ショートシナリオの館

ボケに抵抗するため、日常生活の中から思いつくままに書いています。月2回・月曜日の投稿を目指します。

古都の月

2016-10-03 07:58:26 | 日記



旧暦8月15日に出る月を中秋の名月と呼びますが、2016年は新暦の9月15日がその日に当たり
ました。夜空を見上げた人も多かったことでしょう。

例年、全国各地の神社・仏閣等では観月祭が催されますが、私は古都・奈良にある猿沢池を選
びました。毎年、中秋の名月の日に開催される采女祭を見てみたいと思ったからです。

昼間は山辺の道を辿りながら、大神神社~狭井神社~檜原神社などに詣で、箸墓まで足を延ば
しました。このエリアは古墳が多く、古代史好きの人にとっては興味が尽きない場所です。
もちろん、私もその一人。ところが、三輪周辺を訪問したのは今回が初めてなのです。
箸墓だけは数回訪れているのですが・・・

長年、憧れ続けた桜井市三輪への旅については、またいつか、書いてみようと思いますが、
今日のところは夕暮れ間際に辿り着いた猿沢池での采女祭のことを述べます。

私がJR奈良駅に降り立ったときには、すでに花扇奉納行列が出発したあと。三条通りを急ぎ足
で進むと、餅飯殿(もちいど)通りをしずしずと進んでくる行列が目に入りました。

天平時代の衣装を身につけた男女や稚児、御所車に乗った十二単姿の女性などの行列の中で、
ひときわ目を惹いたのは、約2メートルの大きな花扇。秋の草花がびっしりと、しかも美しく飾
られた花扇は、これから奉納神事のあと、管弦船に積み込まれるのです。

奈良時代に帝の寵愛が薄れたことを嘆き悲しみ、池に入水した采女(うねめ)の霊を鎮めるた
めに始まったという采女祭。湖畔に建立された小さなお社は、池に背を向けた形で鎮座してい
ます。自らが身を投げた池を見続けるのは忍びないということでしょうか。

二艘の管弦船が池を周遊し始めると、カメラのフラッシュが次々に光ります。先ほどまで興福
寺の五重塔が映り込むほど静かだった水面は、一気に様相が変わりました。二艘の船に分乗し
た花扇使や采女たちの姿は優雅な美しさで観客を魅了します。

池を二回周遊した後、大きな花扇が池に浮かべられますが、十二単姿の花扇使は船の上で手を
合わせて、采女の魂を鎮めると同時に、人々の幸せを祈念します。

行事が進行していく中、中秋の名月が雲間から恥ずかしそうに顔を出しました。采女祭の様子を
ちょっとだけ見ようかな?なんて思ってくれたのかもしれません。

名月が現れてくれた以上、行かなくてはならない場所があります。
そうです、興福寺の五重塔です。塔と中秋の名月!願ってもない被写体ではありませんか!
猿沢池の畔をぐるりと廻って五重塔の下に着いた私は、早速、カメラを構え、撮影開始。

しかし、なかなか思うようには行きません。五重塔と月との間に距離があり過ぎる。当たり前
ですね。ならば、カメラを置いて、じっくりと自分の目で観ることにします。

日本で2番目に大きいという五重塔と中秋の名月のコラボレーション。満月は2日後なのです
が、雲が切れて全容を見せてくれた月はやさしい光で、私の顔を照らしてくれました。

月は古代から私たちの心身に影響を及ぼすと言われています。満月に向かう時期はエネルギー
を蓄える「吸収」の時だとか。古都・奈良で中秋の名月に巡り会い、月の光を浴びているうち
に、今日の昼間に長時間歩いて消耗したはずのエネルギーが、じわじわと蘇ってくるような気
がしてきました。

月を愛でる余裕を持つことができている今の自分は、とても恵まれているんだな・・・と思い
つつ、JR奈良駅に向かって歩を進めました。

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