爪の先まで神経細やか

物語の連鎖
日常は「系列作品」から
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ジーンズを買いに

2022年08月19日 | Weblog
もう学校に通っていない。

劣等感もないが、それを補うように無数に本を読む。

17歳。1986年。

町屋で乗り換え、表参道で降りる。

古着屋とアンティークショップ(値打ちのある骨董品ではなくアメリカの大衆雑貨)を巡り、渋谷から帰ってくる。

ハウスマヌカンという名称があり、彼女らの眉は太かった。

アンニュイという言葉が健康的な女性というのを凌駕する。

しかし、そんなことはない。

表参道で地下から地上に出る。

森英恵ビルがあった。

一生、入らないお店だが、その存在は知っている。

あの頃の、勢いのあった日本ももうない。

サイズの合う、良い感じに色落ちしたジーンズを買う。

その頃の、ぼくの制服。

コカ・コーラとリーバイス。

会社名であり、若さの特権的ななにかでもある。

タワーレコードの黄色い袋と輸入盤の匂い。あの長細い箱。あれは、翌年以降か。

空は、なぜか晴れている。

取り戻せないなにかでもあり、本のなかに書かれていたような過去の記憶でもある。それをパッケージしたものが青春と呼べそうなものかもしれない。

最後の晩酌

2022年08月14日 | Weblog
見知らぬひとから友人になる途中、空いた時間があると、いわゆる「最後の晩餐」を訊ねる。

本心を知りたいわけでもなく、空白の時間を埋めるべく、会話の導入を質問という形にしたもの。

しかし、お酒というものに傾きがちな自分が、なぜ、「最後の晩酌」というお題を持ち出さなかったのか、いまになって理解ができない。

さて、どんなものがいいのだろう。

それは、酒の種類や量ということではなく、場所や空気感や日射しや昼や夜など、さまざまな背景が影響されるだろう。

南国のホテルからビーチを見下ろし、ソルティドッグみたいな冷えたものを。

イタリアのあまり有名でもなく、きれいでもない店で、ソフィア・ローレンみたいな引力に反発する凹凸ある服の中身を想像させる方の給仕を受けながら、赤いワインを飲んだり。

いまは、トップの力量をもたないサッカー選手のそれでも頑張る雄姿を見ながら大きなジョッキでビールを飲んだり。

大きな波が打ち寄せるのを室内で鑑賞しながら、鋭い味覚を感じる日本酒を選んでみたり。

秋が店じまいするころ、どこかの小さな店でためにならないラジオを聞きながらおでんでぬるめのコップ酒で手を温めたり。

ひとりでの妄想という頭のなかの会話。

そう考えるだけで、答えも得ないまま、なにか飲めそうである。

最後は点滴になるであろう、という未来を予測できる若者でもない自分の実感。

情景描写大会。

最後というより、経過とか未来が見えてしまう。

明日への英気という観点があるものなので、致し方ない。

この最高の一杯のシチュエーションというお題としての落第。