【男たちの挽歌 映評 第二部】
【ホーとキット】
さて、話は進んで、ホーとキットのじゃれあいシーンになる・・・
ホーは黒社会の幹部として主に偽札取引を行い、親分にも部下にも信頼されている。
しかし、弟のキットには、自分の裏稼業は秘密にしている。
ホーはキットを学者にしようと思っていたが、当のキットは兄の稼業のことなど知らず警官になるんだ、と言う。
父に諭されたこともあって、ホーは次の台湾での大仕事を最後に足を洗う決意をする。
ここで、主要キャラであるホーとキットの兄弟の年齢に関する考察を・・・
頭が少しさびしんぼうのホーさん、見た目40歳くらいに見える。
一方で弟のキットを演じるのは香港ポップス界のアイドルだったレスリー。設定上最初のキット登場シーンで彼は・・・当時の香港の教育制度はよくわからないが、ホーが3年服役している間に警察学校を卒業し、刑事になったのだから、最初のキット登場シーンは大学生くらいということだろうか。21~22歳くらいと考えるのが妥当と思うが、自信はない。
ともかく、ホーとキットは見た目物凄く年齢差を感じる。
しかし父がホーに語る台詞
「お前たちは子供のころ、警官と泥棒ごっこをいつもやってた。そんな子供の遊びをこれから現実にやってもらいたくない」
20も歳が離れた兄弟に対して語る台詞ではない。
ここはグッとゆずって、ホーを30代前半ということにしよう。ずいぶん若くして幹部になった気もするが、作品を見ているととても気苦労の多そうな人なので見た目以上に老け込んで、髪も薄くなるだろう。
6歳のキットと16歳のホーが「警官と泥棒ごっこ」をする。高校生が小学生と遊ぶにはいい遊びな気もする・・・ということにしておこう。
話を戻す。
キット初登場シーンで、ホーとキットの兄弟は、過剰なくらいにじゃれ合う。
気持ち悪いくらい仲がいい。とはいっても、日本以外のアジアの住民って割りと兄弟、家族、友達でもスキンシップ大切にするような気がするので、香港人的にはそんなに変じゃないのかもしれない。それにジャッキー映画とか、様々な香港映画で似たような描写は一杯見てきた気がする。
とはいえ、じゃれ合う2人をスローモーションまで使って演出するものだから、つい笑いがこみ上げてくる。
さっきからまるで「挽歌」を見下すように笑える笑えると書いているが、誤解しないでほしいが、私はこの映画を心から愛している。
我が生涯のトップ4作品の他の三つ「ブレードランナー」「日の名残り」「悲情城市」と「挽歌」が決定的に異なるのは、何故か「挽歌」だけは一生懸命褒めようとすればするほど笑いがこみ上げてくる点だ。意図見え見えにしてベタベタな兄弟愛描写であるが、そういったまともに論じれば欠点となるシーンも含めてこの映画を愛している。だって、愛ってそういうもんだろ。
【エミリー・チュウの演じるジャッキーについてのこと】
さて物語は前述の通り、警官になりたいという弟のため、ホーが足を洗う腹を決めることになるのだが、その前に、忘れるところだった。
重要キャラ、キットの恋人(のち妻)ジャッキー(演じるはエミリー・チュー。挽歌シリーズ以外の出演作は見たこと無いが、挽歌のジャッキーだけで私の愛する女優ベストテンに入れてもいいくらいの人だ)の登場だ。
ジャッキーの「そそっかしさ」の演出がまたなんともほほえましい。
ジョン・ウーは多くのコメディ映画も撮ってきた男だ。香港的コメディ描写は次第に影をひそめていくことになるが、それでも「狼たちの絆」や「ハードボイルド」ではまだコメディチックな演出を楽しんでいるように感じられるが、渡米後はコミカルさがほとんど抜けている。ウーのハリウッド進出失敗の原因はコメディタッチを封印したのも一因かもしれない。香港時代にもコメディ要素を全部剥ぎ取った「狼 男たちの挽歌最終章」という傑作もものにしているけど
ジャッキーの「そそっかしい描写」は盛りだくさんだ。
・花瓶に飾る花を切り落とす
・チェロのケースを振り回し病院の人を困らせる
・チェロ演奏中に譜面台をぶったおす
・チェロのケースで審査委員の先生の車の窓を破壊する
・・・など、次第にエスカレートしていく。
話は飛ぶが、その後キットの父が黒社会の刺客に襲われた際に現場に居合わせたジャッキーは・・・
・ヘッドホンで音楽を聞いて刺客と父の戦いに気付かない
・刺客に襲われている時突然かかる電話の受話器を取り「番号違いよ!!」と言って電話を切ってしまう
・・・などシリアスで悲壮感漂う襲撃シーンにおいてすらコミカルであることを忘れない。しかしそのシーンでは刺客を電話機でぶん殴ったり、刺客の背中に包丁を突き刺すなどというシリーズ中唯一の「戦うジャッキー」を見せてくれる。しかも、その後刺客に思いっきりぶん殴られるが、ここではコミカルキャラとして積み重ねた演出の数々との対比で、見るもののショックはでかい。
【マーク、屈辱について語る・・・の巻】
さて台湾での取引を最後に足を洗う決意をしたホーは、出発前夜、親友のマークと、一緒に台湾に連れて行く弟分のシンと、出発前の軽い飲み会を開いている。
このとき、マークがシンに語る、屈辱についての話は挽歌シリーズの名台詞である。
長ゼリだが、全文掲載する。
シンに語って聞かせるマーク
マーク:
「銃で脅迫されたことは? ないだろ?
12年前のことだ。
ホーと初めてインドネシアへ行った。
クラブで現地のボスと会食だ。
そこでおれが失言した。
すぐ頭を銃で狙われ、一気飲みを強制された。
あまりの怖さにちびったよ。
ホーが俺に代わって飲んでくれた。
すると今度は4挺も銃を突きつけられた。
何を飲まされたか?
小便だよ。
小便を飲んだ!
(10秒ほどの間)
これが極道なんだ。
最初の取引だった。」
ホー:「昔のことだ。もう忘れろ。」
マーク:
「いや。(7~8秒の間。)
俺は生まれて初めて、あの時泣いたよ。
二度と屈辱は受けまいと誓った。」
それまではいつもおどけたようなパフォーマンスを見せていたユンファが、このシーンでこいつ只の道化じゃない・・・と実感させる。一語一語かみしめるように、そして本当に自分の体験を思い出しているかのように、ところどころにたっぷりと間を取って、目をぎらつかせながら、屈辱について語る。ほとんどユンファのアップだけのシーンだが、シリーズ屈指の名シーンではないかと思う。
ジョン・ウーほど、ユンファを俳優として認めていた監督はいないだろう。ただ二丁拳銃撃ちまくるだけの奴なら誰だっていい。しかしウーは挽歌シリーズではこれでもかというほど、熱くしかも長ーい台詞をユンファに喋らせる。ウーは単にアクションスターが欲しかったわけではない。熱い語りも、キザな台詞も、コミカルな動きも、もちろん激しいアクションも、様々なことをキャラクターに求める。そんなありとあらゆる要求に演技で応えてくれる俳優が欲しかったのである。そしてウーの理想を全て体現してくれたのがユンファという男だった。
ちなみに上記の台詞の赤字部分であるが、ジョン・ウー監督の「ワイルドブリット」において、ほぼ同じことが再現される。
ベトナムのクラブで、トニー・レオンとジャッキー・チュンとそれに(挽歌のシン役の)ウェイス・リーとが現地のボスと会食している際に、そのボスを怒らせ、ボスからウィスキーの一気飲みを強制される。「挽歌」ファンはニヤニヤするシーンだ。ただしトニーもジャッキー・チュンも小便の一気飲みまでは強制されない。
この辺で、挽歌映評 第二部終わり
次回、いよいよあの名シーンについて語れそうだ
******
[男たちの挽歌 映評一覧]
[男たちの挽歌 映評 第一部] 作品概論と、オープニングについて
[男たちの挽歌 映評 第二部] ホーとキットについて、エミリー・チュウのこと、ユンファ屈辱について熱く語る・・・など
[男たちの挽歌 映評 第三部] 台湾でのアクションシーン、台湾でのジョン・ウーの苦渋時代の投影について、キットと父を狙う殺し屋との泥臭い対決など . . .
[男たちの挽歌 映評 第四部] 映画史もの名シーン・楓林閣大銃撃戦 について
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【ホーとキット】
さて、話は進んで、ホーとキットのじゃれあいシーンになる・・・
ホーは黒社会の幹部として主に偽札取引を行い、親分にも部下にも信頼されている。
しかし、弟のキットには、自分の裏稼業は秘密にしている。
ホーはキットを学者にしようと思っていたが、当のキットは兄の稼業のことなど知らず警官になるんだ、と言う。
父に諭されたこともあって、ホーは次の台湾での大仕事を最後に足を洗う決意をする。
ここで、主要キャラであるホーとキットの兄弟の年齢に関する考察を・・・
頭が少しさびしんぼうのホーさん、見た目40歳くらいに見える。
一方で弟のキットを演じるのは香港ポップス界のアイドルだったレスリー。設定上最初のキット登場シーンで彼は・・・当時の香港の教育制度はよくわからないが、ホーが3年服役している間に警察学校を卒業し、刑事になったのだから、最初のキット登場シーンは大学生くらいということだろうか。21~22歳くらいと考えるのが妥当と思うが、自信はない。
ともかく、ホーとキットは見た目物凄く年齢差を感じる。
しかし父がホーに語る台詞
「お前たちは子供のころ、警官と泥棒ごっこをいつもやってた。そんな子供の遊びをこれから現実にやってもらいたくない」
20も歳が離れた兄弟に対して語る台詞ではない。
ここはグッとゆずって、ホーを30代前半ということにしよう。ずいぶん若くして幹部になった気もするが、作品を見ているととても気苦労の多そうな人なので見た目以上に老け込んで、髪も薄くなるだろう。
6歳のキットと16歳のホーが「警官と泥棒ごっこ」をする。高校生が小学生と遊ぶにはいい遊びな気もする・・・ということにしておこう。
話を戻す。
キット初登場シーンで、ホーとキットの兄弟は、過剰なくらいにじゃれ合う。
気持ち悪いくらい仲がいい。とはいっても、日本以外のアジアの住民って割りと兄弟、家族、友達でもスキンシップ大切にするような気がするので、香港人的にはそんなに変じゃないのかもしれない。それにジャッキー映画とか、様々な香港映画で似たような描写は一杯見てきた気がする。
とはいえ、じゃれ合う2人をスローモーションまで使って演出するものだから、つい笑いがこみ上げてくる。
さっきからまるで「挽歌」を見下すように笑える笑えると書いているが、誤解しないでほしいが、私はこの映画を心から愛している。
我が生涯のトップ4作品の他の三つ「ブレードランナー」「日の名残り」「悲情城市」と「挽歌」が決定的に異なるのは、何故か「挽歌」だけは一生懸命褒めようとすればするほど笑いがこみ上げてくる点だ。意図見え見えにしてベタベタな兄弟愛描写であるが、そういったまともに論じれば欠点となるシーンも含めてこの映画を愛している。だって、愛ってそういうもんだろ。
【エミリー・チュウの演じるジャッキーについてのこと】
さて物語は前述の通り、警官になりたいという弟のため、ホーが足を洗う腹を決めることになるのだが、その前に、忘れるところだった。
重要キャラ、キットの恋人(のち妻)ジャッキー(演じるはエミリー・チュー。挽歌シリーズ以外の出演作は見たこと無いが、挽歌のジャッキーだけで私の愛する女優ベストテンに入れてもいいくらいの人だ)の登場だ。
ジャッキーの「そそっかしさ」の演出がまたなんともほほえましい。
ジョン・ウーは多くのコメディ映画も撮ってきた男だ。香港的コメディ描写は次第に影をひそめていくことになるが、それでも「狼たちの絆」や「ハードボイルド」ではまだコメディチックな演出を楽しんでいるように感じられるが、渡米後はコミカルさがほとんど抜けている。ウーのハリウッド進出失敗の原因はコメディタッチを封印したのも一因かもしれない。香港時代にもコメディ要素を全部剥ぎ取った「狼 男たちの挽歌最終章」という傑作もものにしているけど
ジャッキーの「そそっかしい描写」は盛りだくさんだ。
・花瓶に飾る花を切り落とす
・チェロのケースを振り回し病院の人を困らせる
・チェロ演奏中に譜面台をぶったおす
・チェロのケースで審査委員の先生の車の窓を破壊する
・・・など、次第にエスカレートしていく。
話は飛ぶが、その後キットの父が黒社会の刺客に襲われた際に現場に居合わせたジャッキーは・・・
・ヘッドホンで音楽を聞いて刺客と父の戦いに気付かない
・刺客に襲われている時突然かかる電話の受話器を取り「番号違いよ!!」と言って電話を切ってしまう
・・・などシリアスで悲壮感漂う襲撃シーンにおいてすらコミカルであることを忘れない。しかしそのシーンでは刺客を電話機でぶん殴ったり、刺客の背中に包丁を突き刺すなどというシリーズ中唯一の「戦うジャッキー」を見せてくれる。しかも、その後刺客に思いっきりぶん殴られるが、ここではコミカルキャラとして積み重ねた演出の数々との対比で、見るもののショックはでかい。
【マーク、屈辱について語る・・・の巻】
さて台湾での取引を最後に足を洗う決意をしたホーは、出発前夜、親友のマークと、一緒に台湾に連れて行く弟分のシンと、出発前の軽い飲み会を開いている。
このとき、マークがシンに語る、屈辱についての話は挽歌シリーズの名台詞である。
長ゼリだが、全文掲載する。
シンに語って聞かせるマーク
マーク:
「銃で脅迫されたことは? ないだろ?
12年前のことだ。
ホーと初めてインドネシアへ行った。
クラブで現地のボスと会食だ。
そこでおれが失言した。
すぐ頭を銃で狙われ、一気飲みを強制された。
あまりの怖さにちびったよ。
ホーが俺に代わって飲んでくれた。
すると今度は4挺も銃を突きつけられた。
何を飲まされたか?
小便だよ。
小便を飲んだ!
(10秒ほどの間)
これが極道なんだ。
最初の取引だった。」
ホー:「昔のことだ。もう忘れろ。」
マーク:
「いや。(7~8秒の間。)
俺は生まれて初めて、あの時泣いたよ。
二度と屈辱は受けまいと誓った。」
それまではいつもおどけたようなパフォーマンスを見せていたユンファが、このシーンでこいつ只の道化じゃない・・・と実感させる。一語一語かみしめるように、そして本当に自分の体験を思い出しているかのように、ところどころにたっぷりと間を取って、目をぎらつかせながら、屈辱について語る。ほとんどユンファのアップだけのシーンだが、シリーズ屈指の名シーンではないかと思う。
ジョン・ウーほど、ユンファを俳優として認めていた監督はいないだろう。ただ二丁拳銃撃ちまくるだけの奴なら誰だっていい。しかしウーは挽歌シリーズではこれでもかというほど、熱くしかも長ーい台詞をユンファに喋らせる。ウーは単にアクションスターが欲しかったわけではない。熱い語りも、キザな台詞も、コミカルな動きも、もちろん激しいアクションも、様々なことをキャラクターに求める。そんなありとあらゆる要求に演技で応えてくれる俳優が欲しかったのである。そしてウーの理想を全て体現してくれたのがユンファという男だった。
ちなみに上記の台詞の赤字部分であるが、ジョン・ウー監督の「ワイルドブリット」において、ほぼ同じことが再現される。
ベトナムのクラブで、トニー・レオンとジャッキー・チュンとそれに(挽歌のシン役の)ウェイス・リーとが現地のボスと会食している際に、そのボスを怒らせ、ボスからウィスキーの一気飲みを強制される。「挽歌」ファンはニヤニヤするシーンだ。ただしトニーもジャッキー・チュンも小便の一気飲みまでは強制されない。
この辺で、挽歌映評 第二部終わり
次回、いよいよあの名シーンについて語れそうだ
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[男たちの挽歌 映評一覧]
[男たちの挽歌 映評 第一部] 作品概論と、オープニングについて
[男たちの挽歌 映評 第二部] ホーとキットについて、エミリー・チュウのこと、ユンファ屈辱について熱く語る・・・など
[男たちの挽歌 映評 第三部] 台湾でのアクションシーン、台湾でのジョン・ウーの苦渋時代の投影について、キットと父を狙う殺し屋との泥臭い対決など . . .
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自主映画撮ってます。松本自主映画製作工房 スタジオゆんふぁのHP
色々とカキコありがとうございます
無理な設定とか変な演出とかかがむしろ後々、愛着を湧かすんですよね
キットによってホーが連れ出されるのは、このもっとずっと後のシーンです。このシーンはマークのドアップで終わります。
肝心のとこに触れるをわすれてしまいました。
あのマークがかつての屈辱について語る場面、あれはおっしゃるとおり名シーンで、マークがあれほど、巻き返しへの執念をみせる理由として重要な場面ですよね。
そして、私はこのあとキットによって、ホーが連れ出され、ホーを問いつめるキットをマークが諫めますよね。そして、マークはキットによって頭に銃をむけられる。そしてすばやくマークがその銃を握り払い、
「俺の頭に銃をむけるな」というシーンここも、あの想いがあるからこそですよね。
ここも私は非常に好きなシーンです。
たしかに、『挽歌』はよくよくみれば、無理と思える設定や、そしてコミカルな場面が多くありますね。ただ、それを吹き飛ばしてしまうほどの大変魅力のある作品ですね。
ティ・ロンも非常に私は好きなのですが、やはりユンファの演技力もすばらしい。
そして、決してそれだけではないですが、その点だけでも私の中でユウファほど2挺拳銃が似合う役者は存在しません。ニコラス・ケイジやトム様なんぞわらっちゃいます。
では。