神社には様々な掲示物があります。神棚のお祀りの仕方を紹介するもの、伊勢の神宮の式年遷宮など行事をお知らせするものなど色々ですが、今年は月代わりで神話の一場面を表したポスターを社頭に貼りだしています。
今月9月の神話は「稲羽の白うさぎ」です。日本昔話などでも知られる有名なお話ですので、ここでもご紹介したいと思います。
昔々、因幡国(いなばのくに、今の鳥取県東)に一つの島があり、一匹のうさぎが住んでいました。
不自由なく暮らしてはいたのですが、うさぎはこの島に友達がいません。海の向こうには日本本州の大きな影が見えます。いつからかうさぎは海の向こうに渡りたいと強く思うようになりました。
あるとき、うさぎは海を渡る良い方法を考えつきました。島の周りにはたくさんのワニ(鮫の古称)が住んでいます。うさぎはその中の一匹に話しかけました。
『あなたにはたくさんの友達、家族がいるようですが私にもたくさんいます。比べたら多分私のほうが多いでしょうね』
ワニはそんなはずはない、お前の他にうさぎなんて見たことがないぞ、と言い返しました。
『ではこの岸から海の向こうの大きな島まで、一列に並んでみて下さい。私がその背中を渡りながら、あなた達の数を数えてあげようじゃないですか』
すると見事にワニの橋が出来上がりました。うさぎは数えるふりをしながらその背中を渡ります。しかし渡りきる直前、面白くなったうさぎは口をすべらせてしまいました。
『なんて馬鹿なワニだ、おかげで上手く海を渡れたよ』
最後に並んでいたワニがこれを聞いていました。ワニはすぐさまうさぎをつかまえると、腹いせにうさぎの毛皮をはいでしまいました。
うさぎが浜辺で痛みに泣いていると、大勢の若い男神(おとこがみ)様達が通りかかりました。泣いている訳を聞かれたうさぎは正直に、自分がワニを騙して海を渡ったこと、そのためにワニを怒らせて毛皮をはがれてしまった事を打ち明けました。すると神様達はこう教えます。
『では海の水で身体を洗って、そのあとは日なたで身体をよく乾かすといい』
うさぎが喜んで言うとおりにすると、海の塩水は身体にしみてよけいに身体を痛めつけます。乾くごとに痛みは増し、動けないくらいになってしまいました。神様達は面白半分で嘘を教えたのです。
うさぎがまたも浜辺で泣いていると、たくさんの荷物を抱えた一人の男神様が通りかかりました。訳を聞かれたうさぎはワニを騙したことと毛皮をはがれたこと、そして通りかかった神様達の言うとおりにしたところますます身体を傷つけてしまった事を話しました。すると男神様は驚いてこう教えました。
『それはいけない。川の真水でよく身体の塩を洗い流して、そのあとは蒲(がま。植物の一種)の穂を並べてその上に寝ていなさい』
いうとおりにするとすっかり痛みもとれ、ほどなくしてうさぎは元通りに回復しました。うさぎはその神様の名前をたずねました。
『私は大己貴命(おおなむじのみこと)と言います。実は先に通りかかったのは私の兄達で、八上比売(やがみひめ)という姫様に求婚する道の途中だったのです。私は荷物持ちをしているので皆から少し遅れてしまいました』
うさぎは丁寧にお礼を言うとこう続けました。
『あなたの様な優しい方なら、今は荷物持ちでもきっと立派な神様になります。八上比売様も意地悪な兄様達ではなく、あなたを選ぶでしょう』
果たして八上比売は大己貴命を選び、大己貴命はやがて出雲大社の御祭神として名高い大国主神として崇敬を集めるようになりました。
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この神話は「古事記」という日本最古の書物(神話・歴史書)に書かれているものです。今年は古事記編纂1300年の年であるといいます。ご興味のある方は他のお話も覗いてみてはいかがでしょうか。