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小津安二郎監督のお墓参り…多分多くの映画ファンが知らない小津安二郎のお墓の真実

2014-11-02 11:36:50 | 映評でなく、映画についてのエトセトラ
鎌倉の小津安二郎のお墓参りに行こう、と妻が言った。
横浜に住んでいるゴダール(※1)好きで私よりずっとシネフィル(※2)な大学映研の後輩Oを誘った。彼と彼の妻とちっちゃな娘と5人で鎌倉に向かう。

小津安二郎のお墓にはただ一文字「無」と刻まれていることは映画ファンにはよく知られている。様々な書籍や雑誌やインターネット上の記事でそのことが書かれ、世界の巨匠小津安二郎と「無」というその取り合わせに神秘性や哲学性やあるいは俗っぽいドラマチックな深読みなどがされている。

私たちは小津家のお墓があるという北鎌倉の円覚寺に向かった。
JR横須賀線北鎌倉駅から徒歩5分。


「麦秋」(1951)(※3)当時の北鎌倉駅


現在(2014年11月)の北鎌倉駅

我々は円覚寺で小津の墓を探すが見つからない。

たまたまその日に境内で行われるらしい「父ありき」(※4)の上映会スタッフに、「小津先生のお墓はどちらですか?」と訪ねると丁寧に教えてくれた。

雨が強くなってきた。

沢山のお墓が並ぶ中で小津の墓があると思われるエリアに向かうと、厳かに「無」と刻まれたお墓を見つけた。
映画史に輝く巨匠のお墓にしては随分と小さく、お花もお線香もお供えされていなかった。何かが記された卒塔婆もないし、「小津」という文字はどこにもない。
それでも、小津を深く愛し尊敬し酒を飲めば笠智衆のモノマネをしていた私と妻とOは、雨の中、小津のお墓に手を合わせた。雨も「浮草」(※5)みたいでいいなと思った。

さてやることやったし、雨も強いし、帰ろうかと思ったが、情報によると小津のお墓の二つ隣にはなんと木下恵介のお墓があるという。木下恵介にさほど思い入れのない妻とOだが、私は「二十四の瞳」を5回観て5回泣いたのだ(※6)。「カルメン~」「喜びも~」「笛吹川」「野菊の如き~」も大好きなんだ、あわせてお参りを…と思ったが…
ない!ない!木下恵介のお墓がない。
そんな馬鹿な、と探しているうちに、少し離れた場所に、さっき手を合わせたお墓よりもう少し大きくてお花やお線香やウィスキーの小瓶などがたくさんお供えされた「無」と刻まれたお墓が…

まさか…とその二つ隣を見れば木下家乃墓が…
改めて大きい方の「無」の墓の卒塔婆を見れば「小津家代々之~」などと記述が…
しまった!なんてことだ!
私は妻やOを呼び寄せる。

そして雨の中、小津のお墓参りのやり直しとなるが、私たちから笑みが絶えなかったことは言うまでもない

きっと…たぶんイジワルな小津先生は私たちをニヤニヤしながら見ていて、たぶん優しい木下監督が「君たち違うよ」と教えてくれたのだろう。

雨が強くなってきたので我々は退散した。気がつけば「ホンモノ」の小津のお墓に手を合わせるのを忘れていた。

というわけで、映画ファンの皆さん、気をつけろ!
有名な小津安二郎の「無」の墓の近くに、もう一つの「無」があるぞ。
「無」どころか二つもあるぞ。小津先生の諧謔に気をつけろ!

追記
ちなみに円覚寺には小林正樹監督のお墓も、田中絹代監督(あえて監督と書いて)のお墓もあるそうです。雨が強かったので探さずに帰ってしまいましたが…
また鎌倉には黒澤明監督のお墓もありますよ。お忘れなく。

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※1 ゴダール
ジャン=リュック・ゴダール
デビュー作のわかりやすくて楽しい「勝手にしやがれ」をのぞいて意味不明な映画を撮り続けているフランスの巨匠。インテリぶってゴダールほめてもホントのインテリじゃないとすぐボロが出るリトマス試験紙的な監督

※2 シネフィル
古今東西どんな映画も観まくってるような奴のこと

※3 麦秋
小津安二郎監督作品。出演、原節子、笠智衆。
北鎌倉に住む三世代家族のある夏の日々を描いた小津作品中屈指の傑作。
いつも原節子の父親役の笠智衆が「麦秋」では兄役で、「東京物語」で笠智衆の妻だった東山千栄子が「麦秋」では笠智衆の母親だったりして面白い。
原節子さんはいまでも鎌倉に住んでおられて、時々小津監督のお墓参りをしておられるという。もしかして原節子さんに会えるのでは…なんてファンタジックな期待もしたがやはり会えなかった。お墓間違ってるようじゃ会えるはずないよな~

※4 父ありき
太平洋戦争まっただ中の1942年公開の小津安二郎監督作品。小津映画では初めて笠智衆が主演した作品。

※5 浮草
1959年の小津安二郎監督作品。松竹でなく大映で撮ったので中村鴈治郎、京マチ子、若尾文子といったなんとも言えずエロチックな印象(私の主観)の人たちが主役で並んで不思議な感覚。小津のカラー作品としては2作目。松竹で撮った初カラー「彼岸花」が色彩で遊びすぎた印象だったのに対して、「浮草」はもっと落ち着いてそれでいて効果的なカラーの使い方という印象。撮影は名カメラマンと名高い宮川一夫できっとこの方の色彩感覚に影響されて以降の小津映画のカラーの色使いが定まったのだと思う。
小津映画で雨と言えばシトシト降るくらいの印象だが、めずらしくどしゃ降りの場面があって、その中で感情むき出しの中村鴈治郎と京マチ子が痴話喧嘩するシーンが一番印象深い

※6 二十四の瞳
1954年の木下恵介監督作品。「七人の侍」と「ゴジラ」と同じ年に公開されている。なんてすごい年だ1954年。
「二十四の瞳」の自転車が映るあのシーンで泣かない奴はどうかしてる。同じシーンで私は5回泣いた。多分6回目も泣く。


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