アナゴと言えば、東京湾や瀬戸内海産が有名ですが、茨城沖でとれる「常磐もののアナゴ」
も市場からの評判がよく、茨城県の隠れた逸品のひとつです。年間を通して味がよく、寿司
や天ぷら、煮物などのほか、伝統的な干物や調理の手間が少ないレトルトなど、茨城の水産
加工業者によって様々な加工品が作られています。アナゴは1 年中、季節を問わず獲れるイ
メージがありますが、時期によってその味は異なります。一般的に言われている味覚の旬は、
初夏から夏の6~8月です。この時期のアナゴは、「梅雨アナゴ」「夏アナゴ」と呼ばれ、脂
が少なく淡泊なさっぱりとした味わいが特徴です。通常、魚の旬は脂の一番乗っている時期
とすることが多いのですが、アナゴは、淡泊な味わいが好まれる魚なので、脂の乗らない夏
が旬とされている珍しい魚です。あっさりとしたこの時期のアナゴは、天ぷらにして食べる
のがいいですね。でも、脂ノリがいいのはやはり冬の10~12月頃で、身がとてもぷりぷりし
ています。これは、一般的な魚と同様、春に産卵するために栄養を蓄えているため脂がのっ
ているからです。この時期のアナゴは、こってりとコクがあり、ウナギに似た味わいです。
夏の旬のアナゴよりも、脂の乗っている冬のアナゴが好きだという人も多くいます。冬の
アナゴは煮アナゴにすると、とても濃厚でおいしいです。結局、夏も冬も両方とも美味し
いということです。今回は「常磐もののアナゴ」の紹介です。
<謎に包まれたアナゴの生活史>
マアナゴの例です。マアナゴは春季にレプトケファルスと呼ばれる特異な形をした稚魚が
沿岸域で変態後、甲殻類や魚類などの動物を捕食しながら成長します。オスよりもメスの
方が寿命は長く、成長が良いと言われ、オスは4年で40cm前後、メスは7年で90cm前後
に達します。3~5年で成熟すると考えられていますが、産卵直前のメスや産卵された卵
はまだ見つかっていません。また、レプトケファルスの本当の初期のものも駿河湾で1個
体が記録されているのみで、産卵場や初期生態については、未だに分かっていません。
でも、最近の研究からマアナゴはウナギと同じように南の方へ産卵回遊を行い、そこでふ
化したレプトケファルスが黒潮系水で日本沿岸へ運ばれて来るのではないかと推定される
ようになってきました。どうやら、日本ウナギとマアナゴとは体型だけでなくライフサイ
クルも似ているようです。人工授精による形態研究からもマアナゴの初期生態の輪郭が少
し見えてきましたが、解明には今しばらく時間が掛かりそうです。レプトケファルスとは
「小さな頭」という意味を示しますが、その名の通り頭は小さく、体は透明で平たいリボ
ン状をしたアナゴの稚魚のことです。
<アナゴの漁獲量ランキング>
(1)世界漁獲量ランキング(2019年)
韓国が断トツ1位です。2位フランス、3位フイリピン、そして4位が日本です。
(2)都道府県別ランキング(2019年)
1位は島根県632(t)19.0%、2位長崎県15.4%、3位宮城県9.5%そして5位が茨城県
6.8%です。近年は瀬戸内海や東京湾はランキング外です。残念ながら、国内で
はあまり獲れなくなり高値安定のため、韓国からの輸入ものの方が市場に出回っ
ています。
<日本沿岸に棲む代表的なアナゴの種類>
アナゴの仲間は世界に150種類ほど、日本近海には20種ほどいますが、日本で食用として
いるアナゴの代表格はマアナゴです。特に関東地方で賞味されてきた「江戸前のアナゴ」
は東京湾の羽田、大森、浦安などでよくあがり、江戸の食文化の主要食材でした。
1.マアナゴ:一般に食用のアナゴといえばマアナゴを言います。体長は雄が40cm、雌
が90cmほど。北海道以南、琉球列島までの沿岸砂泥底に棲みます。希少である大
型のものは「伝助穴子」と呼び、市場では高値で取引されています。寿司ネタ、蒲
焼き、または天ぷらなどとして、よく食べられているのが、このマアナゴです。脂
肪分が少ない白身で、フワフワした食感が美味しく、食通ファンが多いです。夜間
の防波堤や船でも釣れます。
2.クロアナゴ:日本各地の浅い岩礁域から南太平洋沿岸の岩礁域に棲みます。マアナゴ
と似ていますが、全長1.5mと大型で、黒っぽい体色をしています。大型になる分、
小骨の主張が強く、またマアナゴより味が落ちると言われているため、食べられる
ことが少ないです。皮も固いため、主に魚肉練り製品の材料として利用されていま
す。でも、骨切りするなど、しっかり料理すれば、美味しく食べられる魚です。
3.ギンアナゴ:銀白色の体色で、マアナゴより沖合に生息。分布域は北海道以南から東
シナ海と広いです。あっさり目の味で、天ぷら、干物、練り製品などに利用されます。
4.イラコアナゴ:見たことのない深海魚のような怪魚ですが、実はスーパーで蒲焼きと
してパックで売られていて、回転寿司のネタにもなるリーズナブルさが魅力。三陸沖
など、東北地方の太平洋沿岸や北海道で獲れます。性格はかなりどう猛です。
5.ノレソレ:レプトケファルスのこと。高知県では新春のシラス漁の網で獲れます。透明
で体長5cm~8cm程の細長い形状からか、淡路島ではハナタレ(鼻垂れ)とも呼ばれ
ます。
<アナゴの漁獲方法>
アナゴ類は一般的に延縄、籠網(筒網)、底曳網、釣り等多様な方法で漁獲されますが、
これは地方で漁法が違うことに由来しており面白いです。
(1)小型底びき網漁(板びき網):日本各地で広範に使われているのが底びき網です。
ランキング1位の島根県はこの漁法が主力です。底びき網で獲れるアナゴは野
ジメといって沖合でそのまま死んでしまうため、水揚げされたときにはすでに
鮮度が落ちてしまいます。また、網の中でかき回されることにより穴子自体に
傷がつきやすくなるのも底びき網のデメリットです。
(2)「かご漁(あなご筒漁)」:アナゴだけを狙った専用漁法です。江戸前のアナゴ
は筒を使った漁でとられています。狭い穴の中を好むアナゴの習性を利用して
漁獲します。筒の中にイワシなどの餌を入れて、海底に仕掛けておきます。筒に
は「返し」と呼ばれる中が狭くなっているふたがついています。餌の匂いにつ
られて筒に入ったアナゴはこの「返し」に邪魔されて外にでることができなく
なります。かって、大阪湾ではかご網漁が盛んでした。現在は東京湾や対馬での
主力漁法です。餌でおびきよせる点では籠も筒も同じです。一籠ずつ丁寧に穴子
を取り出すので魚体に傷がつかず、新鮮なまま水揚げされます。
(3)延縄漁:瀬戸内海で多い漁法です。延縄漁業とは、一本の幹縄にたくさんの枝縄
(延縄)をつけて、延縄の先端に釣り針をつけた漁具で行われる漁法です。
昔から行われた漁法で、延縄を漁場に仕掛けて、しばらくの時間放置してから
回収します。網を使った漁法よりも魚を傷つけないので、魚の価値を高めます。
幹縄の長さは10mから1000mくらいです。
<漁協が取り組むマアナゴ養殖>
2015年から大阪府では近畿大学と漁協が協力してマアナゴの養殖に取り組んでいます。
毎年3月ごろに地元の漁師が獲ってきた稚魚を水槽に入れ、エサを与えながら育てます。
水槽の海水は井戸から汲み上げて、フィルターで不純物をろ過した上で使用。マアナゴ
は水温が26℃以上になると弱りはじめるため、25℃以下に保ちながら育てています。
年々、水槽に入れた稚魚の生き残る率が上がっており、今年度は80%を超えたそうです。
成魚の出荷時期は8月から年末いっぱいまでで、ふるさと納税の返礼品や、漁協の直売所
で販売。市内小中学校の給食用にも提供したそうです。でも、採算面では現時点で厳しい
状況のようですが、天然マアナゴの漁獲量が減って価格が上がっているので、養殖でも採
算をある程度合わせることは可能で、稚魚さえ確保できれば、産業として成り立つ可能性
は十分ありと見ています。現在は卵から人工ふ化させたマアナゴを成魚に育て、その成魚
から採った卵をまた人工ふ化させる、という完全養殖の研究にも取り組んでいます。完全
養殖技術が確立すれば、天然の稚魚に頼らない養殖が可能になります。
<アナゴの豆知識>
1.血には“毒”あり:意外なことかもしれませんがアナゴには毒があります。正確には血液
に毒があり「血清毒」と呼ばれ、血液程ではないものの体表のヌメリにも含まれてい
ます。そのため経口摂取だけでだけでなく目や傷口に入らないよう気を付けなければ
いけません。アナゴを刺身で食べる機会が少ないのはこのためです。摂取すると嘔吐
や下痢を引き起こしますが、熱を通す(60℃5分以上) ことで毒が変性し無害になります。
2.栄養素と効果:ビタミンAがたっぷり!アナゴは眼の働きを助け皮膚を健康にするビタ
ミンAが豊富で、その量はアナゴを100g食べれば一日のビタミンA必要量をほぼ満
たすほど。さらに、アナゴの脂肪分は悪玉コレステロールを減らして動脈硬化を防ぐ
不飽和脂肪酸((EPA・DHA))を多く含んでいます。ウナギに比べて脂肪は半分、
カロリーは2/3程度です。又、ビタミンB2は皮膚や消化器官などの粘膜を健康に保ち
過酸化脂質の分解を助ける酵素の成分になります。アナゴはその栄養面の点から現
代人に適した食品であると言えます。
3.「寿司通は光物とアナゴ」:昔から卵焼きとアナゴと光物を必ず注文するのが、江戸
前寿司の通人とされてきました。この三つは、寿司屋で味付けしなければならず、
その為、これらを食べるとのその店の職人の腕前がわかるというのがその理由です。
4. 関東と関西の食べ方の違い:「関東は煮アナゴが好き」そして「関西では焼きアナゴ
が好まれる」傾向があります。これは関東と関西のアナゴの特徴が違うことが理由
です。関東のアナゴは脂がのっていて大ぶりのものが多いです。ですから、煮て食
べることによっていい感じに脂が落ちて、ふっくらと美味しくなります。一方、関西
のアナゴは関東に比べると大きさが小ぶりで脂も少なめです。脂が少ないアナゴは煮
ると硬くなってしまうため、煮るより焼くほうが美味しいのです。また、関西のアナ
ゴは皮が多いですから、こんがり焼き上げたほうが、パリッとした食感を楽しめます。
5.関東と関西では開く箇所が違う!?:関東地方では背中から開くのに対し、関西地方
ではお腹から開きます。これには、武士の町江戸では「腹を切る=切腹」をイメージ
させて縁起が悪い。一方、商人の町、関西では「腹を割って話をしようや」という
意味から腹開きになったと言われています。
6.マアナゴの中でも特に大きな(300g以上)特大アナゴの事を「伝助穴子」と言いま
すが、全てメスです。
<常磐もののアナゴは大ぶりが特徴>
黒潮と親潮がぶつかり、えさとなるプランクトンが多く発生する豊かな漁場で水揚げされた
アナゴは大ぶりで質が良く美味しい魚と知られ、水産関係者の間でも高く評価されています。
常磐海域においてマアナゴは、底びき網漁業、筒漁業、かご漁業など漁師により異なる漁法
で漁獲されていますが、その水揚量、水揚金額は大きく、沿岸漁業に占める産業的ウエイト
は高いです。常磐もののアナゴの最大の特徴は90㎝クラスの大物の漁獲が圧倒的に多いこと
です。大物のあなごとは実はメスのアナゴのことです。マアナゴは1歳で全長30~45㎝、
2歳で40~60㎝、3歳で50~70㎝に成長しますがこれはメスの成長で、オスは40㎝ほどで
成長が止まります。資源調査によると、不思議なことに常磐海域には、雄はほとんど分布
していなかったのです。謎の多いマアナゴの生態ですが、こうした分布の偏りも不思議な
現象ですね。でも、お蔭で、常磐物のアナゴは大物が多いという特徴が生まれているのです。
現在、認知度が高いとは言えない「常磐もののアナゴ」ですが、これを機会に覚えて頂いて
ご賞味あれ!
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