ムーブメントを記録する異国人
交換可能ならば、自分は誰になりたいのか?
即座に否定して、自分がやっぱりいちばんだな、と湯ぶねに浸かりしみじみ考える。今更ね。
気難しい顔。ひねくれた性格。ひりひりとした緊張感を愛好する。窮鼠猫を噛むを実践する主義だとしても。
そんなんでも、自分がいちばん。
しかし、このひとなら充分変わる価値があるというひともいる。
ドイツを離れる。船に乗って。貿易の仕事の傍ら、ニューヨークでレコード会社をつくる。
ジャズは変遷する。良いものと悪いものとの差が分かる。黒人音楽を愛好する。
ロックは68、9年が全盛でジミ・ヘンドリックス、ドアーズ、スライ、ファンク、グッド・ヴァイブレーションズがあって、その後、消える。
ジャズのピークはその10年前辺り。真っ黒な音楽が記録される。
ブルーノート・レーベル。
その当事者のアルフレッド・ライオンになりたい。
生々しい音楽をレコードではなく聴ける。
途中で辞めてしまった演奏もあったかもしれない。
リハーサルにもギャラを出したとも言われている。
友人もやってくる。カメラマンとしての技術があり、自分のデザインを発揮する才能あるひとも加わって、レコード・ジャケットもアートになる。
すると、録音技師がいちばんなのかなとも考えられる。
リバーサイドやプレステッジの演奏も生で余分に聴ける。
だが、どのグループにするかチョイスして、誰をメンバーに選ぶか、その妙も楽しそうだ。
それも上手かったのがブルーノート。
後年、倉庫にある膨大な録音を発掘するマイケル・カスクーナというひとも登場する。ジャズ界のシュリーマン。古代への情熱。
その恩恵を自分も受ける。
販売と未発表にした差がそれほどない。別バージョンも聴ける。
衰える部分も機能もあるが、耳だけはなんとか持ち応えている。
低音を愛好する。オスカー・ピーターソンがブルーノートで録ったら、どうなっていたのだろう。趣味ではないのかもしれない。
自分も本末転倒でレイ・ブラウンのがっちりとした音を聴くために彼の音をかける。
ブルー・ミッチエル、ジーン・アモンズ、グラント・グリーン、トミー・フラナガン、ジョージ・タッカー、几帳面で哲学のないアート・テイラーというメンバーを集めてブルーノートで録音してくれてたらな、とも思う。黒いけど、ひとりピアノだけが可憐にまとめてくれる。
いまは、900円ほどでネットで買える。
月々、1,000円ぐらいで世界の音楽が聴き放題というプランもサイトもある。
しかし、あの時代のあの音楽と熱気をそのままで聴ける術がない。
トランペットのつばきがかかるぐらいの近距離で。
いくらお金を積んでも、できないものはできない。
そして、自分の着ぐるみも脱げないのであった。
湯で、その皮膜を一部、取り去るのみが限度であった。