あれもやりたい、これもやりたい。
あそこにも行きたい。
やりたいこと、やるべきと思っていることのあまりの多さにぶつぶつ呟いていると、いつの間にか、神様が自分の後ろに立っていた。
自分の中では、神様の姿は常に自分と同世代である。
今や、中年の姿となった神様は昔通りの長髪であるが、幾分、白髪が交じるようになった。
「そんなに欲張ってはいけないよ」
いつもと同じように穏やかで親しげな口調である。
「でも、秘められた自分の可能性の前にはなかなかやることを絞れないよ」
と私が答えると、
「いったいあと何年生きる積りだい?」
と神様が笑った。
「あと何年、生きられるんですか?」
と私は質問を質問で返してしまった。
神様はしばらく、黙ったまま私を見つめた。
「知りたい?」
私は更に問いかけてくる神様の顔に笑顔が消えていない事実に救いを求めるように、
「まさか、今日、明日ということはないでしょう」
と続けた。
すると、神様の顔からは笑みが消えた。
「それを本当に聞きたいかい?」
ゆっくりと言葉を区切るように問う神様の前に、私は言葉を失った。
「いえ、やめて置きます」
「それがいいのかも知れない」
唸るように答えた私を慰めるように神様が静かに微笑みながら、答えた。
さっきまでは、あんなにやりたいと願っていた数々の事柄、行きたいと思っていた土地などが、今やどうでもいいことに思えた。
「この世の終わりといった顔だな」
「そりゃ、そうでしょう。死刑宣告を受けたばかりだ。それでも笑えるような図太い神経は持ち合わせていない」
「人間は生まれたときが、死刑宣告を言い渡されるときだ」
「そいつは屁理屈だ!」
思わず、私は叫んだ。
「屁理屈を言うのが神様の仕事だよ。もっとも、一流の神は9割が屁理屈なのに、聞く人に屁理屈っぽさを感じさせない。その点、僕はまだまだだな」
「あなたには会う人すべての寿命が見えるんですか」
「まさか。帰ってパソコンのデータベースで調べないと分からないよ。僕の脳には、世界中の人間の寿命を覚えられるほどの容量はない。実を言うと、君の寿命も調べていないんだ」
「そうですか」
私は安堵の吐息を漏らした。絶体絶命のピンチから生還した気分だ。
「だからといって、今日明日に死なないという保証はないよ」
「それは誰も一緒でしょう」
私はからかわれているのかと思って、少しばかり強い口調になる。
「そう、一緒だ。その不確かな時の中で、人は怒り、泣き、笑い、願い、悩む。何かを成すのに時間を要することもあるのは僕も十分に理解できる。だけど、時間には限りがある」
「悩みながら、迷いながら生きるのが人間です」
「企業秘密だけど、神も迷うんだ。ボーナスが出た直後で何でも好きなものが食べられるとしても、君は迷うだろう。好きなことができるからといって、迷いがなくなるわけではない」
「昼飯と人生は違う」
「比喩を理解しないようだね。それとも、僕の比喩が下手くそなのかな」
「そんなことはないよ」
この神様は時折、とても自信のなさそうな表情をする。演技なのであろうか。いずれにせよ、人間が神様を慰めるとは、変な光景には違いない。
「神にも寿命がある。だけど、どの神も自らの寿命を知っている。だから、迷うべき場面、迷うべきでない場面を知っている。そこが人間と違うところかな」
「迷うべき場面……」
「人は誰も使命を持って生まれてきている。争うために生まれてきた者などいないはずなのに、勝手に人は争いを始める。建設的な争いは否定しない。しかし、暴力的な争うを行う者に対しては、敗者だけでなく、勝者にも神は幸せを与えない」
そこで目が覚めた。
寝苦しい夜の七夕の夢。
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あそこにも行きたい。
やりたいこと、やるべきと思っていることのあまりの多さにぶつぶつ呟いていると、いつの間にか、神様が自分の後ろに立っていた。
自分の中では、神様の姿は常に自分と同世代である。
今や、中年の姿となった神様は昔通りの長髪であるが、幾分、白髪が交じるようになった。
「そんなに欲張ってはいけないよ」
いつもと同じように穏やかで親しげな口調である。
「でも、秘められた自分の可能性の前にはなかなかやることを絞れないよ」
と私が答えると、
「いったいあと何年生きる積りだい?」
と神様が笑った。
「あと何年、生きられるんですか?」
と私は質問を質問で返してしまった。
神様はしばらく、黙ったまま私を見つめた。
「知りたい?」
私は更に問いかけてくる神様の顔に笑顔が消えていない事実に救いを求めるように、
「まさか、今日、明日ということはないでしょう」
と続けた。
すると、神様の顔からは笑みが消えた。
「それを本当に聞きたいかい?」
ゆっくりと言葉を区切るように問う神様の前に、私は言葉を失った。
「いえ、やめて置きます」
「それがいいのかも知れない」
唸るように答えた私を慰めるように神様が静かに微笑みながら、答えた。
さっきまでは、あんなにやりたいと願っていた数々の事柄、行きたいと思っていた土地などが、今やどうでもいいことに思えた。
「この世の終わりといった顔だな」
「そりゃ、そうでしょう。死刑宣告を受けたばかりだ。それでも笑えるような図太い神経は持ち合わせていない」
「人間は生まれたときが、死刑宣告を言い渡されるときだ」
「そいつは屁理屈だ!」
思わず、私は叫んだ。
「屁理屈を言うのが神様の仕事だよ。もっとも、一流の神は9割が屁理屈なのに、聞く人に屁理屈っぽさを感じさせない。その点、僕はまだまだだな」
「あなたには会う人すべての寿命が見えるんですか」
「まさか。帰ってパソコンのデータベースで調べないと分からないよ。僕の脳には、世界中の人間の寿命を覚えられるほどの容量はない。実を言うと、君の寿命も調べていないんだ」
「そうですか」
私は安堵の吐息を漏らした。絶体絶命のピンチから生還した気分だ。
「だからといって、今日明日に死なないという保証はないよ」
「それは誰も一緒でしょう」
私はからかわれているのかと思って、少しばかり強い口調になる。
「そう、一緒だ。その不確かな時の中で、人は怒り、泣き、笑い、願い、悩む。何かを成すのに時間を要することもあるのは僕も十分に理解できる。だけど、時間には限りがある」
「悩みながら、迷いながら生きるのが人間です」
「企業秘密だけど、神も迷うんだ。ボーナスが出た直後で何でも好きなものが食べられるとしても、君は迷うだろう。好きなことができるからといって、迷いがなくなるわけではない」
「昼飯と人生は違う」
「比喩を理解しないようだね。それとも、僕の比喩が下手くそなのかな」
「そんなことはないよ」
この神様は時折、とても自信のなさそうな表情をする。演技なのであろうか。いずれにせよ、人間が神様を慰めるとは、変な光景には違いない。
「神にも寿命がある。だけど、どの神も自らの寿命を知っている。だから、迷うべき場面、迷うべきでない場面を知っている。そこが人間と違うところかな」
「迷うべき場面……」
「人は誰も使命を持って生まれてきている。争うために生まれてきた者などいないはずなのに、勝手に人は争いを始める。建設的な争いは否定しない。しかし、暴力的な争うを行う者に対しては、敗者だけでなく、勝者にも神は幸せを与えない」
そこで目が覚めた。
寝苦しい夜の七夕の夢。
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