さむいね
さむいな
さびしいね
さびしいな
とってもステキなお芝居でした。
クリスマスの夜の或る夫婦の会話を、リアルな時間軸で描いた、おかしくて、哀しい佳品。
それは素晴らしい短編小説に出逢ったようでもあった。
妻はずぼらな女で家のことは殆んどなにもしないチンドン屋の跡取りむすめ。
夫は無職だが、家事は甲斐甲斐こまめにこなす。
クリスマスイブだというのに、別れる寸前の夫婦のひと夜という設定が 鄭さんらしく面白い。
二人のなにげない会話で、些細なことでお互いのボタンのかけ違いが明らかになったり、そのうちに二人はお互いの大切なことを
相手に伝えてはいなかったというのがドラマの主軸だ。
「夫婦って何なの ショセン他人じゃない!!」
夫婦って何か、ほんとうの幸せとは何かを、ふたりの会話のなかで問いかける、「人生」が滲み出るような1時間40分のお芝居である。
主人公のくたびれた中年女に「海のサーカス」の佳梯(かはし)は、初演からの持ち役。発声は抜群で、どこにでもいそうな「オバサン」を
演じてうまい。
相手役の久ケ沢徹は、気弱で神経質な感じをみごとに表現して好演。
クリスマスソングが流れるなか、手作りのクリスマスツリーに飾りつけた豆電球の明かりの下、妻は夫の腕に優しく抱きしめられる。
お互いの気持ちを伝えられなかったために、もう後戻りできなくなった……つかの間のやすらぎとほろ苦さ。
そして、やるせないラストである。
言い換えれば、 鄭義信しか出来ない詩情あふれる終幕である。
甘くて、ちょっぴり酸っぱい小さな蜜柑をクリスマスプレゼントにもらった気分になった観劇でした。