爪の先まで神経細やか

物語の連鎖
日常は「系列作品」から
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疲れた

2006年07月31日 | Weblog
パソコンの 前に座って 日が暮れて

眼も赤くなり 読書もせずに
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ごまかし

2006年07月27日 | Weblog
ブログ書き メールの返事 これ見てね
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あらま

2006年07月27日 | Weblog
久々の 証明写真 知らぬ顔
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歌姫

2006年07月24日 | Weblog
紅い花 紅いドレスの レディ・キム
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ラッシュ

2006年07月21日 | Weblog
駅通路 階段落ちる ハイヒール
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作品(4)-12

2006年07月15日 | 作品4
JFKへの道
12

 秋の高い空と乾いた空気が、博美の白いドレスを鮮やかに見せる。彼女は、輝いていた。そして、自分の妻になった。今日ばかりは、浴びるほどに酒を飲み、快活な少年の頃に戻った。たくさんの人に会い、おめでとうの言葉を言われた。
 いまは、空中の人になっている。窓から、白い雲が眼下に見える。昨日の酒で、重い身体とふさぎそうな目蓋を持っている。隣で、博美は眠っていた。その身体から、幸福感といつも使っている香水の混ざった匂いを発している。自分は、炭酸飲料を口にしている。もう自分個人の楽しみだけを最優先させる生活は、終わってしまったことに感傷を抱いていた。でも、誰もが通る道だろう? きっと。
 手荷物から手帳を取り出し、その内容を入念に調べた。長く滞在できるが、そこでも仕事をしなければならない。大事なプロジェクトのために会う人とも約束を取り付けている。直ぐにではないが数日楽しんだ後で、博美を一人にしなければならない時間が出来る。
 数時間して、目的の場所についた。ニュージーランドだ。いくつかの場所を抜け、荷物を取り、自由な人になる。すがすがしい空気。彼女は、旅行会社にいたので、コネをつかって旅慣れていた。面倒な仕組みも知っているので、いくらか手続き上も助かった。それと、頭の中に見るべき場所が、詰まっているらしく、着いてそうそう観光スポットを回った。自分は、ビールでも飲んで、のんびりしたかったが、それに付き合った。
 ランチを愉快に食べている彼女。食事の時間に人間の全存在が出てしまうような恐怖を持つ。たくさんのミーティングと称して、食事を共にする機会が多いが、しっくりいかない人とは、胃の奥がきゅっと縮こまるような感覚を持つことがあった。いまは、もちろんないが。
 一日を終え、ホテルに着いた。荷物を解き、ソファに寝そべった。夕食を食べる前にシャワーを浴びて、着替えようということになり、彼女が先に使った。はじめて、一人でものを考えられる時間ができた。何人かの女性の思い出。上手くいっている夫婦の姿。失敗した関係。だが、2人目の結婚相手と仲が良い友人の顔。60億の半分の存在。
 その時の自分の生きている範囲。そして、相応の年齢の異性。これらの中から選ばなければならない。たまたま与えられた自分の境遇。家族。これらに対して持つ責任。もっと、貧困が通常のことになっている国で生まれてきたかもしれない。政治上の動乱が、着慣れた服のように身にぴったりと張り付いている場所に、与えられたかもしれない自分の未来。変革に失敗してしまい、命を短いまま潰えてしまった、リーダーたち。どうしたのだろう? 普段は、こんなことを考えないのに。自分の身の回りの幸福に浸っている自分だったのに。博美のお祖父さんは政治を愛した。彼女が知っているお祖父さんのエピソードを聞くのが好きになっている最近の自分がいた。
 そして、彼女がシャワーを浴びて、紅潮した顔を覗かせる。下はバスローブをまとっていた。足の爪の色まで、きれいに見えた。
「終わったよ。どうぞ」
「うん。直ぐ入るよ」
「また、ビール飲んでる。わたしも一口いい?」
 彼女は、グラスに口をつける。自分は、考えている。どれぐらいの人間に、これまで会ってきたのか。またこれから、会うことができるのだろうか? もし仮にミラノやナポリに自分にぴったり合う異性がいないという保障がどこにあるのだろう。それらの地に育った人や、日本から移動している人かは別にしても。絶対的な証明はどこにも、ありはしない。ただ、可能性を打ち消してしまうだけ。さらに、自分は出会っていく人たちを幸福にできるのだろうか。父と同じように、持っている資産だけで尊敬を受ける人間になりたいと思っているのだろうか。いずれ答えを見つけられるといいが。
「お腹空いた。早く行こうよ」
「そうだね」と言って。バスルームに歩いていく。彼女の使った化粧品が並べられている。この小さな携帯用のビンの中に彼女の将来がつまっているのかな、とふと考えて、蛇口を回した。
(終)
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作品(4)-11

2006年07月13日 | 作品4
JFKへの道
11

 博美の小さな良心が、大きな罪悪感を抱き始めている。胸の奥に隠されている正義のこころが、悲鳴を上げ始めていた。
 博美の部屋にいた。雨の季節になり、その日も来る前は、肌に湿気を感じていた。だが、部屋の中は、静かに空調が働き、不快感とは程遠かった。彼女の選択で、ゴダールの白黒映画を見た後だった。彼女は、紅茶を飲んでいた。ぼくは、ゆっくりできるので冷えたビールを口にしていた。何もしたくない気だるい空気が流れていたときだ。彼女は、自分の過去の恋愛の話を洗いざらい語り出した。その恋愛が現在、座礁に乗り上げていることも、正直に言った。自分は、そのような真面目な話を聞く準備は出来ていなかったが、こころのどこかでいずれ近いうちに当面することは知っていたかもしれない。そして、彼女は、その先が見えない関係を清算しようとしていた。ぼくにも異存はなかった。
 話して、彼女はちょっと安心したようだ。そして、ほっとしていた。その微笑を浮かべた表情は、とてもきれいだったと認めなければならない。誰にも請求はされていないが。だが、彼女は少し泣いた。ぼくは、ハンカチを出して、それから軽く抱いた。
 
 部屋を出るときは、大雨に変わっていた。傘も役に立たないほどの量だった。急いで車に乗り、そこから逃げ出した。ワイパー越しに東京が見える。陳腐だが、光の洪水という感想を抱いた。そして、幻影のように、彼女の先刻の様子を思い出す。彼女は、ついに決心した。そして、前の彼氏に会いに出掛けて、きちんと話すそうだ。上手くいくのだろうか? その男性は、未練を感じるのだろうか。その天秤の一端を、自分が担っていることには抵抗があった。だが、そんなに女性の過去を考えることもなく、付き合うことなど不可能だ。大人の姿で急に生まれてくることも出来ない限り。
 家に着いた。こういう感情を持っているときは、深い音のするテナー・サックスがこころを落ち着けることが分かっている。そして、一人で飲みなおし、ベッドに横になった。だが、あっという間に朝を迎えた。土曜の昨日を終え、日曜の朝がやってきた。
 また、博美に会いに行く。彼女は、今日、その男性に会いに行く。自分は、どう言葉をかけてよいかも分からず、とにかく頑張れよ、と言って送り出した。彼女の車が遠去かる。その丸い車の輪郭が、小さくなっていくまで目で追った。
 その日は、学生時代からの友人に久し振りに遭い、夕方から飲みだした。その前にスポーツジムで多少身体を動かしたので、冷たい飲料がうまかった。この友人は、銀行にいる。まだ30前では、融通がきかない部分が多いので、自分の境遇を羨ましがった。しかし、自分も彼の実力だけで、世の中を渡っている姿を、羨望する。こつこつ力をつけて行き、妥当なプレッシャーとストレスを感じ、また、そこそこの達成感をつかめる彼の未来を、またともないほど美しくすら感じた。
 飲みながら、今夜はとても楽しく酔えたなと思っているが、こころのどこかに博美の一日を、同じように体験している自分が、宙ぶらりんの形でひっかかっていた。それを取り除くこともできなかった。
 もう少しだけ飲みたい気分だったが、電話がなった。深刻な顔になったのか、友人は明日も早いという理由で切り上げた。地下から、蒸す表に出て、彼女の声を真剣に聞いた。
「やっと、終わったよ」
「どうだった? 危ないことはなかった?」
「全然。とても優しかったし、紳士だった」
「そう。じゃあ安心だよ。ゆっくり帰っておいで」
 電話の声が、途切れた。それから、彼女の激しく泣く声が聞こえた。どうやっても、それを止めることなど無理に違いなかった。自分も、電話のこちら側で感情を共有した。だが、自分は手応えもなく彼女との関係を流れるままにしていたが、もうその流れを断ち切ることも、勢いを消すことも出来ないことは知っていた。もし可能ならば、昨日の彼女の話を聞く前の自分になり、まだ自由の感覚を持ち続けていたいような気もしたが、すべてがその暑い六月の夜の思い出に溶け込む。
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作品(4)-10

2006年07月12日 | 作品4
JFKへの道
10

 逃げるように仕事の中に、のめり込む。また、それにも飽きてくると、博美のうちに没入する。彼女の仕事も、入社してからそろそろ一年を迎える。それをお祝いして、23歳にしては、高目のレストランに行く。
 目の前に座っている彼女を、性格に検査する技術者の目を持って、見続ける。彼女の大きな瞳。高い鼻。そして、適度な薄さの唇。そこから発せられるなめらかな声。彼女のこころは、以前の恋人から離れつつある。自分も、ずるいけれどそれに対して追及したことがない。だから、今のところは、責任も多くは、発生していない。ただ、時間が空いたときに、会う機会は、次第に増えて回数も多くなっているのは事実だが。
 その彼女の声を、また楽しい会話をしながらも、本当に望んでいる女性と出会っているのか、それともこれからその出会いを待つことが自然なのか、と相変わらず優柔不断さも失ってはいなかった。彼女は、この前聴いたマーラーという作曲家について話す。その音楽の美しさに魅了されていることが、ひしひしと伝わってきた。また、その音楽を使った、ヴィスコンティという映画監督のことも。今度、彼女の部屋で一緒に見る約束をさせられた。
 2時間ばかりの食事の時間があっという間に過ぎ、彼女を送る。段々と彼女の気持ちが、自分に傾いているのに気付くが、それを悟られないようにしている。なぜだろう? 自分は、なにを恐れているのだろう。一対一の融通の利かなさか。あるいは、女性の気持ちを、もう踏みにじることは出来ないという考えか。一人になって、車の中で思い巡らしている。彼女は、何らかの言葉や態度を待っている。行動を望んでいる。自分は、それに少し距離を置いている。まるで、主人公は、別の場所にいるとでもいうように。

 また、会社での朝を迎えている。加藤も、それなりの地位を必要としてきた。いままでの雑用から救済しなければならない。自分も新しい、働き者を見つけなければならなくなってきた。加藤以上に、出来る人間などいるのだろうか。だが、頭の片隅に考えを蓄えておくと、ある日、それに合致することが現実になるのも、不思議と事実だ。安らぎを必要としているときに、たまたま貰った音楽のCDに、その答えが見つかったり。仕事の発展には、こういうバイタリティのある人間が不可欠だと思ったときには、部下が連れてきたり。その何らかの助けの出所は、どこにあるのだろう。頭の中か。もっと大きな力か。
「考えごとですか?」加藤が入ってきた。
「いや、いいよ」
「この前の製品が出来上がりまして、その発表会にあのタレントが呼べましたので、お知らせしようと」
 ある女性タレント。自分は関心がないが、女子社員へのアンケートで、この人が向いているという答えが多かった。その意見をそのまま受け入れ、自分は口を挟まなかった。会社の動向に、そう多くの影響を与えることもない事業なので、加藤に任せきりになっていた。そして、見事に順調過ぎるほどマスコミ方面にたいして成果を上げていた。父もそれに対して関心を持っていた。加藤の存在も、父の耳に入り、愛情を受けつつある。彼は、何事も成功が好きなので。その匂いにとても敏感な嗅覚を持っている。このような才能を、見つけた自分にもいくらかおこぼれ的ではあるが、注意を向けた。だが、当然の如く、父は加藤を引き抜こうとする。自分の事業で上手く行っていない部門があるが、それに加藤を使おうとしている。もっと、新しい今後伸びそうなプロジェクトに使ったほうが有効だとも思ったが、口にはしなかった。こうして、加藤が去ることが決まっていく。加藤も、父のことを遠くから見て畏敬していた。この辺で、自分の後輩という立場からも離れて、成長した姿も、自分は見たくなってきた。彼なら、見事に役立つ成果を挙げるだろう。5月になり、加藤は去った。そこで空いた位置に、以前から目をつけていた部下をあてがった。まだ26歳で、たくさん覚えなければならないことがあるが、音をあげないといいがと思う。その彼が部屋に入ってくる。自分の評価が判断できない顔をしている。最初は、誰でもそうさと緊張を解く言葉をかけて肩に触れる。その気安さにも驚いた表情をした。こちらは彼の服の生地を確かめた。
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作品(4)-9

2006年07月10日 | 作品4
JFKへの道


 となりの部屋の電源の不調で、オフィス内のパソコンのデータが一部消えてしまっていた。職場の全員が退き上がった後、何事もなかったようにコンピューターに向かっている。多少、焦っている気持ちはあるが。頭を抱えながらも、あれこれ考える。もし、失敗する要素がほんの少しでもあるなら、やはり、まぐれを求めずに颯爽と失敗したい、という気持ち。あきらめを含んでいるが、それが人生だとも思う。などと考えながらもキーボードを打ち込んでいる。
 父親が、経済誌で語っていること。それは、いつも先回りしろ、ということだった。彼の主張は、遅れて完全なものを見せるぐらいなら、いくらかでも早く見せ、そのインパクトで驚いている間に完成品に持ち込め、という主義だった。そうして、数々のヒットをものにした。今までは、そうでも良かったかもしれないが、現在でも、その主張が通用するかは分からない。

 10時から4時間ぐらいかけて、大事なデータを取り戻せた。加藤は、出張中だ。その所為か、仕事のはかどり具合も落ち込んでいる。当然のように前もって出来ることは、すべて片付けてくれてはいたが。ディスプレーを消し、ロッカーからコートを取り、地下の駐車場まで行った。そこは、めっぽう寒かった。警備員に軽く会釈し、こんなに遅くまで残ることも少ないので、向こうの驚く顔を確認し、車を出した。
 道は空いていた。思っていたより早く家に着いた。そして、シャワーを浴び、頭を乾かし、直ぐベッドの中の人になった。

 その次の日は、仕事を終えた後にある集まりに行った。今後のコネを見つけるためにも出ておこうと思ったものだ。そこへ、以前の恋人の安美の姿もあった。遠目で見ている時には、似ている人もいるな、と感じていただけだが、トイレに行き出てくるとばったり彼女が前にいた。
「ああ、びっくりした。久し振り、元気?」彼女の髪は、覚えている頃より、伸びていた。そのウエーブのかかった髪の奥から、可愛い目をこちらに向け、話しかけた。
「元気だよ。どうしている?」
 近況を語ったり、聞かされているうちに、彼女は、「わたし、結婚することになった」と言った。自分は、直ぐに返答ができなかった。でも、自然さを装って、
「おめでとう。よかったね。それで、どんなヤツ?」と聞いた。
「言っても、分からないと思うよ」
 その後も、少し会話したが、またそれぞれお客の一人になって、部屋の中でバラバラになった。自分は、少し酔ったかもしれなかった。彼女の存在が、やはり大きかったこと認めないわけにはいかない。そして、あの時の煮え切らない態度も、思い出した。
 その場をあとにする。外は寒い上に、雨も自分の登場を待っていたように、ちょうど良いタイミングで降ってきた。電話を見て、安美の番号が入っていることを確認して、かけてみようか悩んだ。だが、躊躇して、すぐにメモリーを消した。もうこれで、彼女の存在もなくなった、と思い込んで。だが、そう一緒にすごした月日を簡単に追いやることは出来ない。
 気がついたら、コートも濡れるのも構わず、かなり歩いていた。自分を責めるように。だが、これも自分の優しさの欠如を埋め合わすことの代償とは思えない。自分は、欠陥の多い人間なのだ。人の痛みなど気にせず生きている生物なのだ。後ろから、クラクションの音が鳴り、身体は除けたが、跳ねた水がプレスのきいたズボンにかかった。
 家の鍵を空けるのに手惑い、犬が小さく鳴いた。それで安心し、座り込んで靴を脱ぎ、コートを投げ出し、ベッドに倒れこんだ。人生は、生きるほどに完成に近づいていくのだろうか? 立派な人間と見られるよう努力をしているが、誰かの胸に幸せを押し込むことができているだろうか? 自分も経済的に繁栄はしているが、薄っぺらな人形ではないのか、と小さい声で言ってみたが、気がつくと深い眠りの住人になっていた。夜中に目を覚まし、冷えた水を飲んで、再び眠りに戻ろうと懸命な努力をしたが、安美との思い出が自分を苦しめた。それを、もう取り戻せないと考えると、大人になるってことは、そんなに楽しくないことだな、と心のうちで決め付けた。
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まさかね

2006年07月10日 | Weblog
青い胸 頭で突いて 去るジダン

ほんとうは、見る前、こんなふうに書きたかった。

スパイクを 脱いだジダンの 勇姿かな
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睡魔

2006年07月09日 | Weblog
マーラーの アダージョ夏の 昼下がり
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作品(4)-8

2006年07月07日 | 作品4
JFKへの道


 冬の風が、ビルとビルの間を通り過ぎるたびに、冷たさを増して行く。ぼくは、コートの襟を掴んで、無理に賑わいを見せようとしている街の中を歩いている。今年の最後の仕事の日。無事に過ぎた一年。
 自分への記念として、デパートの中に入っている店の並べられた時計を見ている。気になっていたものがあった。また念入りに見て、感触を確かめ、時計の裏の音を聴いた。これにしようと決める。それと同時に女性用のも覗き込む。もしデザインが良いのがあれば購入しようと思う。去年は安美に買った。彼女の細い手首に、とても映えていた。いくつか気になったのを通り越し、一つのものに注意を向ける。なんだ、博美に合いそうなのは、こんな形と色ではないか、と簡単に答えが見つかる。店員に頼み、それは丁寧に包装してもらった。もし無駄になっても、妹にでもあげれば良いと、あきらめの気持ちを含んで。

 荷物が出来、また寒空に出る。今日で仕事が最後のためか、酔った足取りの男性二人組みが、横を通った。自分もあんな風に誰彼なく歩けたら、幸せだったかなとも思う。そこで空車のタクシーが見つかったので、思考も止め、車中の人になった。明日から南半球で太陽を感じられる。と別の思考に移行した。

 そして、ビーチで日差しを感じている。眩しすぎる光線にまだ目が慣れていない。そこで目をつぶり、さまざまなことを思い浮かべては消す。だが、一つのところに落ち着く。あれは、まだ15歳ぐらいのことだろうか。もし、29歳と半分ほど経ったときに、一番気になっている人がいたら、その人と一生暮らそうという考え。その自分個人の約束事に、年を経るごとに段々縛られて行き、束縛されても来た。もう少しで、自分はそこにたどり着く。仮に、長い月日を費やした女性がいたとしても、自分がそう決めたことの方が大事に思えてくる。その馬鹿げた考えに焦点を合わせていたが、自然と眠ってしまい、気がついたら、足元まで波が近寄ってきていた。日焼けしすぎに注意を払い、起き上がってそのビーチの横の日陰で、冷たいカクテルを頼んだ。
 夜は、すべてが遊びではなかった。地元の会社の経営者と食事をする。プロジェクトの打ち合わせも兼ねた会合。今日は、こちら側は一人だが、遅れて、我が社からもやって来る。その前に、親しい関係を作っておいて、話がスムーズに進展するよう、気をつかった。それもかなりの力を入れて。その甲斐があってか、和やかな時が流れた。ホテルまで、送ってくれるのを断り、一人で見知らぬ土地を歩いた。外国に来ると、とても危険でない限り、よくそうする。自分の価値を、高めも低めもできない土地を利用して、自分の存在をリセットしたくなる。

 そして、年が明け、また以前の服装に戻る。ちょっとだけ黒くなった顔に変わったが。一月も半月ほど過ぎ、そして自分が決めた29歳半になってしまった。会いたい人を考えてみる。以前の自分は、当然安美とその瞬間を迎えると思っていた。なぜ、ああも自分は冷たくなれるのか。答えが出るわけもなく、見つけたいとも思っていない。そして、博美のことを考える。考えた後は、電話をかけた。
 待ち合わせ場所に早めに着いた。思いがけなく目の前に着物姿の博美が現れた。会社で、とても大事な催しがあり、そこへ出た帰りだという。自分は、パンツ姿の女性が好きだが、このように突然、違う服装で出会うと、新鮮であると同時に嬉しい気持ちも自然と浮かび上がる。自分は、コートのポケットから、去年買った時計を渡す。似合うと良いけど、という言葉を付け加え。
 ある店に入る。彼女はトイレに行く。戻って来た時は、新しい時計をつけていた。
「着物だと、しっくりするか分からないけど。嬉しい。ありがとう」
「喜んでもらえれば、充分だよ」
 彼女の測りは、どれほど離れた彼に傾いているかは分からない。だが、困ったときに直ぐに視線を感じ、話を聞いてくれる人間に、心というものは馴染んでいくのではないのか。でも、今なら自分も傷を受けずに、あきらめられるよな、と安心している。
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オーマイ耳

2006年07月07日 | Weblog
アイス食う? 聞き間違えて ハイスクール
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作品(4)-7

2006年07月06日 | 作品4
JFKへの道


 そして何度か会ううちに、博美から電話がかかってくるようになる。それが自然の成り行きとでもいうように。自分も時間を見つけては、食事をするぐらいまではした。だが、心底仕事が忙しいときでもあったので、断ることも多かった。もう一つの理由としては、誰か一人と真剣につきあうこととは、ちょっと距離を置こうと考えていたときでもある。しかし、そう深い決意でもなかった。
 彼女には、少しばかり離れた場所に交際相手がいたらしい。こちらから聞いた訳でもないのに、自分から話してきた。そして、そのことが淋しいとも言った。もちろん理解できることだが、どう満足いく答えが出来るかもわからないし、実際に正確な解答が欲しいばかりでもないらしいので、そのまま聞いていた。時には、眉間にしわを寄せ、また、さり気なく微笑みながら。
「すいません。つまらない話ばかりして」
「全然。ためになるし、誰かに打ち明けることは、とても重要だよね」
 半分は本当でもあり、また半分は、脚色されているかもしれない。

 ちょうど秋を迎えていた。彼女を誘い、都会から遠く離れ森の中にドライブに行く。樹木は色づき、残りの人生を燃焼させようとしているように、いさぎよく映る。冬になるまえに燃え尽きてしまうよ、と宣言しているかの如く。
 太い木で作られているレストランに入る。彼女は、こういう場所に夢中になっている。話しを聞くと、小さな頃に父親をなくしたためなのか、男性と偉大な自然の中に溶け込むのが、好きなのだそうだ。そう話しながらも、食欲もかなりあった。空気がおいしいためか、すべてが新鮮な感じで喉を通る。そこで、思いがけないことを知る。その幼いときに失くした父のまた父、彼女の祖父は、政治家であった。もう既にその祖父もいないが、自分はその関係に強く興味をひかれた。何か役立つことがあるかもしれない。才能がある人も知っているが、どう転んでも金銭に転化、変換できない部類の人たちがいる。それは、とても不幸で仕様がないことかもしれないが、どうしても自分はそうはなりたくなかった。その状態になってもいないが、今後も決然と別れを告げたい。

 森の中を歩く。足の裏に感じる冬の気配。地面に葉っぱが敷き詰められ、視野の中には暖色でいっぱいだった。彼女はふざける。大きな樹の陰に隠れて、自分からは見えなくなる。その一瞬、彼女を失うことが恐ろしくなっていた。彼女ではないのかもしれない。なにか愛の対象を消すことへの深い悲しみがあった。その数秒の出来事で、自分の心の中の何かが揺らいでしまった。そこへ、彼女が、樹から首だけ出す。
「どうしたの?」全身を現した博美が言った。
「急にいなくなったんで、心配したよ」
「ここからいなくなれる訳、ないじゃない」
 そして、また歩く。聴きなれない鳥の鳴き声がする。それをきっかけに耳を澄ますと、さまざまな音が一辺に耳に飛び込んで来る気がした。涼しさを通り越して、寒い空気が服の隙間から、忍び込もうとしている。彼女の顔の皮膚も、その冷たさで紅潮している。その鼻がとても可愛かった。
「そろそろ、戻ろうか?」彼女の軽くうなずいた返事を待ち、東京に戻っていく。博美は一人暮らしをしていた。到着して、彼女はドアを開けて、出て行く。でも、直ぐに首だけ車内に入れ、今日はありがとう、と自然な口調で言った。また、電話をしてもいいですかとも。それを断る理由がどこにあるだろうか。
 車内には、彼女の匂いがある。博美もぼくのことを考えているだろうか。場所が離れているが、恋人がいる。そのことを触れもしない自分。出来れば、そのままでいてほしいとも思っている。要求が恐かった。だが、自分も父と同じように、経済の分野での成功に価値を置いているのかと考える。もっと、有用な力が欲しいとも考えている。その時に、彼女の存在が大きく化けるなにかを秘めているかもしれない。週末も終わってしまう。また、月曜の朝だ。その日の会議で話すことに焦点を移し、むりやり、彼女のイメージを押し退けた。そこで、車内の音楽が終わってしまい、そのまま無音で家まで帰った。
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作品(4)-6

2006年07月05日 | 作品4
JFKへの道


 妹が留学先から帰ってきた。語学と、芸術の勉強を兼ねてフランスに行っている。一緒に育ってきたので分かるが、彼女に創作の才能があるとは思っていない。父はまた別の考えもあるらしいが。芸術を生み出す能力を持っている人間なんか、ほんの一握りである。その手の才能を持っている人物を発見するのは、大きな空き地に手がかりもなく失くしたコンタクトレンズを探すようなものである。しかし、妹の知り合いにでも、また知り合いの知り合いぐらいの中にでも、それらの光り輝くものを持っている人間がいたら、それは成功だと思っている。
 こういう具合なので自分は、妹に芸術の歴史をきちんと勉強してもらいたいと願っていた。彼女も、一定期間が過ぎ、自分の力の限界をわきまえてもらい、はやくそうした道に進んでもらいたい。でも、面と向かって話せば、もちろんそれらの結論は話しづらいこともあり、また自分できちんとけじめをつけないと、人からどうアドバイスを受けても、変わらない頑固さも彼女は備えていた。

 久々に家で会った。子供のときからよく泣く子だったので照れ臭いものである。いまも妹の目の中には涙の気配がある。空けてある自分の部屋に戻って、荷物を整理しおえて一段落すると、妹がぼくの部屋に入ってきた。
「どう、仕事? お父さんとは相変わらず」
「ああ、今はもう職場では会わないよ。親父とは違うところにいるので」
「そうだったよね。これ見て、ルームメートの元彼氏。日本人なんだけど、絵を描いているの。上手いと思わない」
 彼女の手のひらにのっているルームメートを描いたスケッチ。とてもしっかりしていた。
「そうだね。まだ若いのかな?」
「あまり良く分からない。30前後だと思うよ。日本にいるらしいから気になったら探してみて、電話番号はこれ。まだ支援する人、発掘中なんでしょう?」
 うちは、芸術の援助に力を入れている。父もそうなので、自分もこれといった人間を探す努力はしている。分野は問わないが、なかなか見当がつかないのも事実だった。

 妹が短い滞在を満喫するため、いろいろな場所で買い物をしたり、食事をしたりするのに時間が許す限りつきあった。いつも手には大きな荷物を抱え、車の後部座席に無造作にねじこんだ。とくに妹は両親からも溺愛され、逆にそのことが理由で高校生のときなどは、いささか反抗的になったりもした。自分は、とても同じことが出来るとは思ってもいなかった。だが、結局現在でもそうした期間がなかった所為なのか、両親ともいくらか距離を置く生活を送ってきた。
 まだ一週間ぐらい残っているので、きちんとした会話を、今後の自分の仕事のことや、妹の近い未来や遠い目標なども聞かないままだったが、突然、フランスで同居している友人が病気になってしまい、妹も心配のため、急遽戻ることになった。帰りのチケットもあったが、直ぐに手配しなければならなくなった。だが、夏休みの真っ最中で、上手く進展せず、なかなか予約が取れなかった。自分はあれこれと考え、以前会った画家の娘のことを思い出した。そうだ、旅行関係の会社に勤めているとのことだった。まだ新入社員で、どれほどの裁量を有しているのかは知らないが、一応電話をかけてみた。用件を話し、20分ほど経って、折り返し連絡があった。なんとかなるそうだ。今夜、二人の都合の良い時間に受け取りに行くことになった。
 女性は、と考える。なぜ、ちょっとぐらい無理な要求をされても飲んでしまうのだろう。自分はそれを知っていたのではないか? 後輩の加藤に頼めば、寸時に完璧な答えを持ってくるだろう。だが、自分はそうはしなかった。なにか、きっかけを必要としていた。それには、一番よい方法だったかもしれない。
 そして、妹にも感謝された。博美という名前の旅行会社の彼女にも、借りが出来たといって、次回に会う必要が作れた。妹は、旅立った。残してくれた絵を見る。もう少し判断を先に延ばした方が良い、という心の声がして、それを結論にする。もう一度ぐらい妹に催促されたら、あらためて考えても良いと思った。慌ただしい3週間が過ぎた。
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