爪の先まで神経細やか

物語の連鎖
日常は「系列作品」から
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償いの書(37)

2011年03月27日 | 償いの書
償いの書(37)

 疲労を覚えていたが、歩いて家に戻るうちに、それは爽快な気分に変わっていった。まだまだ、自分の体内に回復力は残っていた。当初は、親子で遊園地に行くはずだったが、店長はこちらに住んでいる学生時代の友人とひさびさに会うため、娘をぼくらに一日、預けた。裕紀は、それをとても喜び、ぼくもそれに異論はなかった。

 ぼくは、シャワーを浴び、仕度を終えた二人を待たせている後ろめたさから早めに身支度した。
 3人で駅まで歩き、電車に乗った。数十分も乗れば、そこに着く予定だった。チケットを3人分買い、なかにはいると誰よりも裕紀がいちばん、はしゃいでいた。彼女は、こういう場所が好きだったのだ。

 たくさんの乗り物に乗り、いくつかのショーを見た。キャラクターと触れ合い、写真を撮った。女性たちは甘いものを食べ続け、ぼくは、それを横で一口だけもらった。

 外は晴れていて、まさに休日だった。午後になると雨が一時的に降ったが、急速に天気は回復され湿度の高い空気がぼくらを覆っていた。

 まゆみちゃんも開放感からか、こころを全開にしていた。その年代の女の子と直かに触れ合う機会などないが、ある面では大人のような考え方をするものの、また当然ながら、子どもの部分もたくさん残っていた。その微妙な年頃の女の子の一日を確認できて、印象に残せたことをぼくはとても喜んでいる。まゆみちゃんの今日の一日は、やはり、この一日しかないのだ。いつか、このことを将来、思い出してくれるだろうか? それは、とても大切な記憶となってくれるだろうかと、ぼくは心配し、かつまた自信のようなものもどこかにあった。

 3人でベンチに座り、また甘いものを食べている二人を横目に、ぼくはぽっかりと浮かんだ白い雲を眺めている。空は限りなく青く、こころは躍動しながらもとても穏やかだった。ぼくは、まゆみちゃんの一日のことを考えていたが、裕紀の人生の消え往く一日だとは考えていなかった。明日には、まゆみちゃんは東京を離れるが、ぼくのそばにずっと居続ける裕紀のことは、それほど考慮しなかった。ぼくらも同じだったのだ。微妙にうつりかわる人生の一日を消費し続けるのだ。ぼくは、あの青空をみながら気付いておくべきだったのかもしれない。だが、そうなるまでには、たくさんの時間を要するのだろう。

 楽しい一日はあっという間に過ぎ去り、夕暮れを越え、夜になり、閉園の時間になった。まだまだ、熱を発する楽しみの核が消えないまま、ぼくらはそこを後にする。皆、同じような気持ちなのか、同様のひとびとが電車に乗り、浮かれた気持ちの行き場もないままそれを薄めるに任せているような状態をぼくは感じていた。

 地元の駅に着き、ぼくらはいつもの帰り道を歩いている。

「スーパーに寄るから、先に帰っていて」と、裕紀は言い、明かりが灯っている店を目指して角を曲がった。
 ぼくは、あの頃と背丈の変わったまゆみちゃんと歩いている。
「結婚って、楽しいものでしょうね」
「この通りだよ。まゆみちゃんもいちばん、好きなひととそういう生活がいつか送れるといいね」
「いちばん、すきなひととですよね」
「まあ、可能ならば、と、大人は考えるけれど、それは信じた方がいいよ」
「わたし、あのひとに声をかけられた」
「誰に?」
「ひろし君がバイトをしていたところの女の子だよね、って」それは、質問に対する答えではないけれど、ぼくの頭に答えと同様のむなしい痺れがあった。
「そう、覚えているんだ」
「わたしも、びっくりしたけど、裕紀さんも好きになりましたけど、あのひとも、わたし、大好きだった。彼女はいちばんじゃなかった?」

「ぼくは、嫌いになっていない。別れを持ち出したのは向こうなんだよ」
「キライになっているとは思えなかった。ひろし君をいまでも大切に思っているようだった」ぼくは、その言葉をきき、彼女がまだ10代はじめの女の子であることを忘れてしまうような錯覚があった。
「大人は思い通りに行かないことにも対処しなければならないんだよ」
「ずるいんですね」
「ずるいよ。ずっと、ずるいよ」
「可愛い女の子がいた」
「うん、ぼくも見た」

「そう?」彼女は、意外そうな顔をした。それは、もう女性の顔だった。「裕紀さんに赤ちゃんがいたら溺愛しそうですね。わたしにさえ、こんなに優しいのに」

「そうかもしれないね。まゆみちゃんのお母さんも優しかったもんね」
 彼女は、はじめてホーム・シックにかかったように遠くを見つめた。ぼくも、自分の母を思い出し、母になっている妹のことも頭に浮かべた。

 家に着き、ドアを開けた。店長は、そのまま友人たちと食事をするとの留守電が残っていた。
「お父さんは、急に子どもっぽくなった、この旅行で」
「昔の友人と会うのは、何よりも楽しいものだよ。まゆみちゃんもそういう子たちを十代のうちにたくさん作るといい」
「お説教くさい」

「そうかもね」ぼくは、笑った。そうすると、袋をぶら提げた裕紀が帰ってきた。ふたりは、台所で助け合ってなにかを作っていた。ぼくは、今ごろになって一日の疲れがでてきて、まどろんでしまった。夢なのか現実なのか分からないまま、ふたりの調理する音や笑い合う声を遠くで聞いていた。
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償いの書(36)

2011年03月26日 | 償いの書
償いの書(36)

 ぼくが学生時代にスポーツショップでバイトをしていたときの店の店長が仕事で東京に来ていた。彼は、その地域のスポーツ振興のなにかの係りになったらしく、さまざまな用具の見本市があるので、そこに行くことを目的としていた。そして、彼は自分でもジョギングをはじめて、自分やその周りの愛好家のために程度の良いシューズを探そうともしていた。さらに、娘に遊園地に行きたいとねだられ、その子もいっしょに来ることになっていた。その子は以前はぼくにとてもなついていたが、ひさびさに会うとどう変わっているのか自分もその変貌に興味があった。

 電話を貰い、ぼくらは彼らを家に招くことになった。外で食べるより自宅の方が安心できると思ったからだ。
「結婚のときはいろいろありがとうございました」ぼくは長い間、離れていたことも忘れ、旧友に会ったような懐かしさで店長に言った。彼は、娘の運動会かなにかのイベントで来ることはできなかった。そのため、裕紀のことを知らなかった。彼女も同じようなことを言った。

「こちらこそ、行けなくてごめん。こんなにきれいな女性ならば、行っとくべきだったな」
「まゆみちゃんも、大人になったね」彼女は思春期に入る手前だったのだろう。父の冗談に反応もせず、無口だった。その根源的な理由を突き止めてみたかったが、もうしばらくは時間がかかりそうだった。

 彼は一日仕事をして、まゆみちゃんはひとりで一日を過ごしていた。その年代なのか食欲があり、いろいろなものを食べた。ぼくは店長の家で彼ら3人といっしょに食事をしたことを懐かしく思い出している。

 裕紀が話しかけると、彼女も段々とこころを開いていった。そう無口な状態を保てるほど厭世的でもないし、根は快活な女の子なのだ。

 そして、まゆみちゃんもいろいろと裕紀のことをしりたがった。仕事は、どういうことをしているのかとか、英語がはなせて魅力的だとかの自分の感想も付け加えた。そこに、自分だけの、他からは際立った自立性が芽生えていることがぼくは嬉しかった。ただ、嬉しかった。まっすぐに育っていることに感激すらしていたのだ。

「まゆみちゃんは、大人になったら何になるの? ぼくみたいな彼氏がいるのは抜きにして」
「そういうのって馬鹿みたいだよ」と、いいながらも彼女は笑った。「看護婦か保母さん」
「そう、どちらも素敵ね」と裕紀は言った。そして、数秒だけ目をつぶり、その子がそうなっているのを想像するかのように再び目を開けた。

 ぼくは、地元のことを訊き、母校のラグビー部のことを情報として新たに掴んだ。きちんと水が流れていれば、そこには急激な落下など見られないようだった。

 夜も段々と暮れ、裕紀はその子が気に入ったらしく、なんども泊まっていけと誘った。それは、誘うということを越え、強制のようにもぼくには感じられた。味気ないホテルに泊まるより、ひとの温もりがあった方がいいのか、まゆみちゃんも納得した。

 彼女が風呂にはいる間、(やはり、思春期の女の子なのだ)ぼくは散歩がてら、店長をホテルまで送った。ぼくらは少しアルコールが入り、さまざまな垣根を取り除き、たくさんでもないが濃密な話をした。

「お前は、ああいう子が良かったんだ」
「すべて、偶然です。転勤したのも偶然ならば、再会したのも偶然です」
「前の子もきれいだったよな」
「多分、ぼくも永遠にあのひとを忘れることなどできないでしょう」
「思い出が詰まりすぎて?」
「思い出は時間とともに美化されますから。嫌なことは風化されて」
「そうだろうな。そうだ、明日、この周りをジョギングするから付き合えよ、まだ走れるだろう?」
「多分、じゃあ」といって待ち合わせの時間を決めた。そして、ぼくは、彼がプレゼントしてくれた靴を履いていこうと決めた。
 家に戻ると、まゆみちゃんは裕紀のパジャマを着ていた。それは、女の子っぽ過ぎた。そうして、黙ってストローでジュースを飲んでいると、彼女はとても愛らしい存在になっていた。次に、裕紀がシャワーを浴びた。その間、ぼくらは設定が分からないながらも会話を続けた。
「あの人、優しいひとですね」
「そうだろうね」
「良かったね、ひろし君」と言って、もっとたくさん話がつづくのかと思ったが、待ってもなにも出てこなかった。ぼくは、学校の話を聞き、その風景がまざまざと自分の頭のなかに反映されていくのを感じている。あの空気と校舎の色さえ思い出せそうだった。

「今日は、ひろし君ひとりで寝て」と裕紀は言って、まゆみちゃんを誘いベッド・ルームに消えた。ぼくは電気を消し、ソファに寝そべった。だが、なかなか眠られずビールの缶をまた開けた。

 翌日は休日だったが、早めに起き、スニーカーを履いて、それがぴったりだったことに驚いている。店長はそもそもシューズのサイズを合わすことがうまかったことを思い出した。

 ぼくらは合流し、川の流れる横を走ったり、軽い傾斜のある橋を超えたりした。彼は適度に運動しているらしく、無駄なものが身体にはないようだった。そして、ぼくはその横で少しばてている。日頃の不摂生がここに表れているのだ。
「昔の近藤には負けたかもしれないけど、いまなら勝てるな」と誇らしげに彼は言った。ぼくは、スポーツ・ドリンクを飲みながら返事もできないままただ頷くしかなかった。
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償いの書(35)

2011年03月13日 | 償いの書
償いの書(35)

 ぼくらは忘れる生き物であり、大切なものであろうと海の砂粒のように流され、ひとつひとつを区別することもできなくなっていく。しかし、忘れることに必死に抵抗するなら、ぼくは雪代の美しさが永続して、もっともっとリアルに迫り、振り払えないと考えていたのかもしれない。それに直面するとなれば、数年は経っていたはずなのに無抵抗だったので、忘れることなど不可能だったはずだ。だが、それも少しは忘れるようになっている。良い方向に働くひとつの結果なのだ。

 裕紀のことは、また別だ。ぼくは彼女の一挙手一投足を覚える覚悟をしている。だが、ぼくは仕事の間は、当然彼女に会えず、その思い出を増やしていくことはできなかった。そして、有限性というものをまだ察知できない20代の自分は、そんなに真剣にはそのことを考えていなかったのだろう。

 ぼくは夜中にふと目を覚まし彼女の存在が横にないことに気付く。そのままの姿勢で彼女を探すと、カーテンを少しだけ開け、外を見ていた。そこから、何が見えるのだろうか、ぼくは想像できなかった。

「どうしたの、眠れない?」
「あ、起こした?」
「自然に起きちゃったよ。どうかしたの?」
「なんか手足がしびれた」
「大丈夫? 明日、病院に行く?」
「そんなんじゃないの。大丈夫だよ。寝て」彼女はトイレに行き、またベッドの中に戻った。しびれたという手と足をぼくは交互の両手で挟んだ。だが、それはいつものように少し冷たいだけで、外部からはそれ以上の情報を与えてはくれなかった。

 翌日、彼女は平気な様子だったので、あれは不思議な夢の一部だったのだろうとの意識で、ぼくは気に留めなかった。そして、いつも通りいっしょに職場に向かった。改札を抜け、別れる間際になって、
「そういえば、体調が良くないといってなかったっけ?」と、思い出したようにぼくは言った。
「気にしないで、元気になったよ」と、彼女はいつもの笑顔で言った。その瞬間のこと自体もぼくは思い出すことができている。しかし、日々の仕事に忙殺され、彼女が第一ではなっていく時間が増え、2位になり、3位になったり、恐ろしいことには圏外になったりもした。

 仕事が終わり家に着くと、彼女は料理をしている。重いフライパンがあるのを目にして、
「手が、しびれるとか言ってたよね」とまた訊いた。
「気にしすぎなんだよ、ひろし君は。自分ももっと怪我したり、病気になったじゃない」
「あれは、だって体力の限界を越えようとした結果だよ」
「同じだよ。大丈夫だよ。待ってて、もう直ぐでできるから。お腹、空いた?」
「それはね」
 ぼくはスーツを脱ぎ、ハンガーにかける。ネクタイを緩めた首は、以前のような太さを有していないような気がした。それは、ぼくが運動から離れた時間の証明でもあったのだ。

 テーブルに座ると、前にいる裕紀はいつもと寸分違わぬ様子だったので、いろいろなことを忘れ、会話は今日起こったことに変わっていった。彼女は笑い、ときには相槌をうち、分からないことは質問をして、疑問として残さないようにした。彼女は、いつもそうだった。分かった振りをすることもなく、知らないことは知らないままにしておくことができないようで、さまざまな疑問を解消する努力をした。しかし、何に対しても首を突っ込むというような態度でもなく、どこか抜けているような部分もあった。

 ぼくは、手を伸ばし彼女の両手をつかんだ。やはり、気になったのだ。

「どう、変わりない?」
「平気。ひろし君は、もうスポーツ選手の手じゃなくなった。高校生のときはもっとごつかった」
 ぼくは手を離し、自分の両方の手のひらをしみじみと見た。そう言われれば、その通りだった。首は細まり、手は柔になった。その代わりに自分は何を手にしたのだろう、という不確かな疑問があった。

 ぼくは、テーブルを片付け、皿やグラスを洗った。彼女はテレビの前でリモコンを握って、チャンネルを変えている。その当時、人気がでだした歌手がうつるとリモコンで音声を少しだけ上げいっしょに歌い出した。ぼくは、それを聴きながら皿を洗うのを終えようとしている。

 ぼくも横に戻り、テレビを見た。あと、何人かが歌をうたい、ぼくは知らない顔をそこで何人かだが見つける。彼女は歌の内容の説明をして、ぼくは彼らのバックグラウンドを知る。彼女の説明は覚えているが、それが誰だったのかは覚えることができない。これもまた消え往く記憶の数々のひとつだった。

 ぼくは、昨日と同じようにベッドのなかにいる。彼女はきょうは抜け出さず、安らかな寝息を立てている。それをさっき聞いた彼女の歌声に変換し比較しようとしている自分がいた。だが、それも睡魔との闘いに負け、気付くと朝になっていた。彼女は家の中の用事をしている。ぼくは、鏡にむかってひげの感触を気にしている。どうやっても剃る以外方法はないのだが、それを先延ばしにできることが可能かどうか確かめるようにいつまでも撫でている。
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償いの書(34)

2011年03月12日 | 償いの書
償いの書(34)

 裕紀の叔父さんには子どもがいなかった。それゆえに両親を亡くす前から裕紀を可愛がり、亡くしてからはもっと親身になって溺愛とまではいわなくても可愛がり、さらにはその恩恵は付随するぼくにまで結果として及ぶことになった。

 彼は、ぼくが高校生の頃、裕紀と付き合っていたが、その後、別れたことも知っており、自分自身も若いときに無謀な判断をして誤った結果を報いた自分の人生のためかぼくを責めなかった。暖かな気持ちを充分にもっていて、それを隠しきれないように生活上で表した。金銭的にも裕福な部類のひとらしく、よく旅行などにも誘ってくれた。ぼくも、思いがけなく恵まれたひとに拾ってもらわれた猫のように、その生活に甘えた。

 ぼくらは箱根にいる。自分では来なかったであろうホテルに泊まっている。観光を楽しみ、美味しい夕飯を食べた。大きな浴槽にぼくと彼は浸かり、適度な温度が自分自身を心身とも解放するように自然と話が弾んでいった。彼は、ぼくが裕紀に示す愛情を確かめ、その温度が高温すぎることもなく、冷えすぎていないことを計った。一時的な熱狂ではなく、裕紀に対して絶えず水を一定量だけ与え続ける園芸科のような気持ちをもつよう促した。それは、実際のところどのようなものか自分には分からなかった。しかし、その言葉をいつか分かる日が来るだろうということで頭の片隅には置いておいた。

 裕紀も同じように叔母といっしょにお風呂に入り、紅潮した顔で戻ってきた。その叔母もぼくを急にできた息子のように親切にしてくれた。ぼくは、そのような関係をもてたことを喜び、結局は親しくなれなかった裕紀の両親と彼女の家族のことも一瞬だが忘れた。忘れたといっても自分が嫌われるようなことをしたのも事実であり、それをいつか証明されるのではないかという恐れもどこかに残っていた。しかし、忘れることのほうが多くなった。

 ぼくは、雪代と暮らしているころには、自分の両親が雪代と仲良くなることもなく、また逆の立場も長い間、そうであったことを何回目かの温泉に浸かりながら考えている。大きな浴場の溢れんばかりの湯が日に反射するのを眺めながら、ぼくはそんなことを考えていた。そして、ひととの繋がりの不思議さも同時に感じていた。

 ぼくは、そこで買った饅頭をお土産にして会社に向かった。何人かに妻のことを尋ねられ、ぼくらの現況を話した。仲が良いのも変わらないし、ずっとこのままであってほしいというぼくの願望があった。何人かはそれに賛成して、数人はそれに反論した。結果としては別のものを提示されることになったが、その頃の自分はどちらも耳に入っていなかったのだろう。

 外出するときに、犬を散歩させる女性に会う。彼女は上杉と言った。
「新婚生活楽しそうね」
「分かりますか?」
「むかしの余韻のようなものが手探りとして戻って来ている」
「不吉なことは言わないでくださいね」
「不吉も幸運もすべて真実なんですよ」
「まあ、そうだろうと思いますけど。瞬間を大切にするようにと言ってましたっけ?」
「そう言った。はっきりと言った」
「なにかがあって? 見えて?」
「ただの人生の先輩のたわごと。あまり、気にしないのよ」
 ぼくはずっと立ち話をしているわけにもいかないので、そこを去る。振り返ると、彼女は空を見上げ、その可愛い犬だけがぼくの行方を追っかけていた。上空にはなにがあるのかぼくも視線の先を見つめた。しかし、そこにはいつもの東京の青さと微妙な濁りが混じった空があった。雲も数個だけ行き場を失ったひとびとのように肩を寄せ集めているようにただよっていた。

 ぼくは仕事を終え、家に戻る。その時になると、昼間の女性の言葉をいつも自分は忘れている。彼女の毎日の小さな差異を発見するだけでぼくは幸福だった。もしかしたら、それが瞬間を大切にするという大きな意味かもしれなかったし、もしかしたらまったく別の意味があるのかもしれなかった。だが、忘れていたものは忘れたままにする時間も必要なのだ。

 たまに裕紀は叔母と電話をしている。ぼくは野球を見たり、サッカーを見たりしながらその声を聞くともなく聞いている。何か解決を求めての会話ではなく、ただドリブルをするのが好きで中断することが出来なくなってしまった少年のようにそれは続いた。ぼくは、サッカーの前半が終わり、トイレに立った。横目でぼくは彼女の姿を見ると、彼女もそれに反応して手を振った。後半の途中で彼女は電話を終え、ぼくの隣のソファに座りもたれかかった。

 ぼくが横を向くと、ずっと待っていたシュートが決まってしまう。彼女は笑い、ぼくは苦笑いをする。彼女が今度は不機嫌な顔を作り、ぼくは笑う。そこには、瞬間の積み重ねだけがあった。多分、それだけしかなかった。ぼくは、こうしたものを手に入れるために、遠回りをしたのだと思う。今更ながら、そのことを確認するようにゴール・シーンのリプレイを見るように、彼女の表情をもう一度だけ見つめた。
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償いの書(33)

2011年03月07日 | 償いの書
償いの書(33)

 ぼくは本屋でラグビーの雑誌を立ち読みしていた。いつもは手にすることも稀にしかなかったが、あまりにも次の仕事の予定が空きすぎて読むべき雑誌はもうなかったのだ。そこで、不意に山下がインタビューを受けている記事を目にした。

「ぼくは、高校のときに全国大会に出られて、とてもラッキーなスタートが切れました。ぼくらの学校はいつも2番手に甘んじているような高校でした。自分も、当初は最強のチームに入る予定でしたが、あることがきっかけで別の高校に入ることを決めました。そこには一学年上の先輩がいて、彼がキャプテンでした。いつも不屈の気持ちを抱いているようなひとで、練習も熱心に行っていました。彼の方法を守れば自分もさらに上達することを学び、それゆえにぼくらの高校は常勝校にもなったのです。そのひとはラグビーを続けることはありませんでしたが、そのひとの分も自分はもしかしたら頑張っているのかなと感じることもあります」

 若い子に向けての意見を求められての発言だったのだろうが、そこには過去の自分がいたのだ。そして、嬉しい反面、自分はあのときほど熱心に物事に取り組んでいるのだろうか、という少しゆううつな気持ちもあった。

 ぼくは雑誌をもとの棚に置き、そこを出て行った。本屋をでると、ぼくは以前に感じた歓声がきこえて来るような錯覚を抱いている。無心にボールを抱え走って行った日々。そこにぼくの情熱のすべてがあったのだ。

 約束をしていたお客さんと話を終えても、ぼくの周りには蜃気楼のような歓声がまだ残っていた。自分の気持ちがどうにかなってしまうのか心配したが、心配だけではなにも解決はしてくれなかった。

 それで、仕事を終えて、ぼくは裕紀を誘い、ゲーム場に向かった。そこにはバッティングセンターが併設されていて、そこで無心にボールをバットで叩きたかった。そうしないことには、今日のこの気持ちがなくなってはくれそうになかったのだ。ぼくは上着を脱ぎ、ネクタイをはずし、腕まくりをしてボールを叩いた。何回かそうしていると気持ちも落ち着いたものになった。
「どうしたの、急に?」

 ぼくは経緯を話した。彼女に秘密を作らないようにと決めていたのだ。ぼくは昼間に雑誌を読んで、そこに表現された自分と、いまの自分があまりにもかけ離れた存在であることに、自分自身でがっかりしたのだと正直に告白した。彼女は当然のように否定し、いまのぼくも昔と違わず素敵だとも言ったが、そう言われる度に自分の気持ちのなかにしっくりこないものを感じていた。別の人間だったら、どう評価するのか、裕紀以外の意見も訊いてみたかった。

 次の日になってもその気持ちは残り、ぼくは雑誌を手にしてしまった自分を恨んだ。だが、日々の業務はぼくの意思とは関係なく過ぎ去っていき、だんだんと張り詰めた気持ちはなだらかに消滅に向かった。ぼくは、ヒーローになれなかった自分を悔いていたのだろうか。それとも、ただ山下のような存在に嫉妬していたのだろうか。はっきりとは分からなかったが、それらがミックスした感情がこころの中に留まっていたのだろう。

「わたしがあのとき逃げなかったら、ラグビーを続けていた?」彼女は、あまりにも心配したのかそのようなことを言った。自分を責めているのだろうか?
「え?」
「なぜ辞めてしまったの?」
「裕紀とは全然、関係ないよ。自分は高く持ちすぎた自分のイメージに追いつけずに勝手に苦しんで選択してしまったんだよ。もちろん、そのことで後悔していない。裕紀を失ったことは後悔したけど」
「いつまでも悩んでいるみたいだったので」
「そう、ごめん」
「別にあやまらなくてもいいのに」
「それに、裕紀は逃げた訳でもないだろう。ぼくに責任があるんだよ」
「責任なんか誰にもないんだよ。責任なんか」

 ぼくは彼女を抱きしめる。あまりにも弱々しい存在に感じて。世界のあらゆる決断に対して、ぼくらは無力であり、もうぼくはその瞬間にひとりでは生きていけないものとして自分を規定してしまったのだろう。ぼくは抱きしめて彼女を守るというまったく反対の意味で彼女を胸に感じていた。ぼくはこうして自分の存在がどこかに逃げて飛び去ってしまわないように彼女にしがみついていただけなのだ。そのときに、はっきりとそう感じていた。

「ひろし君に責任なんかないんだよ」
「そう思うことにする」
「世の中って、もっとあたたかいところだよ」
「多分、そうだろうね」

 ぼくは少し泣いた。自分のイメージに負けた自分をそのとき初めて許したのかもしれない。それまでは、過去を振り返ることを強がってしてこなかったのだろう。自分は、そこで自分の弟を見るように過去の自分を眺めた。もう歓声は消え、ぼくはただ静かなロッカーへの道を歩いている。目をつぶり敗者であったあの瞬間を認め、そとで待っているはずの裕紀を探そうとした。ぼくは再び、空白の期間から裕紀を取り戻そうとしていた。実際には、東京に出てきたときに裕紀を探し当てていたのだが、きちんと直線となってぼくのこころにつながったのは、そのときに抱いていた裕紀の小さな肩をしっかりと感じたときからだったのだろう。ぼくは、これこそが永遠だと思っていた。永遠というのは、こうして甘美で暖かいものだろうと認識した。
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償いの書(32)

2011年03月06日 | 償いの書
償いの書(32)

 ぼくらは新しい家に住んでいたが、裕紀のいままでの家は両親が亡くなったときに遺産として譲り受けたものなのでそのままにしてあった。そこの近くには彼女の叔父も住んでいて、そこがあるとなにかと便利だった。そして、ぼくが出張に出掛け家を空けると、彼女は殻に戻るようにしてその場所に帰った。ぼくは、出張明けにその家に寄り、彼女を殻から取り出すようにして、いっしょに自分らの家に帰ることもあった。

 ぼくは地下鉄のなかで吊り革につかまった状態で横にいる彼女に小声で話した。結婚したての彼女はとても美しく、もう学生時代の少女はどこにもいなかった。ただ話すときに、そのときの様子が感じられることもあった。彼女はもっている雑誌から目を離して、ぼくの方に振り向いた。
「きょう、遅くなるので先に帰ってて」
「ご飯は?」
「多分、いらない」

 その言葉をきいて、彼女は頭のなかで自分が食べる献立を考えているようだった。ぼくらは駅で別れ、また夜に再会するまで、お互いの表情を知ることもなかった。だが、こころの中にはいつもいるようでもあった。

 彼女は外では外国語を使うことも多く、家ではその反動で日本語をたくさん話したがった。ぼくは、外で愛嬌を振り撒いている分、無言で過ごせる時間も期待していた。だが、もちろん当初はたくさんの話をきき、たくさんの冗談を口に出した。

 休日になれば、ぼくらは映画に出かけ、軽食をもって大きな公園で寝そべった。ぼくは、自分の頭を彼女の太股の上に置き、流れ往く雲を眺めていた。レストランで食事をしたり、両親の代わりを受け持っていた彼女の叔父の家を訪ねたりもした。そこには現在の時間というよりもっと緩やかな時間があって、ただ、こうした生活がずっと長く続くのであろうという希望と期待があった。ただ、ぼくの会社のそばの女性から言われた「一瞬を大事にしなさい」という言葉もこころのどこかには残っていた。確かではないけど、残っていたような気がする。

 ぼくはその頃になって、やっと他の女性への関心を失っていった。それにしても長い自分の揺れ動く気持ちと付き合ってきたものだ。それは自分の意図しないことだったが、いつも自分から離れてはくれなかった。だがやっとこうしてひとりの、それも最愛のひとりと生活することにより、邪魔な気持ちはいくらか消えてくれた。その女性が悲しむことを自分は望んでいなかった。その原因を作ることなど、そのときのぼくは考えることもできなかった。

 その頃に、ぼくは大学時代の友人で同じ目標をもっていた斉藤望という女性とある試験会場でばったりと会った。彼女はぼくの職場からそう離れていないところで働いていたので、その後も連絡を取り合うことになった。結果としては、彼女はその試験に合格し、ぼくは何度目かだが落ちた。だからといってコンプレックスを与えるようなことを彼女はせず、ただぼくを応援するような言葉だけを述べた。
「結婚したんだ」と、ぼくは言った。
「あの地元の洋服屋さんと?」
「違う、また別のひと」
「違うの? あんなに好きだったのに」

 ぼくのまだ短かった人生だが、いつも、知り合いはそこにはいない側の人間の情報を引っ張り出し、ぼくに投げつけるようなことをした。ぼくは、そこから隠れるようなこともできず、ただ無防備にそれをぶつけられるままにした。
「ぼくには、初恋のひとが前にいて、そのひととした」
「お、センチメンタル。あんなに好きな人を放り投げて」
「彼女の方から別れを迫られた」
「それで? 納得したの?」
「東京に来なければならなかったし。もう、彼女は結婚して子どももいる」
「たくさん知ってるんだね。いまでも、興味が残ってるんだ」
「何年もいっしょにいたんだよ。興味だけじゃなく、責任もある」
「うそばっかり。興味だけでしょう?」
「相変わらず、口が悪いね」

 ぼくらは根本的に気が合うのだろう。また、同じ目標をもっていたので意見を交換しやすい立場にいた。それで、たまにあってそのような内容の話もしたが、最終的にはそれぞれのこころの秘密を暴きあうような結果になった。それが、ぼくには快適であり、また学生のころに戻れるような錯覚も与えてくれたので、喜ばしい時間にもなった。

 彼女は昔の面影を充分に残しており、いまだに社会人に成り切れていない様子もあったが、それでも、仕事でも優秀なようだった。その両面をぼくはくっつけることができずに、ただの同級生として接した。しかし、会話の最中に知らず知らず新しい情報を貰い、また刺激を受けそれで帰る間際になってようやく社会でも立派に活躍していることに気付くのだ。だが、時間があけば、もとの彼女の印象に戻ってしまった。

「学生時代の友人と試験会場であったよ」と最初の日に裕紀に言った。
「どんなひと? わたしが知らないひろし君のこと教えてくれるかな。大切なひと?」
「そうだね。会えば直ぐにあのときに戻れるんだから、大切なひとなんだろうね」
 そう言い、ぼくはあの時代の校舎や食堂や、ポプラの木などを思い出している。そこに裕紀はいなく、待っていてくれたのは、別の女性だった。ぼくらは、一年だけいっしょに大学に通った。そのときの女性が依然として、こころの中に位置を占めていることに気付く。

「あんなに好きだったのに?」と斉藤さんは言った。その量や重さを彼女はどう感じてそう発言したのか、ぼくはもっと訊きたかった。しかし、それは冗談と冗談の間に挟まって消え、訊くことはできなくなっていた。
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償いの書(31)

2011年03月05日 | 償いの書
償いの書(31)

 朝に目覚めると、そこには裕紀がいて、眠る前にも裕紀の存在を感じている。洗面所には女性用の品が増え、日常的につかう家庭的なものも、例えばお皿やフォークやスプーンなども実用一点張りのものからデザイン優先のものに変わっていったのだと思う。

 ぼくは、10代の後半から別の女性とずっと暮らしていた。大人になってからは一人で過ごした時間はわずかなものだった。それゆえにふたりの女性の生活上における似通った部分や差異な部分を自然と発見した。CDのラックにはぼくの知らないピアニストやオーケストラのものが並び、ぼくはそのジャケットを見るだけで、どのような音が流れるのか知ろうとした。しかし、当然だが、それは何も教えてくれなかった。ぼくが家に帰り、彼女は日常の雑事をしながら、それらの音楽を聴いていた。それで、ぼくは気になれば、そのジャケットを眺めたり、「誰?」と質問をして、その答えられた名前やグループ名を覚えていった。
 朝は大体、いっしょに出勤した。帰りは、あまり時間が合わず、それぞれが連絡を取り合い帰った。都合がつけば外食をしたりもしたが、家にいることの方が多くなった。ある日、その新居に妹と山下を呼んだ。

 妹は小さな子どもを抱き、その子に必要な品物を彼は太い腕で軽々と持ち上げていた。
「素敵な家ですね」と山下が言った。
「そういう仕事をしてるからね」とぼくはこの家を借りられたいきさつを話した。
 裕紀は自分で作った手料理をテーブルに並べ、その後は、それを口に運びもせずに、ずっと子どもを抱っこしたり話しかけたりしていた。それを皆で眺めながら、山下が、

「裕紀さんは、子どもが大好きなんですね」と言ったが、それに応じる時間も惜しいらしく、彼女はちょっと頷いただけだった。ぼくは、その代わりに彼女の子ども好きのエピソードを語り、それにつられて、山下も、「ひろしさんもずっと子どもにサッカーや運動を教えていたじゃないですか。早く、自分たちのができるといいですね」と言葉を述べた。

「そうだといいね」とぼくは曖昧に返事をする。そうなれば、いまのように裕紀は、その子に注目し続け、自分への愛情が軽減するのではないか、という子ども染みた嫉妬心が数パーセントだがあった。だが、実際にそうなればどう変わるかなど誰も分からなかった。

 子どもは、いつの間にか寝息を立て、彼女もあやすのを止めた。そして、テーブルに着き、こちらの話に加わった。といっても、子どもへの質問を相変わらず、妹にし続け、大人通しや自分中心の話にはあまりならなかった。

 少量のお酒がはいり、ぼくら全員は寛いでいった。そうなれば、こころの中に隠そうとしていたものが自然とでてこようと行き場を探しているようだった。山下はいつもの自論である、ぼくが裕紀を見捨てたことを、それなりに分かるように言った。そして、妹はその話を嫌がるような表情をして止めた。結果として、こうなった以上、もう深く掘り下げることを妹は嫌い、山下は肯定的な気持ちであろうが、それぞれの話の展開の仕方が違うだけなのだろう、とぼくもそれを恐れることなく受け入れた。ただ、裕紀はどう思っているかはよく分からない。ただ、自分の人生を疑いもせずに受け入れていくだけなのだろうか? もっと時間が経てばそれぞれの理解の度合いは増え、分かることがあるのかもしれない。それが来るまで、さまざまな問題を自分は放って置こうとした。

 時間も過ぎ、妹たちが帰らなければならない時刻になった。今度は、山下が子どもを軽々と持ち上げ、妹が荷物をもった。ぼくらは一階のエントランスまで行き、そこで彼ら3人を見送った。裕紀はとても名残惜しそうに彼らを見ていて、ぼくはその裕紀の横顔を見ていた。いまにも涙がこぼれ出すのではないかという、その大きな瞳を眺め、彼女が気付くまでずっとそうしていた。

 裕紀はそれから直ぐにシャワーを浴び、メイクを落とした顔ででてきた。ぼくは、その間にテーブルの後片付けをして、お皿やグラスを洗った。窓を少し開けて空気を入れ換え、新鮮なものを取り入れようとした。少しだけ頭痛がして、さらに窓を開けてベランダに出た。ぼくは、そこから見える景色が地元とは違うことを考えている。ぼくは、前のアパートで雪代が出勤する様子を見守ったことを思い出していた。あの頃は、いまよりまだ若く、可能性が限りなくあったようにも感じている。
「何してるの?」と、部屋から声がきこえた。

「地元にいたときの頃を思い出している」
「それで?」
「あっちの景色がなつかしいな、と思ってるよ」
「戻りたい?」
「もう、こっちに生活の基盤ができてしまってるよ」
「残念?」
「そういう訳でもないけど」その言葉はまた部屋に戻ろうとしたときに発した。彼女は髪を拭いている。それで、タオルで隠れた彼女の視線はぼくのことを探せないでいたので、思ったより大声でさらに質問した。
「向こうの会議にでることもあるんでしょう? あ、そこにいたの」

 ぼくは、脱衣所で洋服を脱ぎ、風呂場に入った。熱い湯はさまざまなものを洗い流してくれ、先ほどからの頭痛も軽減したようだった。ぼくは、裕紀が抱いていた妹の男の子と、雪代に抱かされた小さな女の子の重さを考えようとしている自分が洗い流されたたくさんの思いから残っていることに驚いている。
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