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映画ブロガーら有志23名による「10年代映画ベストテン」発表!

トウキョウソナタ [監督:黒沢清]

2008-12-24 00:01:35 | 映評 2006~2008
個人的評価: ■■■■■□
[6段階評価 最高:■■■■■■(めったに出さない)、最悪:■□□□□□(わりとよく出す)]

悲しく寂しく怖く、それでいてユーモアもたっぷりで、最後に希望を見せる。すごい面白かった。

無言の人々が、怖く悲しく、亡霊のようだ。
出勤する無言の人々。
炊き出しに集まる無言の人々。
ハローワークに並ぶ無言の人々。
彼らは泣きも笑いも怒りもせずに、ただ歩き、ただ食べ、ただ並び、とりあえず目の前のことを片付けて、人間らしく生きることを先送りにしているように感じる。
無言の人々は、明日の見えない不安と、未来の無い絶望感とが溢れる。
主人公一家はいつか自分たちも人間性を失った無言の集団に仲間入りすることになるのではと恐れている。恐れているけどどうしようもなくただ堕ちていくしかない自分たちの運命に絶望している。
すべてを見抜いているかのような少女の言動に怯える夫。
孤独の泥沼に沈んでいく恐怖を感じ、SOSを発信しても誰にも気付いてもらえない妻。

そんな絶望とあきらめに支配されたような物語であるだけに、ラストの希望の調べが胸を打つ。
音楽学校の実技試験で美しいピアノの調べに誘われて、一人また一人と演奏する子供のそばに集まってくる大人たち。
そして拍手。無言の集団はやっと感動を行動にあらわす。家に帰ればまたつらい現実が待っているのかもしれないが、それでも束の間、人間であることを思い出したように音楽に聞き惚れ、拍手をする。

とにかく生きていよう。生きていればいいことあるよ。そんなことをラストは言っているような気がした。
人間らしく活きることが、つらい現実に対する唯一の対抗手段なのだ。

香川照之と小泉今日子の演技はあまりに素晴らしく、次男役の井之脇海くんも素晴らしい。ベテラン失業者の津田寛治、ピアノの先生の井川遥、学校の先生のアンジャッシュ児島も素晴らしく思えた。
唯一ちょいと違和感なのが泥棒の役所広司。うまいし、清作品にこの人がいないとそれはそれで寂しいから、いいのだけど、なんだかミスキャストな感じがしなくもなかった。大げさ過ぎな印象がちょっと。一方で泥棒に逆ギレする小泉今日子は観ていてすっきりするくらいハマっている。彼女を引き立たせるためわざとちょいウザ目にしたのかもしれない。
もし泥棒役をアベサダヲが演じていたむちゃくちゃ面白かっただろうなぁぁぁ、と思うけどそんなことしたら映画の質が変わるので、バランス考えれば仕方あるまい。でも観てみたい。

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2 コメント

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役所の役 (aq99)
2009-01-12 20:21:10
私はこの映画の役所広司、アリでした。
確かに「イヨッ!待ってましたぁ~」って感じもあったんですが、この役は、別の役者がやってたら、もっとメチャクチャになってたかもしれんかったと思います。
役所は暴風雨が人間として現れた象徴ということで。
返信する
コメントどうもです (しん)
2009-01-26 19:08:32
>aq99さま
たしかに役所さんだから破綻の一歩手前で踏ん張れたのかもしれませんね
返信する

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