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映画ブロガーら有志23名による「10年代映画ベストテン」発表!

スティング (7日間映画リレーの6日目)

2020-05-08 23:54:56 | 過去に観た映画
うえだ城下町映画祭の尾崎さんから頂いた7日間映画チャレンジの5日目
1日目は2020年代作品から「ミッドサマー」
2日目は2010年代作品から「i 新聞記者ドキュメント」
3日目は2000年代作品から「エレニの旅」
4日目は1990年代作品から「病院で死ぬということ」
5日目はまた1990年代映画から「ロボ・ジョックス」
そして6日目は・・・
1980年代は飛ばしちゃって、アメリカ映画のゴールデンエイジと思っている1970年代の映画から一つ

有名な映画ですが、今までで一番だまされた映画というかだまし方のうまい映画と思っているこの映画です

「スティング」
1973年
ジョージ・ロイ・ヒル監督


2020年公開の映画で、あのチョウ・ユンファ主演の「プロジェクト・グーテンベルク贋札王」という映画があり、ユンファ久々の二丁拳銃どころか二丁ライフルアクションが見れてまあまあの満足はしたのだが、納得いかない部分があった。
その映画の売り方が、「驚愕のラスト、絶対だまされる」・・・みたいなものだったが、そのだまし方は私が考える、だまし方の上中下における「下」のだまし方だった。
それは、25年くらい前に観たあの映画のことを思い出した。「ユージュアル・サスペクツ」だ。
当時大学映研で、この映画はだまし方がずるいと私は主張したが、映研内の評価はおおむねよくて、私のような憤りを抱くものはいなかった気がする。その時もだまし方の問題点について説明したがしっくり来てるものはいないようだった。

だまし方の上中下とは何かと言えば

タネを見せずにだますのが「中」
タネを見せてだますのが「上」
嘘を見せてだますのが「下」

というのが、数十年変わらない私の持論だ。

プロジェクトグーテンベルクにしろ、ユージュアル・サスペクツにしろ、そこで映像として観客に提示するのは嘘の再現映像なのだ。
これは嘘を見抜いてやろうとする観客に対してフェアではない。
嘘の供述をする男の声や、文字だけでそれを伝えるのならまだしも、嘘の供述に基づいた再現映像を見せるのはずるいと思う。
同じような「下」のだまし方の映画としては「アヒルと鴨のコインロッカー」も上げることができる。
ただし、だまし方が「下」であるからといって必ずしも映画としてダメという意味ではない。そのテーマ性や演技や映像で楽しむことができればそれでよい。
チャン・イーモウの「英雄」も完全に「下」のだまし方の映画だが、あれは次々と繰り出される妄想合戦のような謎の面白さで爆笑してしまった。大好きな映画だ。

で比較的多いのが「中」のだまし方の映画。
代表的なのは「シックス・センス」ではないかと思う。
あれは編集でのはさみの入れ方やカメラアングルなどの演出によって決定的となる場面を巧みに見せないようにしながら物語を進めるのだ。
で、最後にすべての種明かしでおおお、そうだったのか・・・と思わせる。
わかってから見ると、だからあの時あそこでカット変わったのかなどと、そうした演出上の工夫がわかって楽しいのだ。
(ちなみにこの映画は、当時海外に留学していた映研の後輩が、日本公開前に映研の掲示板に普通にネタバレを書いていたため、めちゃくちゃ興ざめしながら観てしまった悲しい思い出がある)
他にも「クライング・ゲーム」も「中」のだまし方にあたらないかな?

で、私は「上」のだまし方、つまり観客によっぽど肝心なところ以外は何もかも見せておきながらだますというやり方が好きだ。
「探偵スルース」とか「情婦」とか何も隠すことなくさらしておきながら、だまされるのだからすごい。
ただしスルースは演技と特殊メイクがすげーと思うくらいで映画的な高揚感はそうでもなかった。
情婦は、な・・・なにぃぃ!とビビりまくって、二転三転のストーリーとキャストたちの好演と、テンポいい語りが見事だった。

ただし「上」「中」「下」に限らずだまし映画に多いのだが、ようするにそのとっておきのだましネタ一発にすべてをかけているものが多い気がする。
それは「情婦」も「シックス・センス」も「ユージュアル・サスペクツ」も同じだ。

その点「スティング」がだまし映画として最強と思うのは・・・
まずだまし方が完全に「上」だ。
観客にはすべてを見せている。嘘を見破るネタはすべて提示しているのだ。少なくともだまされるロバート・ショーと観客は与えられる情報が全くおなじだ。もちろん嘘の再現映像など1カットもない。
しかも、だましネタは三重四重に重なっていて、そのどれもが見返すまでもなく、ああだからあの時・・・と思い返して、見事にしてやられたと気づくのだ。
ここまで見事に一つの映画で何度も騙されたら、くやしいなんて思わず、膝を打って喜びたくなるくらいだ。
私はこの映画だまし方がうまいというだけでなくもしかしたら映画史上もっともすぐれた脚本ではないかと思うくらいに、ストーリーテリングが美しいと思う

もうひとつ、この映画の魅力をあげるなら、マービン・ハムリッシュの音楽だ。
ハムリッシュが作曲したわけではなく、スコット・ジョプリンの音楽のアレンジだけど、暗黒街のボスを命がけでだます映画らしからぬ軽い軽い音楽。ハムリッシュの軽さと楽しさはいつも通り。「007私を愛したスパイ」も好き
ジョージ・ロイ・ヒル監督は、あまり決まった作曲家は使わないが、その人選から映画で目指すものがわかる
「明日に向かって撃て」⇒バート・バカラック
「スローターハウス5」⇒グレン・グールド
「リトル・ドラマー・ガール」⇒デイブ・グルーシン
ああ、この人、映画に深刻さなんて何も求めていないんだ。
ジョン・ウィリアムズとかエンニオ・モリコーネみたいなゴリゴリの音楽でなく、ニューシネマの人らしい、ポップでライトな音楽
「スティング」のサントラは、映画音楽史に残る名盤。ついつい何度も何度もリピートして聞いてしまう。
スティングを観てなくても、サントラを聴くだけで、詐欺師どもの楽しい世界にいざなわれるよう

#savethecinema #映画リレー

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映画リレー/7日間の映画チャレンジ
7日間の映画チャレンジとは、映画文化の普及に貢献するためのチャレンジとします。#savethecinema に紐づけたいという試みで始めます。
参加方法は好きな映画を1日1作品、7日間投稿するというもの。
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