虫なくや我れと湯を呑む影法師 (前田普羅)
虫 (秋の季語:動物)
虫の声 虫の音(むしのね) 虫集く(むしすだく)
虫鳴く 虫時雨(むししぐれ) 虫の夜 虫の闇
虫の秋 昼の虫
● 季語の意味・季語の解説
俳句において「虫」と言えば、秋に草むらで鳴く虫たちの総称である。
リリリリと鳴く蟋蟀(こおろぎ)、リーンリ-ンと鳴く鈴虫、チンチロリンと鳴く松虫、チョンギースと鳴く螽蟖(きりぎりす)、スイッチョンと鳴く馬追(うまおい)などは、全て単独で秋の季語であるが、「虫」という季語はこれらの虫を全て含んでいる。
其中に金鈴をふる虫一つ (高浜虚子)
其中=そのなか。
虫の声は、オスたちが求愛のために翅(はね)を摺り合わして鳴らすもので、「虫時雨(むししぐれ)」とは、そうした虫の声が幾種類も重なりあって、とても賑やかになっている様子をさす。
また、「虫集く(むしすだく)」も同様の意味である。
虫時雨銀河いよいよ撓んだり (松本たかし)
撓んだり=たわんだり。
虫しぐれ吾子亡き家にめざめたり (谷野予志)
吾子=「あこ」と読む。わが子。
虫なくや我れと湯を呑む影法師 (前田普羅)
● 古今の俳句に学ぶ季語の活かし方
「虫」を季語に俳句を詠む場合、私は、虫の声の背後にある「閑かさ」を味わい深く表現するように努めます。
先人の句を鑑賞する時も、その作品に描かれた「閑かさ」を楽しみます。
次の二句に描かれている閑かさは、ほんのり淋しさを帯びています。
虫なくや我れと湯を呑む影法師 (前田普羅)
虫鳴くや離れにて剪る明日の供花 (凡茶)
離れ=はなれ。母屋から離れている家。 供花=くげ。仏さまや亡くなった人に備える花。
次の三句は、閑かさが美しく表現されていると思います。
虫啼くや草葉にかかる繊月夜 (三宅嘯山)
啼く=なく。 繊月夜=ほそ月夜。
窓の燈の草にうつるや虫の声 (正岡子規)
虫鳴き満ち灯影々々に団欒あり (福田蓼汀)
団欒=「まどゐ(まどい)」と読む。
次の二句の閑かさには、畏れのようなものを感じます。
啼かぬもの浅間ばかりよ虫の秋 (吉川英治)
水注いで甕の深さや虫時雨 (永井龍男)
次の三句には、虫の声の中で閑かさを感じている人物の、心の落着きのようなものが表現されています。
本読めば本の中より虫の声 (富安風生)
参照 http://haiku-kigo.com/category/7337848-1.html