個人的評価: ■■■■□□
[6段階評価 最高:■■■■■■(めったに出さない)、最悪:■□□□□□(わりとよく出す)]
日本映画のお家芸といえるジャンルとして「How to もの」が挙げられると思う。世間や業界でそう言われているジャンルではなく、私が勝手にそう呼んでいるだけだが。
みんな知ってるけど詳しくは知らない職業やしきたりや競技などを題材とし、蘊蓄いっぱいまぶしながらドラマを展開させていくというジャンルである。
「How toもの」映画百花繚乱な日本映画界には当然ながら「How to巨匠」と呼ぶべき監督が現れる。
初代How to巨匠に認定された(私に)のは伊丹十三だ。
初代を越える逸材とも噂される(私によって)二代目が周防正行だ。
矢口史靖もHow toジャンルに転向して三代目の座を狙っていると言われている(私から)。そんなの狙わないで元に戻って欲しい
そして、ベテラン職業監督滝田洋二郎も満を持してHow to界に乗り込んできた。その作品こそ「おくりびと」だ。納棺士を題材としたまぎれもない「How toもの」である
本作は米国アカデミー賞の外国語映画賞に日本代表としてエントリーされたという。
しかしながら、「フラガール」「それでもボクはやってない」と2年連続で「How toもの」を出品し予選落ちしてきた日本代表である。敗戦から学んで今回は「非How toもの」で勝負すべきだったのではないだろうか?
それでなくとも「フラガール」や「それボク」と比べたらクォリティ面で足下おぼつかない感があるのに・・・
------
そんな不安はさておき、本作「おくりびと」の序盤から前半にかけては「How toもの」として手堅いデキになっている。
納棺という暗い職業を題材にしながらも、適度にギャグをまぶしてテンポ良くドラマは進む。
特に納棺の手順やしきたりを業者向けビデオ撮影のシーンを使って実に自然な流れで説明するところは巧い。しかも単なる説明に終始せず、ギャグを挟むことで観ていて楽しくタメになるエピソードとしている。さらに後々の伏線ともしている。
納棺の慎ましやかで厳かな所作には、単純にその美しさに引き込まれてしまう。
ただ難点はある。
あまりにテンポ重視でカット割りがせわしない。
ファーストショットの吹雪の雪原を走る霊柩車のショットは、もの凄く美しかったというのに、直ぐにカット切り替えて本木雅弘のアップにしてしまう。もったいない。車が通り過ぎるのをパンで追いながらクレーンでカメラ持ち上げるとかして最低でも2分くらいは雪原を見せて欲しかった。
本木雅弘のモノローグ(ナレーション)も手早く設定を伝えるのには効果的だが、蛇足な印象も受ける。
また不自然なくらいのドアップの多用も気になる。本木の驚いた顔や、「え!?」という呟きが無駄に大きすぎるアップで抜かれてわざとらしく感じる。本木と広末の切り返しによる会話シーンでも妙に広末のアップの方が大きかったりして違和感がある。その違和感のせいもあってか広末の演技も、下手とは言わないまでも、そうじゃないだろという表情が多かった気がする。
引きのショットなら気にならなかったろうに。
だがそうした演出の違和感もシナリオの巧さが帳消しにしてくれる前半であるが、後半になるとシナリオも破綻を始める。
納棺士の仕事ぶりの手際良さと美しさに酔い、亡くなった命への敬意にあふれ、死後二週間も放置されていた一人暮らしの老人の遺体を片付けるという嫌な仕事だが誰かがやらねばならない仕事も引き受け、遺族から感謝の言葉をもらう様が描かれる前半。
納棺士ってなんて立派な職業なんだろう・・・と関心していたのに、突如として友人や妻から「マトモではない仕事であるから辞めるべきだ」という旨の発言を浴びせられる主人公。唐突すぎる。まして妻は「けがらわしい」とまで言う。そりゃ言い過ぎだろうと思ったが、妻もさすがに失言だったと感じたのか、言った直後にややクールダウンしていたが。
そうしたシーンよりも前に、納棺士が人から軽蔑される職業であるということは、あるいは一般常識なのかもしれないが、映画の中では5分遅刻した山凬努が一言イヤミを言われる場面があるだけ。納棺士に対する世間の風当たりを感じさせるエピソードがあまりに乏しいため、ただ単に妻がバカで嫌な女に思えるだけである。
観客に、妻と一緒に納棺士に対する誤解や偏見を解いていく気分を味あわせたいなら、妻を主人公にして物語を組み立てるべきだろう。
さらに、その妻が帰ってきてからの運命のいたずらトリプルコンボ攻撃が、あまりに作劇的に都合が良すぎて苦笑ものである。
(広末が帰るのを見計らうように吉行和子が死に、実は火葬場職員だった笹野高史と偶然出会う。いかに田舎とはいえ、世間はなんて狭いんだろう)
広末は一度話しただけの吉行和子の死に感慨深いものがあったとも思えない。
笹野が杉本哲太にすごくいい台詞を言うところは良いのだが、その一部始終を親類でもない本木と広末が近くで見聞きしているのはあまりに不自然。感情移入のだめ押しが裏目に出たと言える。
さらに運命の偶然攻撃は続く。銭湯のおばちゃんが都合良く死んだ直後に、なんと今度は主人公の父親が都合良く死んでくれる。シリアス劇のターニングポイントに偶然を持ってくるのは1回か2回に留めてほしい。3連発以上来るとさすがに引く。
とはいえ、最後のシーンは、よくできている。
主人公は父の遺体に化粧を施すことで、曖昧だった父の顔を思い出す。いや、思い出したというより、自分が想い描く理想の父の姿を化粧で作り上げたのかも知れない。それにより「父」という存在を拒絶していた自分から、「父」を受け入れ、持ってやがて生まれる子供の父となることを受け入れたのだ。
納棺の仕事についたことも、夫から父へと成長することにつながり、父、夫、妻、お腹の中の子供と不完全な3世代が納棺と石文を媒介に一つになる。
綺麗にまとめたものである。
ただし、父が握っていた石を、主人公が少年時代に父に渡した石文だと考えるほど私はロマンチストではない。
自分の子供に石文についての蘊蓄をたれるような男である。浮気相手にも石文のことを語っただろう。30年も前の捨てた子供の思い出より、それより新しい思い出の中で惚れた女からもらった石文を大事にとっておいた・・・その方がしっくりくる。ま、その辺の解釈はご自由に。
--------
そんなこんなで納棺という仕事を知ることができてタメになったことと、納棺の儀の美しさにみとれはしたものの、演出やシナリオの頑張り不足が目に付いてちょっと残念な映画であった。
今年のアカデミー外国語映画賞も予選敗退だろう。モントリオールでグランプリだから外人受けはいいのかもしれないが、モントリオールってなんか日本びいきな感じあるし
-------
追記 2009/1/23
アカデミー外国語映画賞にノミネート決定
ちっ
絶対候補落ちだと踏んでいたのに
こうなったら頑張ってほしいが
How to もので全然いけると日本映画界に自信を与えちゃうなあ
********
↓面白かったらクリックしてね
人気blogランキング
自主映画撮ってます。松本自主映画製作工房 スタジオゆんふぁのHP
[6段階評価 最高:■■■■■■(めったに出さない)、最悪:■□□□□□(わりとよく出す)]
日本映画のお家芸といえるジャンルとして「How to もの」が挙げられると思う。世間や業界でそう言われているジャンルではなく、私が勝手にそう呼んでいるだけだが。
みんな知ってるけど詳しくは知らない職業やしきたりや競技などを題材とし、蘊蓄いっぱいまぶしながらドラマを展開させていくというジャンルである。
「How toもの」映画百花繚乱な日本映画界には当然ながら「How to巨匠」と呼ぶべき監督が現れる。
初代How to巨匠に認定された(私に)のは伊丹十三だ。
初代を越える逸材とも噂される(私によって)二代目が周防正行だ。
矢口史靖もHow toジャンルに転向して三代目の座を狙っていると言われている(私から)。そんなの狙わないで元に戻って欲しい
そして、ベテラン職業監督滝田洋二郎も満を持してHow to界に乗り込んできた。その作品こそ「おくりびと」だ。納棺士を題材としたまぎれもない「How toもの」である
本作は米国アカデミー賞の外国語映画賞に日本代表としてエントリーされたという。
しかしながら、「フラガール」「それでもボクはやってない」と2年連続で「How toもの」を出品し予選落ちしてきた日本代表である。敗戦から学んで今回は「非How toもの」で勝負すべきだったのではないだろうか?
それでなくとも「フラガール」や「それボク」と比べたらクォリティ面で足下おぼつかない感があるのに・・・
------
そんな不安はさておき、本作「おくりびと」の序盤から前半にかけては「How toもの」として手堅いデキになっている。
納棺という暗い職業を題材にしながらも、適度にギャグをまぶしてテンポ良くドラマは進む。
特に納棺の手順やしきたりを業者向けビデオ撮影のシーンを使って実に自然な流れで説明するところは巧い。しかも単なる説明に終始せず、ギャグを挟むことで観ていて楽しくタメになるエピソードとしている。さらに後々の伏線ともしている。
納棺の慎ましやかで厳かな所作には、単純にその美しさに引き込まれてしまう。
ただ難点はある。
あまりにテンポ重視でカット割りがせわしない。
ファーストショットの吹雪の雪原を走る霊柩車のショットは、もの凄く美しかったというのに、直ぐにカット切り替えて本木雅弘のアップにしてしまう。もったいない。車が通り過ぎるのをパンで追いながらクレーンでカメラ持ち上げるとかして最低でも2分くらいは雪原を見せて欲しかった。
本木雅弘のモノローグ(ナレーション)も手早く設定を伝えるのには効果的だが、蛇足な印象も受ける。
また不自然なくらいのドアップの多用も気になる。本木の驚いた顔や、「え!?」という呟きが無駄に大きすぎるアップで抜かれてわざとらしく感じる。本木と広末の切り返しによる会話シーンでも妙に広末のアップの方が大きかったりして違和感がある。その違和感のせいもあってか広末の演技も、下手とは言わないまでも、そうじゃないだろという表情が多かった気がする。
引きのショットなら気にならなかったろうに。
だがそうした演出の違和感もシナリオの巧さが帳消しにしてくれる前半であるが、後半になるとシナリオも破綻を始める。
納棺士の仕事ぶりの手際良さと美しさに酔い、亡くなった命への敬意にあふれ、死後二週間も放置されていた一人暮らしの老人の遺体を片付けるという嫌な仕事だが誰かがやらねばならない仕事も引き受け、遺族から感謝の言葉をもらう様が描かれる前半。
納棺士ってなんて立派な職業なんだろう・・・と関心していたのに、突如として友人や妻から「マトモではない仕事であるから辞めるべきだ」という旨の発言を浴びせられる主人公。唐突すぎる。まして妻は「けがらわしい」とまで言う。そりゃ言い過ぎだろうと思ったが、妻もさすがに失言だったと感じたのか、言った直後にややクールダウンしていたが。
そうしたシーンよりも前に、納棺士が人から軽蔑される職業であるということは、あるいは一般常識なのかもしれないが、映画の中では5分遅刻した山凬努が一言イヤミを言われる場面があるだけ。納棺士に対する世間の風当たりを感じさせるエピソードがあまりに乏しいため、ただ単に妻がバカで嫌な女に思えるだけである。
観客に、妻と一緒に納棺士に対する誤解や偏見を解いていく気分を味あわせたいなら、妻を主人公にして物語を組み立てるべきだろう。
さらに、その妻が帰ってきてからの運命のいたずらトリプルコンボ攻撃が、あまりに作劇的に都合が良すぎて苦笑ものである。
(広末が帰るのを見計らうように吉行和子が死に、実は火葬場職員だった笹野高史と偶然出会う。いかに田舎とはいえ、世間はなんて狭いんだろう)
広末は一度話しただけの吉行和子の死に感慨深いものがあったとも思えない。
笹野が杉本哲太にすごくいい台詞を言うところは良いのだが、その一部始終を親類でもない本木と広末が近くで見聞きしているのはあまりに不自然。感情移入のだめ押しが裏目に出たと言える。
さらに運命の偶然攻撃は続く。銭湯のおばちゃんが都合良く死んだ直後に、なんと今度は主人公の父親が都合良く死んでくれる。シリアス劇のターニングポイントに偶然を持ってくるのは1回か2回に留めてほしい。3連発以上来るとさすがに引く。
とはいえ、最後のシーンは、よくできている。
主人公は父の遺体に化粧を施すことで、曖昧だった父の顔を思い出す。いや、思い出したというより、自分が想い描く理想の父の姿を化粧で作り上げたのかも知れない。それにより「父」という存在を拒絶していた自分から、「父」を受け入れ、持ってやがて生まれる子供の父となることを受け入れたのだ。
納棺の仕事についたことも、夫から父へと成長することにつながり、父、夫、妻、お腹の中の子供と不完全な3世代が納棺と石文を媒介に一つになる。
綺麗にまとめたものである。
ただし、父が握っていた石を、主人公が少年時代に父に渡した石文だと考えるほど私はロマンチストではない。
自分の子供に石文についての蘊蓄をたれるような男である。浮気相手にも石文のことを語っただろう。30年も前の捨てた子供の思い出より、それより新しい思い出の中で惚れた女からもらった石文を大事にとっておいた・・・その方がしっくりくる。ま、その辺の解釈はご自由に。
--------
そんなこんなで納棺という仕事を知ることができてタメになったことと、納棺の儀の美しさにみとれはしたものの、演出やシナリオの頑張り不足が目に付いてちょっと残念な映画であった。
今年のアカデミー外国語映画賞も予選敗退だろう。モントリオールでグランプリだから外人受けはいいのかもしれないが、モントリオールってなんか日本びいきな感じあるし
-------
追記 2009/1/23
アカデミー外国語映画賞にノミネート決定
ちっ
絶対候補落ちだと踏んでいたのに
こうなったら頑張ってほしいが
How to もので全然いけると日本映画界に自信を与えちゃうなあ
********
↓面白かったらクリックしてね
人気blogランキング
自主映画撮ってます。松本自主映画製作工房 スタジオゆんふぁのHP
でも、庄内は現代劇よりも、時代劇の方がいいかなと思ってしまいました。
なんか、流れ流れて吹きだまり・・。
流れついた人が肩寄せ合って住むところが、庄内みたいで。
職業差別しているのも、田舎もんだからみたいに見えちゃいましたよ。
あの辺じゃ、ほとんど成り立たないような職業ですからね。
ま、笹野さんの演技は堪能しましたが、広末がなんでへたくその見えたのか、合点しました。なるほど。
自宅にした川沿いの家は、上山で撮影したのだそうです。
おお、上山でしたか
言われてみれば、それっぽいです
庄内の田舎っぷりも懐かしかったです。
たぶん山崎努は余目あたりに本拠をおいて、酒田、鶴岡はじめ庄内全域をカバーしていたのでしょう。それくらいの規模ならあの職業もやってけそうな気がします
個人的には黒沢清作品を賞がもらえるまで毎年ぶち込めばいずれもらえるんではと思います。
今年は「トウキョウソナタ」を選んでほしかったなぁ~。
広末妻がDVD見たシーン、おむつシーンで一緒に笑いころげるんやと思ってました。
まあ、何がうけるかわからないし、特に外国語映画賞なんて、え?これがって作品が候補になること多いので、わからないですけどね
aq99さんの清と同じように、私も市川準送り込み続ければいいのに、と思っていたのに亡くなってしまわれた
こうなったら健太フカサクを送り込んで欲しいっす