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チェンジリング [監督:クリント・イーストウッド]

2009-03-02 01:31:00 | 映評 2009 外国映画
個人的評価: ■■■■■□
[6段階評価 最高:■■■■■■(めったに出さない)、最悪:■□□□□□(わりとよく出す)]

もうすぐ80にもなろうというのに、今でも魂を揺さぶり、映画の面白さを堪能させてくれるイーストウッド。
ミスティック・リバーのサスペンス、ミリオンダラーの女の魂、父親たちの星条旗の反権力を合わせた贅沢な一品。目立ちすぎるアンジェリーナの力演を余すところなく伝えすぎたカメラで所々破綻しそうになりつつも、絶好調の監督は少々の欠点などものともせずにまたも傑作に仕上げてくれた。

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巨匠の風格、または、マンネリ、どう言われようとも微塵も揺らがないイーストウッド節が炸裂しまくる精神病院のシーンがあまりに面白い。サスペンス、ユーモア、絆、成長、笑わせ泣かせ怖がらせ熱くさせ・・・とあらゆる方向に気持ちがぶんぶん振り回される。僕が「チェンジリング」を好きな理由の恐らく80%くらいは、この精神病院のシーンのためだろう。
なんといっても解放シーンがいい。一言も喋らず、ただ見つめ合い微笑み合う2人の姿を観て、嗚咽がこみ上げ、それを抑えようとして腹が痛くなるくらいだった。
なんならこのシーンだけで一本の映画にしても良かったではないか。(訳ありそうな女が病院に送り込まれてくるところから始まり、やがてその患者によって病院に変革がもたらされ・・・ってそんな映画はいっぱいあるか。)
何かで読んだが、イーストウッドは自分の母をイメージして本作のヒロインを演出していったとか。
確かに、あのヒロインが「イーストウッドの母ちゃんです」と言われたら、100%納得。
「くたばるがいいわ!」(うろ覚え)を決め台詞に、権力に喧嘩を売る母ちゃん。かっこいいぜ。
母の愛は人生に希望を灯し、女の強さはクソみたいだった社会を変えた。
そんな女の魂のドラマに酔える。

病院のシーンだけでなく全般、ストーリーテリングが巧みすぎる。
何を知っているのかどれほど関わっているのか判らない不気味な少年。
タフな刑事が農場に乗り込むシーン。
殺人鬼がヒロインに何か、事件の真相に関することを語るのではと、期待させ続ける終盤の展開。
・・・「深遠なテーマを持った人間ドラマ」であるとか「社会派ドラマ」であるとか、そのような観方をするよりも、単純に「サスペンス」として楽しむ方が相応しい映画である。

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とはいっても、人間を描いたドラマとしての完成度も相当高い。
薄幸ヒロインのメソメソ泣かせものや、退屈な偉人伝撮って満足するようなイーストウッドではない。
ヒロインは悲劇の中においても、生きている限り自然と人生を楽しもうとする。職場上司との何とはなしの恋の予感にそれが現れているし、希望を見出しすラストの姿にも悲劇に似つかわしくない爽やさが漂う。
精神病院のシーンでの「夜のお仕事の女」との交流によってたくましい女へと成長していく過程は何にも増して観る者を熱く感動させる。
それでも人は生きて行くし、生きている限り成長していく・・・そんなことを思わされるドラマであった。

ただし、そう思えば思うほどに終盤のアンジェリーナ・ジョリーの演技に違和感を覚える。
泣き過ぎではないだろうか。
前半はともかく、殺人犯に「ぶっとばすぞ、てめえ!」って感じで食って掛かるほどに成長した後半においては、「それでも泣かない強いおっ母」であって欲しかった。
ラストの笑顔との対比としてその直前シーンでの涙は必要だったかもしれない。気持ち的に泣くのも判る。それでも演技過剰な印象は残った。
そう思わせたのは、カメラとキャスティングの負の相乗効果のせいかもしれない。
アンジェリーナ・ジョリーという女優は、顔は濃いし各パーツはでかいし、同じ事をしても他の人より目立ってしまう、ある意味不幸な女優だ。
ならばカメラもアップは避けてもう少し引くべきだったのではないか。
とはいえサスペンス映画である。演出の必然としてカメラはアップを撮ってしまう。
それに、例えばラスト間際での涙は、ガラスに反射するヒロインの泣き顔と、本人自身の泣き顔の両方を写す。くどすぎだった気もする。ましてアンジェリーナである。ガラスに反射するヒロインの顔だけを撮っていたら、観客と女優の間にワンクッション置くこともできたのではなかろうか。
結局、責められるべきは、演技かカメラか、いずれかのコントロールを欠いた監督となる。
とは言うものの、精神病院のシーンの爽快さはアンジェリーナ・ジョリーだからこそと思えるし、必ずしもキャスティングが失敗だったわけではない。
デリケートな映画だったのだろう。

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さらにこの映画は、人間や社会の観方を考えさせる映画でもある。
権力者にだまって従うことに警鐘をならす物語でもある本作では、権力者(警察)の上層部は憎らしい事この上ないキャラとして描かれる。だが、そうかと思えば同じ警察組織内にも、力なき者の声に耳を傾け事件の真相を追う刑事がいる。
病院では美人の看護婦が拷問のような治療を行い、売春婦と罵られる「夜のお仕事の女」は主人公を助ける信念を持った強い人物として愛着たっぷりに描かれる。
純真そうな少年は悪魔の子のような不気味さを醸し、見た目好青年な殺人犯は醜悪で見苦しい。
ジョン・マルコビッチが演じているだけで怪しさ満点な神父は、その印象と裏腹に正義の人物であった。
見た目・肩書き・所属する組織だけで画一的に人を判断するな、実際に観て聞いて真実を判断せよ。そんなことを言っている映画の様でもあった。

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欠点を上げる事も出来るが、女の魂・社会性・サスペンスががっちり融合した本作は、本年を代表する傑作と呼ぶのが相応しい、イーストウッドの快心の一作である。

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6 コメント

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母の涙 (sakurai)
2009-03-03 07:59:37
年とってきてからが、いっそう見せる映画が増えてきたような気がしますが、あと何本撮ってくれますかね。
エネルギーはまだまだ十分ありそうですから、長生きして、せっせと撮ってもらいたいもんです。
強いから泣かないかと言うと、そんなことはなく、母としては泣くんじゃなく、涙があふれ出る・・・という風に見えました。
大写しは少々気になりましたが、やっぱ圧巻は精神病院でしたね。
返信する
コメントありがとうございます (しん)
2009-03-04 01:48:05
>sakuraiさま
イーストウッドは100まで映画撮り続けてほしいです。ここまできたら失敗作でも駄作でもついて行きます

人前で泣かないでほしいなあ、とかイーストウッドなら泣かないだろうなあ・・・とか思っちゃいました。
泣く泣かない、というより写し方か演技の問題かなとも
返信する
今年は (aq99)
2009-03-13 22:23:26
去年は、イーストウッド作品がなくて、ポール・ハギスで満足してたけど、やっぱり本物は違いました。全然違いました。今年は、まだもう1本あるんですよね~。贅沢やわ~。
返信する
コメントありがとうございます (しん)
2009-03-14 13:03:10
>aq99さま
まだまだ後輩どもにゆずる気ねーぜってな不良アニキのイーストウッドでした
グラントリノ楽しみ~
返信する
TBありがとうございます。 (きぐるまん)
2009-04-15 08:46:12
>「深遠なテーマを持った人間ドラマ」であるとか「社会派ドラマ」であるとか、そのような観方をするよりも、単純に「サスペンス」として楽しむ方が相応しい映画である。

いろんな意味で極上のサスペンスでしたね。
題材がシリアスであればあるほど、B級映画からスタートしたイーストウッド監督のキャリアが、根強く生きていることを感じさせてくれる作品でもあったと思います。
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コメントどうもです (しん)
2009-05-01 22:24:57
>きぐるまんさま
B級魂70代でなお衰えずですね
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