では金目当ての犯罪者は主要キャラにはなり得ない。せいぜいユンファの2丁拳銃の餌食になるのが関の山だ。美学を持ち、誇りのために闘うものをジョン・ウーは求める。だから殺し屋2人には悲しみを背負わせ、葛藤させ、最後にはボスを裏切って主人公と共闘するのだ。


さて色々と衝撃の「マンハント」を思い出しながらポツリポツリと語っていこう。

オープニング。どこかの港町。1人の中国人の男が居酒屋に入る。
演じるのはチャン・ハンユー。ジョン・ウー映画初登場ながら、その穏やかな佇まいは挽歌のティ・ロンや、狼のダニー・リーを彷彿とさせつつも「君よ憤怒の河を渉れ」の健さんの面影もあり、このキャスティングだけは大正解だ。
チャン・ハンユーは中国映画「戦場のレクイエム」で一度見ただけだが、その時もいい芝居していたイケメンじゃなくハンサム。ちなみに「戦場のレクイエム」も映画としてなかなか面白い。共産勢力側から見た朝鮮戦争が珍しいという興味とともに、中国で軍隊の不条理にここまで踏み込んだ映画作るって勇気のいることだと思った。

もう閉店だよという女店員だが、キモノの似合う若女将が「熱燗でいいかしら」と微妙なニュアンスの日本語でいう。
カウンターに座ったチャン・ハンユーは最高に男前な面で佐藤純彌監督「君よ憤怒の河を渉れ」のテーマ曲を口ずさみ始める。いるかよそんな奴…とも思うが、中国人にとって「君よ憤怒」のレジェンド感は日本人の想像を超えてすごいと聞いたこともあるので、そういう奴いるのかもしれない。
たしかにあのテーマ、聴くとけっこう頭にこびりつく。
すると美人若女将が、その映画知ってるわ、オールドムービーはいいわねと寂しい過去を思い出すように「君よ憤怒」の台詞を口ずさむ。

うーむ、若い女が見るような映画だろうか?「君よ憤怒」は76年。若女将は20代くらいに見えるが、まあ30歳だったとして、1988年生まれ。大人のドラマの映画を見るのは早熟な子でも10歳くらいとして、1998年…「君は憤怒」より「タイタニック」観に行くだろうなー。ジョン・ウー映画ならもう「フェイス・オフ」とか「MI-2」の頃だ。
若く見えるけど40歳だったとして、10歳の頃1988年…それはもう憤怒より挽歌見とけよーって時期だ。
まあいい。きっとこの女性は学生の頃映研に入ってゴダールだタルコフスキーだとかうるせー奴や、ヴェンダースだジャームッシュだとかの意識高い系や、ダニーボイルだソダーバーグだとオシャレでセンスいい系どもの中で肩身の狭い思いをしながら佐藤純彌×健さんの映画を見て過ごしていたんだろう。俺がそこにいたら「この映画良かったぜ」ってそっと彼女に「男たちの挽歌」のVHSを差し出しただろうな

いやね、ジョン・ウーのイメージ投影でしかないってことはわかってますよ。
重要なのは主人公とこの若女将実は女殺し屋が敵対しながらもシンパシーを感じあうところで、その架け橋が「君よ憤怒」なのである。「敵対するがシンパシー」は「狼」や「ハードボイルド」に見られる香港時代に見られるジョン・ウー映画の特長で、後にその2人が共闘する伏線でもある。ハリウッド時代は似た者同士が殺しあうだけだったジョン・ウー映画だが、「マンハント」はその意味で原点回帰をしているようでジョン・ウー好き的には面白い。

さて、そんな微妙な哀愁シーンのさなか、いかにもガラの悪い大阪のヤクザな奴らがドカドカと入ってくる。若女将に摑みかかるゲスなヤクザの腕をぐっとつかみ、「私は弁護士だ、助けよう」と男前に言うのだが、女に構わないわと言われて店を出て行く。車に映画があるから君にあげるよと言って。多分「君よ憤怒の河を渉れ」なのだろうが、なんちゅう映画を女性に渡そうとしてるんだ。
しかし男前が店を出るや否や。若女将と女中はサイレンサーを付けた拳銃をつかみ、太った女の方はウー映画の例によって例の如く2丁拳銃で、店の奥で宴会するヤクザどもを皆殺しにするのであった。
この時の音楽が「君よ憤怒の河を渉れ」のテーマ曲で、私はあまりシビれはしないが、中国の人たちはテンション上げ上げになるのだろうか。
俺だったら挽歌の「マークのテーマ」がかかったら超燃えると思うけどそんな効果があるのかもしれない。
しかし、このシーン、やってることは全然面白くない。銃撃戦というよりほぼ一方的な殺戮。植木鉢に銃を隠せとは言わないが、もう少しかっこいいことやってオープニングを盛り上げてはくれないものか。


そんな消化不良感を残しつつ映画はメインタイトルへ

場面は変わってある巨大製薬会社のパーティ。そこの社長さんは…
あー!!あなたは!!「ハードボイルド・新男たちの挽歌」の冒頭シーンでユンファと壮絶極まるタイマン銃撃戦を繰り広げたジョン・ウーのマブダチ國村隼さんじゃないですか!
あまり安定感のない役者ばかりが揃ってしまった本作の中で数少ない安心のキャストである。國村さんがラスボスならなんとなく安心だ。…だが最後に國村さんにウー映画的にがっかりさせられるのだけど…
そして國村さんの息子の次期社長が池内博之さんでジョン・ウー映画は初めてだけど中国映画は経験済みの彼はさすがに中華風の芝居をわかっていると言うか、ジョン・ウー映画に出てくるゲスで醜悪な悪党、例えば挽歌2でホーさんに日本刀で斬られる奴とか、ハードボイルドのアンソニー・ウォン(!)とかの様な存在感を出してる。どんな殺され方をするのか序盤からワクワクだ。

それで朝目覚めたら隣に昨日知り合った女の死体がありビビるチャン・ハンユー。
事件に巻き込まれてしまった、というサスペンス映画なら当然あるべき導入がなぜか無かった「君よ憤怒」の欠点を補うように、実はクラシックな映画が好きなジョン・ウーらしく割と無難に進む展開。

そしてあいだにフクヤマ対斎藤工のほとんど見るに耐えないダザダサな対決を挟んで、やっとこさもう1人の主役のフクヤマとチャン・ハンユーの因縁の始まりシーンへと進むのである。
特筆すべきは身代わりで人質となったフクヤマが、チャン・ハンユーに銃を向けられて運転するシーン。
当然のように車内で格闘となり、車はスピンしていると窓の外に「鳩の里」の看板がチラリ(!)
車が景気良くどっかの小屋に突っ込むと鳩が飛びまくるのである。
すでに「鳩の里」のところで次に来るシーンを想像して爆笑なんですけど、もはや「小津の赤いヤカン」「ヒッチコックの監督ご本人」と同じくらい定番となった「ジョン・ウーの鳩」であるが、今回は鳩を飛ばす前に予告を入れるという念の入れよう。もう本人もスタッフもネタ感覚だな。

さてフクヤマと桜庭ななみのテレビ放送時全部カットしてほしいくだりは省略して、チャン・ハンユーはやっと本作の鍵を握るヒロインと会う。名前がマユミなのは「君よ憤怒」を引き継いだものだ。
しかしジョン・ウーの趣味なのかプロダクションのゴリ押しなのか、殺し屋役のハ・ジウォンと、マユミ役のチー・ウェイが外見的にキャラ被りしていて、ハ・ジウォンをスキンヘッドにするとかして区別つきやすくした方が良かったのでは。さらに言えば序盤で死ぬ女も同系統の人だからちょい混乱。
(ジョン・ウーは面長美人好きの傾向があるので趣味だと思う。レッドクリフのビッキー・チャオみたいな童顔女子をもっと使えば良いのに!)
でマユミにもつらい過去が設定されているのだが、この映画ハ・ジウォンもフクヤマも辛い過去を背負っており、なんだか「辛い過去祭り」となってて葛藤させたいのわかるけど、どうなのよそれ?と少し疲れる。
区別化以前に脚本を整理してハ・ジウォンとチー・ウェイは1人の人物に集約させるべきだったと思うな!

ハ・ジウォンが昔結婚式の日にフィアンセが死んだトラウマ過去があって、「お父様」の命令でチャン・ハンユーを狙っていたら事件の核心に迫りフィアンセ殺しの黒幕が「お父様」だったと知って裏切る…って方が面白いと思うがなー。浅はかかな?でも現行のグダグダすぎる脚本よりずっとマシじゃないですか?
そうすると2丁拳銃のポッチャリ殺し屋ともクライマックスで親友同士だが殺しあうというジョン・ウー映画らしいドラマの盛り上がりも生まれるじゃん!

さておき、チー・ウェイの家が牧場で馬を飼ってるところも「君よ憤怒」の名残りか。
で、多少面白いアクションシーンが、マユミの家での殺し屋軍団対チャン・フク・チーの3人組銃撃戦だ。


なんだかんだで気分のあがる2丁拳銃の女殺し屋もかっこいい。フクヤマも2丁持てこの野郎!ユンファなら2丁+ショットガン+サブマシンガン+手榴弾(火薬の量間違えてるやつ)だぞ!
そういえば香港時代もハリウッド時代も女性が添え物でしかなかったジョン・ウー映画だが、中国に戻ってから女性も戦うようになったのはいいことだ。その点に関してはマンハントはレッドクリフよりさらに進んでいる。
とは言え女性と子供にはめっぽう優しいジョン・ウーの性格を反映してか、女性たちのアクションがイマイチ振り切れてない感じがあって少し残念

それに加えてますます思うのは桜庭ななみ、お前も戦わんかい!あれじゃ完全添え物のピンチ担当じゃないか。「係長ぉぉっ!」って叫びながらスライディングしながらフクヤマにベレッタをトスして自分も小ぶりのリボルバーで敵を撃つくらいしろ!
もしくはチャン・ハンユーに銃口を向けてチャン・ハンユーがハッとしたと思ったら彼の背後の敵を撃つとかそれくらいしろ!

ほんで話は飛んで「君よ憤怒」のクライマックスを受け継ぐ、薬物人体実験をしている極悪非道組織にチャン・ハンユーが潜入する場面である。
「君憤」だと薬漬けにされたものは腑抜けのように大人しく従順になるのだがジョン・ウー版だと身体能力が異様に向上し手がつけられないくらい凶暴になる。あんなんで國村さんはどうやってあいつらをコントロールする気だったのだろう?その辺がまだ未完成という事なのだろうか?
倉田保昭さんが異様に強くなってしかし薬と戦って…のところ画というか演出なんか爆笑もののB級C級な描写なんだけど、あれはむしろ狙いかもしれない。倉田さんが名を馳せた70年代のアクション映画っぽい撮り方を狙っていたのかもしれない。
で、同じ薬を盛られたチャン・ハンユーはどうなるかと言えば、「君憤」の健さんは薬を全部吐き出していたことでマインドコントロールを受けていなかったわけだが、「マンハント」のチャン・ハンユーはというと、フクヤマに薬に負けるなと言われて気合いで打ち勝つのである。
思えばジョン・ウー映画の歴史って「最後は気合いでなんとかする」の歴史だったので、この展開は許してあげようと思う。
最後になって女殺し屋ハ・ジウォンが主人公たちに寝返って、取ってつけたように登場する女ボディガードと長々とと対決するのは、描写的にはジョン・ウーらしいのだけど、脚本的に絶対失敗というかエモーションの軸がぶれまくって全然乗れない。戦うなら國村さんと戦うべきだし、あるいは寝返るんでなく挽歌2やハードボイルドのように主人公をリスペクトしつつも殺しあうプロフェッショナリズムを見せるべきでしょう
池内博之さんもここぞと自分に薬をうって凶暴化するのだがイマイチのれず、最悪は國村さんの自殺だ。ジョン・ウー映画の悪は主人公に捨て台詞を吐かれて殺されるために存在するようなもんなのに、主人公にそれをさせずに死ぬなんて。いまさらハードボイルドの時みたいに転がりながらマシンガン乱射してとは言わないけど、ちゃんと戦って負けてその結果として死んで欲しかった。

で、問題すぎるラストシーン
どこだよあの駅!?
関空とか新大阪駅とかならまだわかるよ
なんであんなローカル線の終着駅で別れるんだよ。
あれか、マユミの牧場に後片付けにきて、そこの最寄駅か?
じゃあ車で送れよ、フクヤマ!
君よ憤怒にもあんなシーンなかったし、ジョン・ウー映画史上一番のポカーーンだよ

そんなこんなで3回ほど鑑賞した結論として「マンハント」はやはり駄作である!と言わせてもらう!
って、3回も観ちゃってんのかよ?!俺?!

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