goo blog サービス終了のお知らせ 

ショートシナリオの館

ボケに抵抗するため、日常生活の中から思いつくままに書いています。月2回・月曜日の投稿を目指します。

明るい林床を好むキンラン・ギンラン

2019-06-03 07:43:50 | 日記


毎年、5月になると楽しみにしているのが、手入れされた雑木林の中で咲くキンラン
・ギンランとの出会いです。私の住む地域では4月の最終週あたりからボツボツと咲
き始め、5月に入ると「ここに咲いている」「あそこに群生している」「あれは大き
くて立派だな」と指さしながら見て歩くことができます。花は次々と咲くので5月中
旬まで楽しめます。下旬になるとほぼ花は終わって実をつけます。
キンラン・ギンランに特別な関心を持つのは、第一に雑木林で咲く唯一のランである
という希少性、そして二番目に環境省のレッドリストに載っている貴重な花たちであ
るということです。キンラン・ギンランは里山の藪化と乱獲で数を減らしています。
藪になってしまった暗い林床や緑縁では咲きません。ですから、この花たちは雑木林
の健康バロメーターの役割も担っています。幸いにも私の散歩道にある雑木林は手入
れが行き届いた素敵な環境を維持しています。キンラン・ギンランは名前から受ける
印象通りにとても可憐で可愛い花たちなのです。地球環境の激変を身近に感じる昨今、
キンラン・ギンランとの出会いは、私にとって花を愛でながら、地球環境に思いを馳
せることができるという貴重な場でもあるのです。

キンラン・ギンランは知識があって意識して探すとすぐに見つかりますが、大きな花
を咲かせるカタクリのようなスプリング・エフェメラルな花たちとは違って、一つ一
つの花はとても小さいです。ですから、ウォーキング中あるいはランニング中に偶然
に目に飛び込んできて見つかるというのは難しい花です。

1.キンラン・ギンランを見つけるヒント
  手入れされた雑木林の中を、地表から飛び出している黄色い花あるいは白い花を
  目印にしてゆっくり探してください。それでもラン科ですから、菌根菌に生育を
  依存していますので、どこの雑木林でも見られるというわけにはいきません。

(1)キンラン
   キンランの花は高さ30㎝~50cmくらい、大きなものでは70cm程度になる場合
   もあります。花は上部に3~10個が上向きに咲くが、半開状態で咲いているもの
   が多いです。全開した場合は花径2cmほどになります。鮮やかな黄金色の花な
   のでキンランという和名がついています。包葉は長さ15cm程度で10枚未満、
   葉には縦ひだがあります。

(2)ギンラン
   キンランの近縁種ですので同じ環境で見つけることができます。ですからすぐ
   近くで咲いていることがあります。花は上部に5~10個程度で、葉の先端より
   上の方に突き出て咲きますが、ギンランも開花は全開せずに半開で終わる花が
   多いです。花の高さは10㎝~20cm程度で、稀に30㎝クラスもあります。です
   からキンランより小さいです。葉は3~5枚程度。黄金色のキンランに対して白
   い花なのでギンランという和名になっています。

(3)ササバギンラン
   最近知ったのですが、同じ環境下で咲くのはキンランとギンランだけではあり
   ません。ギンランに良く似たササバギンラン(笹葉銀蘭)が同じ環境下で咲き
   ます。一見すると花形が似ており、花が同じ白色なのでギンランと見間違えま
   すが、葉の形や長さが笹に似ていることから和名となっています。ギンランと
   の違いですが、葉の先端の位置が花の高さと同程度もしくは花より高いのが特
   徴で、花の高さもギンランの1.5倍程度あり、キンランと同じくらいの大きさ
   です。これまでギンランと思って撮影した写真の中にササバギンランが混じっ
   ていることが分かりました。白い花の高さまで葉の先端があればササバギンラ
   ン、葉の先端が花よりかなり低い位置にあればギンランです。

(4)クゲヌマラン
   調べて見ましたら、ギンランに似た花として、同じキンラン科でクゲヌマラン
   がありました。神奈川県藤沢市の鵠沼が和名の由来です。同じような環境下で
   生育しますが、集合住宅の敷地だとか海岸の砂浜でも近年は発見されているそ
   うですので、近年は生育域を広げているようです。ギンランの変種だといわれ、
   ギンランに比べて葉数が多く、花も大きく、距がほとんど無いと言うことです。
   花の大きさで見分けることができるそうです。撮り貯めた写真集の中にはあり
   ませんでしたので私の散歩道にはまだ進出してきていないようです。

キンラン・ギンランは本州、四国、九州のみならず、朝鮮半島や中国の林床、林縁に
生える東アジアのランです。ラン科植物は世界に1万種以上の種があり、被子植物で
は最も進化した植物の一つとされます。ラン科の花の何よりも不思議な生態は発芽や
生育に菌類と複雑な関係を結んでいることです。樹木は光合成で得られる炭素源(糖)
を菌根菌に与え、菌根菌はアミノ酸合成に必要なチッ素などのミネラルを樹木に与え
る関係にありますが、キンラン・ギンランはその共生関係に割り込み、両方から炭素
源とチッ素源を分けてもらい生活するのです。

神の領域である「山岳」に対し、人が暮らす場所を「里」といいます。里に隣接する
山は、人の暮らしの影響を永続的に受けます。再度記しますが、そんな人と共に暮ら
す里山が好きなキンラン、ギンランは自ら光エネルギーと水、二酸化炭素で光合成を
しますが、地下に張り巡らされた樹木根と菌類の複雑な生態系に割り込み、ちゃっか
り栄養をもらって暮らします。人工的に森の複雑系を再現できません。見つけても栽
培はできませんので野に置いておきましょう。