マーラーが印象深い映像作品を紹介しようと思いまして、『ベニスに死す』はもう書いたし…となればこれでしょう!『銀河英雄伝説』です
80年代末から90年代にかけて制作されたアニメ番組です。
はるか未来、銀河帝国と自由惑星同盟の戦争で、野望に燃える帝国軍人ラインハルトと、惑星同盟の戦争嫌いの天才軍略家ヤン・ウェンリーの2人を主軸に描くSF作品です。
スターウォーズの例もあるように宇宙とシンフォニーは親和性高いのですが、この作品ほどクラシック音楽を、特にマーラーをこれでもかと効果的に使った映像作品は他にありません。
なにしろ第一話の冒頭から、マーラー交響曲3番の第一楽章のあのホルンの力強い冒頭部が高らかに鳴るのです。
クラシック音楽ファンは、おいおいいったい何が始まるんだ!?とツカミバッチリです。
マーラー3番が流れる中、簡単に銀河帝国と自由惑星同盟の戦争の歴史がナレーションで語られます。
そして物語は早速戦争へと。
帝国の若き指揮官ラインハルト・フォン・ローエングラムが、年寄り将校たちに生意気な若僧がと思われながら作戦指示を下すあたりもマーラー3番が続きます
自由同盟の軍は帝国の2倍
数に物言わせて包囲して一気に叩くつもりらしいです。
対してラインハルトのとる作戦は、全軍集中させて一点突破をはかり、分散した敵を各個撃破していくというもの。
その帝国の作戦を惑星同盟側ではただ1人、若き士官のヤン・ウェンリーだけが見抜いていて、指揮官に兵力分散の懸念を伝えるのですが、こちらもまたベテラン指揮官は青二才は黙ってろと言わんばかりに聞く耳を持ちません。
いよいよ開戦。
帝国の戦闘機ワルキューレが出撃する時もまた、マーラー3番の第一楽章が響きます
そして第一部隊を救助すべく駆けつけた第二部隊(第一部隊は既に全滅していたとも知らず)が、ほとんど無傷で第一部隊を全滅させたラインハルト艦隊の攻撃を受けます
すると今度はマーラー2番の第一楽章がかかるのです。
マーラーと戦争
予想外のこのぴったり感
震えましたよ
で、惑星同盟はラインハルトの各個撃破戦術の前に全滅かと思われます。幸いにも頭の硬い司令官が負傷しヤンが指揮官代理になりまして、彼の戦術にラインハルト艦隊は翻弄されて、自由惑星同盟軍はなんとか全滅は回避できました。
こんなあたりが第1話〜2話です。
25話まで視聴しましたが、マーラー交響曲は、2番、3番、4番、5番、6番、7番、9番の使用を確認しております。ここまで使っておいて、最も使い勝手の良さそうな1番が無いのも変なので聴き漏らしたかもしれません。
3番の冒頭部は様々なエピソードの冒頭で何かにつけて流れます。主に銀河帝国と惑星同盟の歴史を語るナレーションのBGMとして
とりあえずマーラーの使用場面を列挙してみました。
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●第3話
マーラー6番1楽章
憂国騎士団(愚連隊風の武装右翼集団)がジェシカの前に現れる。
マーラー5番4楽章(アダージェット)
ヤンとジェシカの空港での別れのシーンで使われます。ジェシカは第一話の戦闘で亡くなったヤンの親友の婚約者で、実はヤンもジェシカのことを思っていました。彼女は婚約者の死を受けて反戦平和活動家(のちに議員)となります。軍人のヤンとは政治的な立場としては敵同士となるのですが、二人は人間同士、いやほんのりと男女として惹かれあっていきます。ジェシカが政府から目をつけられ愚連隊みたいな政府系軍事組織(紅衛兵のイメージか?)に襲われるのをヤンが救って宇宙空港から亡命でも無いですが一時退避先の惑星へと逃がすのですが、そのシーンでのアダージェットが良いのです。ヴィスコンティに負けない使い方です。
第10話でヤンとジェシカが再会するシーンでも使われ、さながら2人の愛のテーマです。
●第5話
マーラー5番
キルヒアイスの反乱鎮圧において5番を多用
●第6話
マーラー4番1楽章
フレデリカの回想。エルファシルの戦乱でのヤン・ウェンリーとの出会い。17話でも同様の使い方をされており、ヤンとフレデリカのテーマ的な扱いか
マーラー2番1楽章
イゼルローン要塞の帝国艦隊出航
●第7話
マーラー6番1楽章
イゼルローン要塞をめぐる攻防で、かなり長めの尺で使われる
●第8話
マーラー7番1楽章
オーベルシュタインがラインハルトに帝国打倒の野望を語る。
マーラー9番4楽章
若き日のラインハルトとキルヒアイスの回想。「2人で宇宙を手に入れるんだ」
マーラー9番というと、つい死生観的な感じで使いたくなるものですが、この場面明らかに若者が未来の夢を語る(銀河統一という普通の若者とはスケールの違う夢ですが)その心情を描くのに使われていて、マーラー9番への偏見が解きほぐされたような気がしました。
●第10話
マーラー5番3楽章
ヤン・ウェンリーが士官学校の式典に招かれて惑星ハイネセンを訪れる。
マーラー5番4楽章
ジェシカと再会するヤン。
●第11話
マーラー4番4楽章
銀河帝国皇帝が、劇場でオペラを鑑賞している(なぜかかかっている曲はマーラー4番4楽章)
マーラー7番1楽章
ラインハルトの姉アンネ=ローゼが皇帝の愛人シュザンナに謀殺されそうになるとき
●第13話
マーラー6番の第2?3?楽章(アンダンテ)
同盟軍の侵攻に備えて領内の惑星の物資をことごとく接収した焦土作戦を持って同盟軍の補給線を断とうとするラインハルト
帝国領内ののどかな惑星で、帝国政府の命令に従うか否か苦悩する領主の描写
●第17話
マーラー4番1楽章
フレデリカのエルファシルの回想。
●第18話
マーラー7番5楽章
新皇帝即位をめぐる帝国内の政治闘争を説明するナレーションのバック
マーラー6番のスケルツォ
帝国内乱で、ラインハルト家を敵対勢力の地上部隊が襲撃するが、察知していたラインハルト側部隊によって逆に全滅される
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25話まで全使用シーンを紹介と思いましたが、疲れてきたのでこの辺で…
マーラーの作曲意図など知ったことかと、とにかくあちこち使い倒してますが、こんだけ活用されたらマーラーも草葉の陰で喜んでいるのではないでしょうか?
この銀河英雄伝説ですが、マーラーのみならず様々なクラシック名曲が宇宙に響き渡ります。
ベートーベンとドボルザークの使い方も感動ものだったので、次回も銀英伝でいきたいと思います。
それではまた
銀河の歴史がまた1ページ…