オペラなら当たり前のことなのだが、生演奏によるミュ―ジカルは久しぶりである。
『太平洋序曲』、『Into the Woods』に続きソンドハイムは新国立劇場で3作品目。前作2つは宮本亜門さんが演出。
今回は新国立劇場芸術監督の宮田慶子さんが総指揮を揮う。
キャストは井上芳雄(画像=左)、シルビア(画像=右)、それに宝塚出身の和音美桜(画像=中央)。
音楽監督には巨匠島 健、美術には売り出しの伊藤雅子、照明は『海の夫人』で、その斬新さが買われた中川隆一。
30分でチケットが完売
最高のスタッフ、キャストを揃えてソンドハイムに挑んだ意欲作だ。
私自身、新国立劇場中ホールで見たかったが、日程の都合で、西宮の阪急中ホールで見た。
関西では僅か3日間の公演だが、先行予約のチケットが30分で完売したそうだ。
観客も馬鹿じゃない。良い作品はよく知っているということである。
只のラブストーリではない!!
舞台は19世紀のイタリアのミラノ。
一口でいえば、ラブストーリーである。
「愛すること」の本質に切り込むと同時に、常識や固定観念に縛られた生き方を問う、ミュージカルというより色濃く、深く…
思索的なストレートドラマといったほうが当たっているかもしれない。
感情の揺らぎを隅々まで描ききるというソンドハイムの楽曲は、いつも難度が高いという定評がある。
今回はドラマの流れ、楽曲のあるべきテンポを保っていたのには感動した。
キャストとオーケストラが一丸になって積み上げていった成果だと思う。
「あなたを愛するために、ここにいるの」
要するにソンドハイムの楽曲は、初めに歌詞があり、歌詞がメローディをリードする。
ですから台詞から歌への移行が実にスムースだった。
まるで会話を音符にのせているようで違和感がない。
特にフォスカ役のシルビアは力演で、歌詞がときに優しく、ときに雄弁にながれるようなピュアな旋律が観客の心に届く。
そしてフォスカがジョルジオへの熱い思いを
「あなたを愛するために、ここにいるの」
と吐露する。憂いをたたえたこの情熱的なラブソングは、うつくしく、そしてせつない。
井上芳雄の裸で開幕!
帝劇で見た『エリザベート』では、井上芳雄はあまり目立たなかった。今回は水を得た魚のようだ。
ソンドハイムの楽曲をみごとにこなした。
幕開きはクララとのベットシーン。井上芳雄は素裸にちかい。演出の宮田慶子さんのご趣味とはいわないが、ドラマの導入部として、こ
のショッキングな場面は、紗を効果的につかって、愛の透明感が表現されて成功している。
ところでマーチがながれて5人の兵士が再々舞台に登場するが、このドラマの背景になっているイタリア統一戦を表しているのだろう
が、芝居のリズム感を削ぎ、場面の”つなぎ”にしか見えない。嫌悪感さえ催す。
それとクララの和音と井上の大尉が公園で逢う場面がある。
お決まりのベンチと外灯。これでは安っぽい歌謡ショウの寸劇に見えてしまう。どこかミラノの絵になる場所がないものか。
助演には福井貴一。歌唱力は抜群である。倉本聡さんの『昨日、悲別で』をみて以来である。懐かしさがこみあげる。
これからも再演を重ねることを期待したい。 (2015.11.13 県芸術文化ホール所見)