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フィクサー [監督:トニー・ギルロイ]

2008-06-04 01:11:41 | 映評 2006~2008
個人的評価:■■■□□□
[6段階評価 最高:■■■■■■(めったに出さない)、最悪:■□□□□□(わりとよく出す)】

期待度は低くても映画ファン的には一応押さえておきたいのがアカデミー作品賞候補作。我が松本市では5/31公開の「フィクサー」が第一弾であった。(今後、6/14「JUNO」、6/28「つぐない」、7/5「ノー・カントリー」、「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」はまだ予告編もポスターも見かけない)

【ネタバレなしの映評概要】

「フィクサー」は内容的には渋すぎて微妙というか、ぶっちゃけあまり面白くはなかった。
終盤の盛り上がり、映像の美しさはさすがにハリウッド。伏線となるショットは何気に印象的に写していたりするところに監督とカメラマンの冷徹な計算が窺えたり、どうでもよさげな人間関係説明がきちんとラストまでには物語に組み込まれてきて心地よく収束していく脚本は一流プロフェッショナルの仕事だなと関心させられもする。
ジョージ・クルーニーはかっこいいし、ティルダ・スウィントンにトム・ウィルキンソンの芝居も見ごたえあり。ついでに弁護士事務所のボス役のシドニー・ポラックがまたかっこよくて、この人は監督より俳優の方が向いていると思ったりもさせられた。
(追記 08/06/05 知りませんでした。シドニー・ポラック監督亡くなっていたのですね。いやはや。5/27に亡くなり、観たのは6/1でした。ご冥福をお祈りいたします)
全般ハイレベルなハリウッド作品だったとは思うのだけど、やはり脚本の問題か、主人公のキャラはつかめないし、農薬会社が隠蔽しようとする事件の全貌も見えてこないので、感情移入も難しく、次の展開への興味も沸いてこない。
しかしそもそもがフィクサー(もみ消し屋)を題材とした社会派サスペンスあるいはハードボイルドミステリーと期待したのがいけない。邦題は「フィクサー」だが、原題は「MICHAEL CRAYTON」という主人公の名前をタイトルにしている。作り手の狙いは何か。社会悪の追求でも、フィクサーたちの暗躍でも、娯楽サスペンスなどでもなく、単に1人の男の数日間を主役を演じるスターと一緒に経験してもらおうとしたことだったのではないか。
そうなると「フィクサー」という邦題にミスリードされたのかもしれない。そうはいっても「マイケル・クレイトン」なんてタイトルじゃ客を呼べそうにもない。
たぶん、ふさわしい邦題は「あるもみ消し屋の四日間」とかそんなあたりだったのだろう。(なんにせよあまり客を呼べそうな題ではない)


余談だが、米英の映画には主人公の名前それだけをタイトルにする作品が多い。
有名人でも歴史上の人物でもない架空のキャラ名それだけをタイトルにしてしまう作品。
『エリン・ブロコビッチ』(←架空じゃないけど無名人だし)、『JERRY MAGUIRE(邦題「ザ・エージェント」)』、『BILLY ELLIOT(邦題「リトル・ダンサー」)』(『フォレスト・ガンプ』もか。最近でも「ROCKY BALBOA」とか「JOHN RAMBO」というタイトルの映画が作られたが、あれらはまあ有名人みたいなもんだからいい)
日本にも「姿三四郎」とか「椿三十郎」とかないわけじゃないけど、たとえば2008年現在において「山本秀雄」みたいなタイトルの映画が公開されたとして観る気が起きるだろうか
「山本氏の素敵な食卓」とか「事件記者・山本秀雄」とか「山本秀雄と魔界砦の番人」といったタイトルならわかるのだが。
ああいう「主人公名タイトル」で企画が通ってしまうのって、あちらのお国柄なのだろうか。

【以下ネタバレありの映評詳細】
まず、冒頭。娯楽映画のセオリーでいけば、最初に主人公のフィクサーとしての凄腕ぶりを見せつけるところだろう。果たしてわれらの期待通りにジョージ・クルーニーに「もみ消し」の依頼がきて、彼は誤って人を轢いてしまった大口顧客のもとに行く。しかしそこでの彼はやる気のない態度で「では弁護士を紹介しましょう」とかそんなことを言うのみ。
こちらの期待を裏切る。意外といえば意外だが、どうもすっきりしないまま、彼は車で飛び出し、そして丘の上にいた馬に心引かれ車を降りたところで、車が爆発する。
なぜ馬を見に行ったのか、この時点ではさっぱり判らない。が、後々になって息子の大好きな本に、彼が見たのと同じような絵柄の挿絵があったことが説明される。
その他、カーナビが壊れている、でこぼこした道を猛スピードでジャンプして通り過ぎる時対向車線をやはり猛スピードで走っている車がいる・・・などなど思わせぶりな映像は全て後々のシーンに反復され蘇る記憶とともに緊張感を高めていくところが上手いのだが、反面で冒頭シーンだけ見ている間は意味不明で無駄に長いと感じるだけなのである。


そんな冒頭シーンはまだ後々につながるからいいとしても、クルーニーのフィクサーとしての仕事ぶりは物語全般を通してほとんど描かれない。やたら色んなところに出向く弁護士くらいにしか見えないし、実際物語全般を通じてただの一件の「もみ消し」も行っていない。
また物語の主要な軸となる農薬会社による健康被害事件もその全貌がほとんど描かれない。
どんな被害が出たのかが誰かの口なり、映像なりで説明されることがない。訴えられた農薬会社の担当弁護士の常軌を逸した錯乱ぶりからその事件の酷さを想像するほかない。
原告側の人間も登場するにはするが、被害の深刻さを訴えたりすることはなく、ただ物語を動かすパーツとなっているに過ぎない。
「もみ消し」は行われず、根幹となる事件の全貌も見せない。
それを見せる目的ではなかったのだろうが、事件の詳細もわからないから観ている我々は農薬会社を断罪できないし、主人公の能力も不明なので彼を評価することもできない。
結果として、退屈で冗長と感じさせる序盤から中盤である。
しかし判らない判らないとはいっても、90分も見続けていれば何とはなしに判って来るもので、そのおかげもあってやっとサスペンス映画らしくなってくる終盤はけっこう見入ってしまった。90分我慢した結果なんとか主人公が感情移入の対象になったというところだ。


映像面の美しさはハリウッドの一流の仕事を感じさせた。
トム・ウィルキンソンが殺されるワンカット長まわしのかっこよさはもちろんのこと、彼が襲われて絶命するまでをリアルタイムで見せ続けられることで、観客は殺人事件の目撃者の気分を味わえる。
ラストシーンのカメラも秀逸で、ティルダ・スウィントンを嵌めて一応の勝利を得たジョージ・クルーニーが去る時、カメラは彼を乗せて下っていくエスカレータを真上から俯瞰で捉える。
上下に動くエスカレータ、乗ってる人は進行方向前方へと動くエスカレータと、並走する逆向きのエスカレータとを、カメラはシネスコにぴったり収まるよう真横に収める。上下移動を目的とした三次元的なエスカレータを左右しか次元を持たない二次元的な画に封じ込める。だからなんだといわれれば何も無く、ただ美しいだけなのだが。
それにしても、建物や位置関係をワンショットで立体的にかつ遠近感を強く感じさせるカメラの中に、このようにあえて立体感も奥行きも押し殺した画を挟んでくるあたり、映像に対するセンスの良さがよく出ている。


ただそのラストの展開は・・・・一体、何度目だろう・・・「実は録音してました」オチ。
ハリウッド映画で実に多くの悪党たちがこのテに引っかかってきたものだが、また一人・・・
悪党たちはいい加減に成長した方がいい。

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2 コメント

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コメントありがとうございます (しん)
2008-06-09 19:50:39
>sakuraiさま
「JUNO」と「つぐない」はでっかいシネコンで
「フィクサー」と「ノーカントリー」はぼろっちい場末の映画館で(大好きな映画館ですが)やります。

むしろ「フィクサー」は狂兄さんを狙う2人組のことだったのかも・・・と思ったりします
返信する
どうもです (sakurai)
2008-06-04 10:47:28
松本にて、次々と上映!!おめでとうございます。
あの郊外のでっかいシネコンですか?
去年行ったとき、土産をあそこで済ましました。
って、どうでもいいのですが、なんで「フィクサー」にしちゃったんでしょうね。
どう見ても「フィクサー」ではなかったです。
私はフィクサーというのは、もみ消しやよりは、裏で操る奴・・という理解をしていたのですが、どうなんでしょうか。
鳴り物入りの割には、小品だったかなと。
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