ショートシナリオの館

ボケに抵抗するため、日常生活の中から思いつくままに書いています。月2回・月曜日の投稿を目指します。

年神様と仲良し3人組

2019-01-07 07:45:28 | 日記


多くの仲間が冬眠しているお正月の動物村広場は寂しいものです。体を持て余している仲良
し3人組の様子を見かねた長老が、裏山の山頂へ初日の出を見に行こうと3人組を誘いました。
お正月の朝、まだ暗い登山口にみんなが集合しています。

長老 :フクロウ博士が「人間たちはお正月になると山に登って日の出を見に行く」と言っ
    ておった。特別な何か良い事があるのじゃろう。それを確かめに行くぞ。

ミミ :いつも山で遊んでいるし、日の出も見ている。だけど何もないよ。お正月の日の出
    だけが特別なの?

長老 :それはワシにも分らん。フクロウ博士も知らないそうだ。

ポン吉:それじゃ~、登って確かめるしかないよな。

コン太:人間たちは理由のない行動はしないと聞いているしな。行こう、行こう。ワクワク
    してきた。きっと何か面白い特別なことがあるんだよ。

裏山は遊び場です。道に迷うことはありませんし、闇夜も障害にならず、どんどん登って行
きます。そして山頂が近くになった時、森の中から霧が出てきました。

長老 :霧がモクモクワ湧いてきた。これじゃ太陽が昇る山が霧で覆われて見えなくなるぞ。

ミミ :長老、大丈夫よ。霧は太陽が出て暖かくなったら、無くなると言っていたじゃない。

ポン吉:太陽が昇っちゃうともう遅いんだよ。太陽が見えないところから、顔を出し始め、
    完全に見えるようになるまでが日の出なんだからな。

コン太:確かにそうだ。太陽が顔を出すところを見ないと、初日の出を見たとは言えないと
    いうことだ。

長老 :お前たちも賢くなったものじゃ。とにかく山頂まで行くぞ!山頂には霧がかかって
    いないとよいのじゃがな。

山頂は濃い霧に包まれていました。しかし、一行が到着すると澱んでいた霧が動き始め、薄
くなったり、濃くなったりと高さの変化も交えて、流れ始めているのが分かりました。

長老 :霧が流れ始めた。これなら大丈夫だ。太陽が昇る山を覆う霧は無くなるだろう。

ミミ :太陽が顔を出すときに何かが起きるのね。嬉しいことだといいわね。

全員が目を凝らして、太陽が昇ってくる遠くの山並みを見つめました。空は明るみを更に増
しました。まもなく太陽が顔を出します。その時、霧が急に集まり始め、雲のような厚さと
なり、更に変化して、あれよあれよと、3人組が見ている前で、大きな、大きな長老の姿と
なって薄明りの夜空に浮かんだのです。

ミミ :びっくりした!あの霧が雲になって、今度は長老になったわ。こんなの見たことが
    ないわ。

雲ジー:仲良し3人組だね。驚かせてしまったかな。お前たちのことはカッパの川太郎から聞
    いている。長老の姿にしたのはお前たちを怖がらせないためじゃ。

ポン吉:驚いた。雲がしゃべったぞ。あなたは誰?なぜ川太郎のことを知っているの?

雲ジー:川太郎とワシは同じ「水の精」なのじゃ。地上の水の精が川太郎、そして天空の水の
    精がワシじゃ。「雲ジー」と呼んでくれ。長老にはワシたちのことは見えぬし、声も
    聞こえぬが、良く眠っているからこの会話の邪魔はされないだろう。

コン太:本当に長老が眠っている。起こしちゃいけないんですね。雲ジーさん、聞きたいんだ
    けど、お正月に山の上で見る初日の出には何かが起きるのですか?

雲ジー:お前たちの会話は聞いていた。人間たちが初日の出を見に山に登る理由を知りたいの
    じゃな。簡単にいうと、初日の出を拝むと元気が貰えると信じておるからじゃ。人間
    たちは今年の一年間、自分たちを勇気づけて幸せにしてくれる「年神様」が、初日の
    出の光に乗って地上に降り立つと考えているのだ。だから、見晴らしの良い場所や山
    に登って、初日の出を拝んで自分の所に来るようにお願いをするのだ。特に高い山頂
    で迎える太陽の光を「ご来光」といって、強く年神様を感じて、元気に暮らせる勇気
    が体の中にみなぎるのじゃな。少しは理解できたかな。

ミミ :今のお話しはわかんない。「元気」って貰う物なの?年神様って何ですか?どんな姿
    をしているの?

雲ジー:年神様には姿はないのじゃ。人間の心の中に降りてくるので見えない。同じように元
    気というのも心の中のことだ。だから、今のお前たちの年齢ではまだ理解できないと
    思うが、人間たちには年神様の存在が分かるのじゃな。

ポン吉:僕はわかったぞ。年神様って、人間だけが感じて分かるものなんだ。だから、僕たち
    が初日の出を見ても何も感じないんだ。

雲ジー:そのようじゃな。人間たちにとっては年神様を感じること自体が大切なんじゃ。そこ
    で、人間たちは年神様を迎え入れるためにお餅をお供えしている。この餅を「御年神
    様の魂」と呼び、そのお餅をみんなで分けて食べるのじゃ。子供たちにも「おとしだ
    ま」という贈り物をあげる習慣があり、名前の由来はこのお餅からきている。

コン太:僕も「おとしだま」が貰いたいな。でも雲ジーさんとこうしてお話しができたから、
    今日はここに登ってきて良かった。来年も登って来ますので逢ってね。

雲ジー:ワシはこれからすぐに出かけなければいけない。ワシを年神様だと信じて、山頂で待
    っている人間たちがいるのじゃ。

ミミ :それじゃ、雲ジーさんが「年神様」じゃないですか。

雲ジー:そうなるの。長老が目を覚ますぞ。又会おう。今日は忙しいのじゃ。さらばじゃ。

雲ジーさんがいなくなるときれいに視界が広がり、向かいの山の頂から太陽が顔を出し、明る
い陽ざしが3人組と長老を照らしました。初日の出です。

ポン吉:長老、起きてくださいよ。初日の出が始まったよ。

長老 :あれ、いつの間にか眠ってしまった。おっ、太陽が顔を出した。眩しい~の。初日の
    出が始まったな。きれいな光じゃわい。だけど、何も起こらないじゃないか。これ
    じゃ、毎日の日の出と同じじゃな。

コン太:長老、初日の出には良いことがあるよ。だって、僕たちは年神様から元気を貰えたん
    だから。今年も元気いっぱいで遊べるぞ。

ミミ :そうよ。その通り。ここに登ってきて本当に良かったわ。

ポン吉:長老、来年も一緒に初日の出を見にここへ来ようよ。

「年神様って何だ?」。長老は不思議な能力を持つ仲良し3人組の会話が理解できずにキョトン
としています。動物村の仲良し3人組は今年も元気に大活躍すること間違いなし。