拒絶の歴史(47)
結局、後輩たちはその後も躍進をつづけ、全国大会に出場する切符を勝ち取った。ぼくは、誰ともその歓喜を共有せず、ひとりで喜びをかみ締めひとりで自宅で祝杯をあげた。
そのニュースは地元を離れていた雪代も知っており、ぼくが誰かと騒いでいると思って連絡をためらっていたようだが、家に電話をかけるとぼくが出て逆に少し驚いているようだった。
「どうしたの? 一緒にどこかで喜んでいると思っていた。それとも、これから?」
と訊いたが、ぼくは曖昧な返事だけを残した。多分、嫉妬と羨望の入り混じった思いがあり、素直に喜んでいるのも確かであったが、その栄光は自分にも訪れていいはずだ、とも考えていたのも事実であったのだろう。その自分のみにくさにも似た感情は、自分を小さくさせてしまう心配があった。
ぼくは前後不覚になるほど飲み、その勢いで自宅に電話をかけた。そこに出た妹は、ぼくという先輩が彼らと一緒に喜んでいない状態にあることを少しなじった。
「喜んでいないわけないだろう?」と言ったが、
「だったら、身体もそこにいて後輩たちになにかを語っても良いはずじゃないの?」と返答した。根底にある彼女の気持ちは、ぼくの評判が段々と下がっていくことを恐れていたのだろう。ぼくらは小さな町に存在しており、交友範囲からあぶれてしまうことを心配していた。だが、最終的にはずっと続いた幼少期からの愛情を、彼らは遠回りをしながらも、ぼくに対しても捨てきれずにいたのだろう。
いくらか喜びの気分は軽減したが、次の日にもまだ高揚した感情は残っていた。大学に行くと、何人もから「おめでとう」とぼくに訪れたわけではない幸運の言葉を発した。斉藤という同じ講義を受けている女性からも、
「良かったね。これをずっと待っていたんでしょう?」
と言われた。きっと半分以上は事実であり、ぼくの時代に来なかったことをいまだに悔やんでいたが、みながそう思っているなら最終的に自分も喜んでしまおうと考え始めた。自分に手柄のないことをそんなにも喜べるのかと考えていたが、段々とそれすらも忘れた。
夕方になり、バイト先でも同じような言葉を貰う。店長は、「お前たちのときの方が強かったと思うけど、勝敗というものはまた別の問題なのかね」という言葉を残し、ふらっとどこかにいつものように出掛けてしまった。彼も運動部のために用具を揃え、それを納品していた関係上、どこかでライバル同士をフェアに扱う感情を持っていたのかもしれない。
バイトを終え、この日は斉藤という大学の友達と食事をした。彼女は女性特有の好奇心をいつも持っていた。
「あまりラグビーのときの話をしないよね?」と言った。
「スポーツなんて、語るものではなく、行動するものだからね」と自分に都合の悪いことを先手に防ぐように、そんな言葉を選んだ。
「でも、もっと楽しそうに自分の過去を振り返ってもいいんじゃないの?」
「そうかもしれないね」本当にそうかもしれなかった。彼女は自分の言葉に興奮してきたように、その勢いを増していった。
「大体が、もっと自分のこころを開いてもいいと思うけど」
「そんなに閉じてる?」
「さあ、自分で考えてみれば」と食事に気を取られた彼女は、それ以上話す気もなくなったらしかった。
だが、彼女も大学の仲間たちもぼくに対して、前に交際していた相手のことは一切たずねようとはしなかった。雪代という存在もあったことだが、彼らこそぼくに対して一線をひいている感情をもっているのではないかと、ぼく自身は疑っていた。その問題がある以上、この考え方は常に平行線をたどっていた。
「今日はわたしに払わせて。おめでたい日なんだから」
ぼくは、この数日間をこのような言葉を浴びて過ごしていた。
結局、後輩たちはその後も躍進をつづけ、全国大会に出場する切符を勝ち取った。ぼくは、誰ともその歓喜を共有せず、ひとりで喜びをかみ締めひとりで自宅で祝杯をあげた。
そのニュースは地元を離れていた雪代も知っており、ぼくが誰かと騒いでいると思って連絡をためらっていたようだが、家に電話をかけるとぼくが出て逆に少し驚いているようだった。
「どうしたの? 一緒にどこかで喜んでいると思っていた。それとも、これから?」
と訊いたが、ぼくは曖昧な返事だけを残した。多分、嫉妬と羨望の入り混じった思いがあり、素直に喜んでいるのも確かであったが、その栄光は自分にも訪れていいはずだ、とも考えていたのも事実であったのだろう。その自分のみにくさにも似た感情は、自分を小さくさせてしまう心配があった。
ぼくは前後不覚になるほど飲み、その勢いで自宅に電話をかけた。そこに出た妹は、ぼくという先輩が彼らと一緒に喜んでいない状態にあることを少しなじった。
「喜んでいないわけないだろう?」と言ったが、
「だったら、身体もそこにいて後輩たちになにかを語っても良いはずじゃないの?」と返答した。根底にある彼女の気持ちは、ぼくの評判が段々と下がっていくことを恐れていたのだろう。ぼくらは小さな町に存在しており、交友範囲からあぶれてしまうことを心配していた。だが、最終的にはずっと続いた幼少期からの愛情を、彼らは遠回りをしながらも、ぼくに対しても捨てきれずにいたのだろう。
いくらか喜びの気分は軽減したが、次の日にもまだ高揚した感情は残っていた。大学に行くと、何人もから「おめでとう」とぼくに訪れたわけではない幸運の言葉を発した。斉藤という同じ講義を受けている女性からも、
「良かったね。これをずっと待っていたんでしょう?」
と言われた。きっと半分以上は事実であり、ぼくの時代に来なかったことをいまだに悔やんでいたが、みながそう思っているなら最終的に自分も喜んでしまおうと考え始めた。自分に手柄のないことをそんなにも喜べるのかと考えていたが、段々とそれすらも忘れた。
夕方になり、バイト先でも同じような言葉を貰う。店長は、「お前たちのときの方が強かったと思うけど、勝敗というものはまた別の問題なのかね」という言葉を残し、ふらっとどこかにいつものように出掛けてしまった。彼も運動部のために用具を揃え、それを納品していた関係上、どこかでライバル同士をフェアに扱う感情を持っていたのかもしれない。
バイトを終え、この日は斉藤という大学の友達と食事をした。彼女は女性特有の好奇心をいつも持っていた。
「あまりラグビーのときの話をしないよね?」と言った。
「スポーツなんて、語るものではなく、行動するものだからね」と自分に都合の悪いことを先手に防ぐように、そんな言葉を選んだ。
「でも、もっと楽しそうに自分の過去を振り返ってもいいんじゃないの?」
「そうかもしれないね」本当にそうかもしれなかった。彼女は自分の言葉に興奮してきたように、その勢いを増していった。
「大体が、もっと自分のこころを開いてもいいと思うけど」
「そんなに閉じてる?」
「さあ、自分で考えてみれば」と食事に気を取られた彼女は、それ以上話す気もなくなったらしかった。
だが、彼女も大学の仲間たちもぼくに対して、前に交際していた相手のことは一切たずねようとはしなかった。雪代という存在もあったことだが、彼らこそぼくに対して一線をひいている感情をもっているのではないかと、ぼく自身は疑っていた。その問題がある以上、この考え方は常に平行線をたどっていた。
「今日はわたしに払わせて。おめでたい日なんだから」
ぼくは、この数日間をこのような言葉を浴びて過ごしていた。