自主映画制作工房Stud!o Yunfat 改め ALIQOUI film 映評のページ

映画作りの糧とすべく劇場鑑賞作品中心にネタバレ徹底分析
映画ブロガーら有志23名による「10年代映画ベストテン」発表!

2016年映画マイベスト20(10位〜1位)

2017-01-04 01:36:36 | 私の映画年間ベスト
前回に引き続き2016年の映画ベストテンです。


【ベスト20】
1位 サウルの息子🇭🇺(ネメシュ・ラースロー)
2位 オマールの壁🇵🇸(ハニ・アブ・アサド)
3位 裸足の季節🇫🇷🇹🇷(ドゥニズ・ガムゼ・エルグヴァン)
4位 さざなみ🇬🇧(アンドリュー・ヘイ)
5位 この世界の片隅に🇯🇵(片渕須直)
6位 ハドソン川の奇跡🇺🇸(クリント・イーストウッド)
7位 帰ってきたヒトラー🇩🇪(デビッド・ベント)
8位 デッド・プール🇺🇸(ティム・ミラー)
9位 風に濡れた女🇯🇵(塩田明彦)
10位 歌声にのった少年🇵🇸(ハニ・アブ・アサド)


11位 君の名は。🇯🇵(新海誠)
12位 オーバー・フェンス🇯🇵(山下敦弘)
13位 レヴェナント 蘇りし者🇺🇸(アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ)
14位 ソング・オブ・ザ・シー うみのうた🇮🇪(トム・ムーア)
15位 エクス・マキナ🇬🇧(アレックス・ガーランド)
16位 リップヴァンウィンクルの花嫁🇯🇵(岩井俊二)
17位 MILES AHEAD / マイルス・デイヴィス 空白の5年間🇺🇸(ドン・チードル)
18位 湯を沸かすほどの熱い愛🇯🇵(中野量太)
19位 マジカル・ガール🇪🇸(カルロス・ベルムト)
20位 家族はつらいよ🇯🇵(山田洋次)
次点 ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー🇺🇸(ギャレス・エドワーズ)

【ワースト5】
1.バットマンvsスーパーマン
2.ルーム
3.ヘイトフル・エイト
4.母と暮らせば
5.シン・ゴジラ
11位以下とワーストの解説は別記事に

-----
【解説】
10位 歌声にのった少年🇵🇸(ハニ・アブ・アサド)

2016年ベストテンでどんな作品と出会おうともこの作品は絶対10位にすると決めていた。後述する「オマールの壁」とあわせて、パレスチナの映画監督ハニ・アブ・アサドを知ったことが2016年のもっとも大きな収穫だった。そして映画を通してパレスチナの人たちや暮らしを知った。ニュースで聞いた通りのことも、ニュースで聞かなかったことも、ニュースで聞いたこととは違うことも知った。
でも重要なのはパレスチナの人たちも俺たちと変わらないことがはっきりわかった。
ありがちな音楽サクセスストーリーではあるけれど、戦火で荒廃したガザのロケは重い現実を突きつける。ラストの突如当時のテレビ映像に変わるフィクションとドキュメンタリーの融合が、歌声が世界を変えるというポジティブなメッセージをより強く投げかける

-----
9位 風に濡れた女🇯🇵(塩田明彦)

「ローグワン」「君の名は。」「レヴェナント」を差し置いてこんな超低予算ポルノ映画がベストテンでいいのか?いいんです。
何も宮永挙が照明でクレジットされてるから贔屓してるわけじゃない。
んなわけねーって感じのポルノコメディに笑いつつも感動したからであり、魂を震わせた感では「君の名は。」よりこっちの方がすこーし上だった。
自称芸術家が世間を離れて隠遁生活を始めるが、性欲の前に薄っぺらいアーティスト魂あっさり崩壊していくその様の皮肉たっぷりかつ男をねじ伏せたどう猛な女の痛快っぷりに感動を禁じ得ない

-----
8位 デッド・プール🇺🇸(ティム・ミラー)

下ネタと残虐アクションのみで作った奇跡と執念のヒーロー映画。正義の心より下品なギャグと血みどろ殺戮描写を優先する映画。物語のまとめよう無くなって、女が悪に捕まったから助けにいく鉄板の展開にして、巨大セットぶっ壊して無理やり盛り上げハッピーエンドなバカ丸出し感も含めて最高最高最高とひたすらハッピーになったが、常識的な一般人にはオススメしにくい映画である。
でもあれだ、「キックアス」とか「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」とかが好きな人なら絶対大丈夫

-----
7位 帰ってきたヒトラー🇩🇪(デビッド・ベント)

今の時代がどうの、EUと移民問題がどうのと、そういう解説はやめとく。
なんか知らんが現代に蘇ったヒトラーを巡る物語のうまさに笑う。
認知症の婆さんが実はアウシュビッツの生き残りでヒトラーの顔だけは覚えていて本物と見破るくだりは作劇の妙と言わずしてなんと言おう。
オリヴァー・マスッチのヒトラーなりきりっぷりも素晴らしい。彼が極右政党を訪ねて、なんか気弱そうで人の良さそうな極右のリーダーたちをタジタジさせる面白さもちょいデンジャラスほっこり
「ヒトラー最期の12日間」のパロディも笑える

-----
6位 ハドソン川の奇跡🇺🇸(クリント・イーストウッド)

ドナルド・トランプが勝利してハリウッドセレブの多くがSNSで落胆、悲しみ、怒りを発信していたころ、クリントだけが「ありがとうアメリカ!」と歓喜のツイートをしていたことは、正直とても残念なことなのだけど、でも彼がどんなにトランプを支持しようとも彼が映画における巨匠中の巨匠である事実は決して変わらない。
たった200秒足らずの出来事を題材に緊迫のサスペンスに仕上げ、人間性のない数字上の事実だけで正誤を問おうとする「組織」あるいは「社会」VS現場判断で己の正義を貫く個人の戦い。
そうか、今わかった。この映画は完璧にアンチ「シン・ゴジラ」でもあるじゃないか

-----
5位 この世界の片隅に🇯🇵(片渕須直)

日本映画においてアニメだけは本物だ。そんなことを改めて感じた2016年。「君の名は。」も素晴らしかったけど、でも「この世界の片隅に」が2016年のアニメの、そして日本映画のもっとも偉大な作品である。
これを実写でできない日本映画界の低迷なんて意見も聞いたが、むしろこんなアニメが作れる日本アニメ界の凄さを賞賛するべきだろう。
空襲シーンの絵具を叩きつけるようなイメージシーンの美しさ、不発弾が爆発したシーンのアニメ的である以上に映画的な発想による処理。日本映画クラシックのような物語でありながら、猛スピードで駆け抜ける大胆な語り口。珠玉の名作と呼ぶのが相応しい新たなクラシックの誕生

-----
4位 さざなみ🇬🇧(アンドリュー・ヘイ)

2016年もっともじわじわ来る映画。結婚45周年記念パーティーを直前にした夫のある過去の発覚に心がざわめく妻。
45年連れ添っても女は女、男は男。夫婦といえども所詮は他人。ラストのダンスシーンのあんなに心のすれ違いまくったツーショットを今まで見た事あっただろうか。
この映画を観る女たちはわかるわかると思って男の悪口を言い合えるだろう。男たちは自らを戒めるためにこの映画を観るべき。

-----
3位 裸足の季節🇫🇷🇹🇷(ドゥニズ・ガムゼ・エルグヴァン)

いちおフランス映画である。アカデミー賞外国語映画賞でフランス代表にもなった映画である。しかし、トルコ人監督が、トルコ人俳優を使い、トルコでロケし、トルコ語で、トルコ社会を描いた映画だから、実質的にはトルコ映画であろう。
「乱」が海外ではフランス映画扱いされるのと似たようなものかもしれない。
また、そんな「ほとんどトルコ映画」をフランス代表にするフランス映画界の懐の広さもすごいと思う。
これは、人に勧める映画というより、ただただ俺の好きな映画である。
この映画は、ジャンルでいえば、実は「脱走映画」なのである。脱出不可能な要塞と化した我が家から、自由のために脱走する女の子の物語。ラストのイスタンブールの街並みの美しさは忘れがたいが、さりとて決してハッピーエンドではないだろう。彼女らはすぐに連れ戻されるかもしれないし、そうじゃないにしても金銭的に恵まれた生活は送れないに違いない。でも彼女たちは古い慣習に縛られた社会に一瞬であろうとも勝利した。その人間としての誇りを胸にきっと悔いのない人生を生きていくのだろう。
青春映画としても脱走映画としても大傑作な本作と出会えてよかった。これがデビュー作となる女性監督ドゥニズ・ガムゼ・エルグヴァンに期待大

2016年は本当に傑作揃いの年だった。そんな2016年の傑作群の中でも、明らかに格の違う映画が2つあった。

-----
2位 オマールの壁🇵🇸(ハニ・アブ・アサド)

「歌声にのった少年」とあわせて、2016年はハニ・アブ・アサドの年だった。ガザのつらい現実を描きつつもポジティブな内容だった「歌声にのった少年」と対照的に「オマールの壁」はあまりにつらいパレスチナの現実を提示する事しかできなかった。それくらい「壁」は高かった。
これは日本映画でいえば、不良映画くらいのものかもしれない。しかし日本の不良が盗んだバイクで走るくらいの感覚で、パレスチナの不良は国境のイスラエル兵を狙撃するのである。
彼らの街には占領軍によって勝手にものすごく高い壁が作られ、壁向こうの恋人に会いたいだけなのに警備兵に銃撃されるリスクを負わねばならない。
イスラエルにより築かれた壁が全ての人間の人生を歪めていく。友情も恋愛も。
イスラエルにより二重スパイに仕立て上げられた主人公は、イスラエルを出し抜こうとする一方で、内部の何者かによる密告で裏切り者の汚名も着せられる。
不良映画で、スパイ映画で、ミステリー映画で、青春映画で、恋愛映画で、犯罪映画で、社会派映画
わお、こんなに俺の好きな映画要素全てが詰め込まれた映画今まであった。こんな映画が作れてしまうパレスチナの現実の重さと、でも面白い映画を作ろうという映画人としての衝動のせめぎあい。
やはり映画は反骨の表現媒体だ。

-----
1位 サウルの息子🇭🇺(ネメシュ・ラースロー)

地獄と向き合うこと、それこそが映画なんだ。
ただ背景がボケていればかっこいいからという程度の理由でそういうレンズで撮ってる奴ら(自分もそういうところあるけど)は、この映画を観て学ぶべきだ。
この映画で背景がぼけているのは、雰囲気出るからとか、安いセットをごまかすためとか、そんな理由ではない。執拗に主人公以外をボケボケに写すカメラのそのボケの向こうには間違いなく作り込まれた地獄がある。
表現不能な地獄を表現するためのレンズだ。
いい話、泣ける話、そんな映画は地獄と向き合った映画には敵わない。
「サウルの息子」と「オマールの壁」のみが、映画作家が血反吐吐く思いで表現する気迫がみなぎっていた。
「オマールの壁」はロケによりパレスチナの今を刻みつけることに魂を傾け、「サウルの息子」はセットでアウシュビッツの地獄を再構築することに魂を削っていた。
この二作品は多分、2010年代のベストテンにもランクインするだろう。全ての人に観て欲しい必見作。

-----
【個人賞】
[監督賞] ハニ・アブ・アサド(オマールの壁、歌声にのった少年)

[作曲賞] エンニオ・モリコーネ(ヘイトフル・エイト)

[女優ベスト5]
1. シャーロット・ランプリング姐さん(さざなみ)
2. アリシア・ビキャンデル(エクス・マキナ)
3. 蒼井優(オーバー・フェンス)
4. Cocco(リップヴァンウィンクルの花嫁)
5. ギュネシ・シェンソイ(裸足の季節)

[男優ベスト5]
1. オリヴァー・マスッチ(帰ってきたヒトラー)
2. レオナルド・ディカプリオ(レヴェナント)
3. オダギリジョー(オーバー・フェンス)
4. ライアン・レイノルズ(デッド・プール)
5. アダム・バクリ(オマールの壁)



女優は、新境地開拓な蒼井優さんのコミカル演技も、映画の空気と一体化したような存在感を見せたCoccoさんも素晴らしく、すでに大スター感あふれるアリシア嬢と、トルコの可愛い ギュネシちゃんのピッチピチの若さも良いんだけど、でも圧倒的に格上の演技でオンナを見せてくれたシャーロット姐さんこそ2016年のベスト女優に相応しい。

男は演技がどうこうというより、執念でデッド・プールを完成させあのお下劣ヒーローに魂を吹き込んだライアン・レイノルズちゃんを推したいところだが、デカプリオの全身全霊でのウルトラオーバーアクトも忘れがたい。あまりアメリカ映画が振るわなかった2016年作品はこの2人がアメリカ映画の質を支えた。
オダギリジョーさんはクウガから「血と骨」くらいまでを第1ピークとすると、「舟を編む」から「オーバーフェンス」「湯を沸かす〜」の今が第2ピークだ。ダメ中年演技がこれほどハマる人はいない。
パレスチナのイケメンのアダム・バクリ君はきっとこれからイスラム圏以外でも活躍してくれるだろう。
いい男の多かった2016年のベスト男優は、街頭でのアドリブシーンも含めてヒトラーになりきったオリヴァー・マスッチに。


----
【番外1】
「グランド・フィナーレ」🇮🇹(パオロ・ソレンティーノ)


アメリカに行く飛行機の中で観た。タブレット端末程度のサイズの画面で観たに過ぎないのでベストからは外したが、マイケル・ケインとハーヴェイ・カイテルの素晴らしい演技がジンジンと心に響いて忘れられない映画の一本

----
【番外2】
池袋新文芸坐アンドレイ・タルコフスキー・オールナイト
「ノスタルジア」🇮🇹
「ストーカー」[ソ連]
「惑星ソラリス」[ソ連]


リバイバルだからベストから外したが、あれだけ「オマールの壁」と「サウルの息子」を絶賛しておいてなんだが、2016年に観た映画で一番すごかったのは文句なく「惑星ソラリス」だった。他の二作品も衝撃的だったし、ちゃんとフィルム上映で観れたこともあわせて、唯一無二すぎる映画作家タルコフスキーとの遅すぎる出会いとなった3本立てオールナイト鑑賞が2016年の本当の意味での最大の収穫だった。人生の糧になった。
「ソラリス」のラストのお湯かけ過ぎ感いつ思い出しても顔がニヤつく。

-----
というわけで、2016年の映画ベスト20でした。
2017年は観るより作る方を頑張りたいけど、でもやっぱもっともっといい映画との出逢いを楽しみにしています。

それではまた映画で会いましょう

☆★☆★☆★☆★
ALIQOUI film 制作『唯一、すべて』
女性同士の恋愛を描いたラブストーリー
45分
第8回ラブストーリー映画祭入選上映2017年4月(詳細未定)》
うえだ城下町映画祭ノミネート 上映2016年11月20日 上田文化会館》
日本芸術センター映像グランプリ公開審査上映 2016年10月29日 東京芸術センター》

監督 齋藤新
撮影 齋藤さやか
音楽 横内究
出演 小林郁香、安藤由梨江、宮本敏和
映画「唯一、すべて」予告編



こちらもよろしくお願いします


最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
あけましておめでとうございます (とらねこ)
2017-01-04 22:42:07
『この世界の片隅に』『帰ってきたヒトラー』『マジカル・ガール』がかぶりました。嬉しいです。
『サウルの息子』『オマールの壁』『裸足の季節』『デッド・プール』も私も大好きです。ワーストのシンゴジラもいいですね。

『さざなみ』と『歌声に乗った少年』を見逃してしまったのが痛いです。
必ず見てみたいと思います。
返信する
あけましておめでとうございます (ノラネコ)
2017-01-05 22:47:44
「風に濡れた女」と「裸足の季節」は私も迷いました。
前者のクライマックス凄かったですよね。
まるで剣豪同士の決闘みたいでしたw
今年もよろしくお願いします。
返信する
TB&コメントありがとうございます!! (めいぐると)
2017-01-09 19:26:46
「オマールの壁」は観ようと思って見逃していた作品でした。

「裸足の季節」「さざなみ」は私もベスト10に入れていて、
好みがもしかしたら似ているのかも知れませんね!!

今年もお互いに良い作品に出合えるといいですね!!
返信する
Unknown (aq99)
2017-01-22 18:35:24
今年のブロガーベスト10が、やっとできました。なんやかんや言うて、みなさんアメリカ映画が好きなようで・・・。私は、老眼の苦しみと共に、ハリウッド産の娯楽映画が、すっかり見れなくなってしまいました。それなら、まだ見てない昔のハリウッド映画を見る方がお得だと、「午前10時の映画祭」にお世話になってます。
「ソラリス」は、大昔まだスター・ウォーズ=SFしか知らなった時代に、90分尺に収められたTV放映版(今となっては貴重でしょう)を見て、ソ連製のSFに全く理解できぬまま拷問のように見た記憶があります。いずれ映画館で挑戦せねばと思ってます。
余談ですが、去年BSで不倫モノと勝手に決めつけて見ずにいた「マジソン郡の橋」を初めて見まして、イーストウッドの底知れなさにあらためて感銘をうけたのですが、ブログで同じように思っていらした記事を見つけて、あ~一緒やってんやな~と納得しましたよ!
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。