またしても「熊本」の話です(笑)。
今回紹介したいのが『熊本カフェ散歩』(←画像)。
次から次へと出版されている「グルメ本」とか、「食べログ」とは一味ちがう。
風変りというか、味のある本というか、とにかく読んでいて日常がちょっぴり豊かになる本だといえる。
まず作者の三角由美子さんの文章に惹かれた。
どちらかというと直木賞作家の三浦しをんさんの文体に似ている。読んでいて気持ちがいい。
自分のスタイルがある。つまり、「スタイリスト」なのだ。
地元熊本生まれ。有名女子大卒で大手の出版社の編集部を経て、フリーライターに。
現在は地元の情報誌を中心にインタビューの取材・執筆が主な仕事だそうだ。
さらにいえば、実家は熊本の「三角畳店」。いうならば畳屋の娘。
「ミニ畳作り」講習会を開いたり、畳を担ぐことは日常茶飯事。
ご自分のブログにも「和の暮らしってステキ」とつぶやき中。
カラスの啼かない日があっても、お酒を飲まない日はいち日もない。
行きつけの「飲み屋」はあっても、カフエとか喫茶店にはとんとご縁がない。
そんな彼女に飛び込んできた仕事が「カフエめぐり」の取材。
「なんとかなるさ」のケセラセラでカフエ行脚がはじまったらしい。
さて紹介されているのは、熊本市の中心街と東西南北で出会ったカフエ50軒。
ありきたりのカフエ探訪記ではない。
まるで刑事ドラマの聞き込み捜査のごとく、知らない店の扉をひらく。
ときには猫も棲まないという路地裏の喫茶店まで足をのばす。
大方の「グルメ雑誌」にありがちな、お店の雰囲気だとか、コーヒーの味がどうだとか、ユニークなスイーツが格安だとか。
どちらかというと取材される側が宣伝してほしいところの提灯持ちはいっさいしない。
「カフエという空間」に作者の目線がある。
テレビのニュースのネタとか、人間ドックのはなし、ペットのはなし、ゴルフの打ちぱなしの話など,客とマスターのたあいない話が「カフエ空間」に広がる。
それにしても常連さんのチカラってすごいと作者はいう。
マスターが手を離されないときや、話がとぎれると、すかさず横から援護してくれる。
コーヒーを飲むのなら、コンビニでもファーストフード店でも手短かにすませられる。
そのほうが時間効率を優先する人には適っているだろう。
しかしカフエの席に座ってポーと窓の向こうの景色を眺めたり、カウンターで居合わせた人と他愛ない話をして笑うことも、気持ちを満たしてくれるものだ。
つまり、こんな人生の「余白」があってもいい。
『熊本カフェ散歩』が、それを教えてくれたのです。
熊本カフエ散歩
著者 三角 由美子
発行所 書肆 侃侃房(しょし かんかんぼう)
定価 1300円(本体)+税