仮の包装(10)
試しに実家に電話をかけてみると、ぼくの荷物が運送業者によって運ばれてきたらしい。良枝はしびれを切らして実家に帰った。処分も考えたそうだが、結局、何度か行ったことのあるぼくの実家に荷物を送った。その費用を母は良枝の実家に為替かなにかで送ったそうだ。ぼくはこうして帰るところがなくなった。望んでいたことだし、覚悟もできていたのだが、なんだか淋しいものだった。淋しさなんてものも、自分勝手にできている。
ぼくは給料をもらってから隣の大きな町に靴を選びに来ている。横にはももこがいた。彼女と映画を見る予定もあった。
「信頼しているからな」とその前に漁師に言われた。そう宣言されてしまえば裏切ることもなかなかむずかしい。自分の身体が魚くさい気もする。杞憂に過ぎないのだが、世の中のものは、すべてそのような範疇にあるものでもあった。
ぼくは種類の違うものを何足か履き、気に入ったもののサイズが違うものにもいくつか足を通した。結局、ひとつの荷物ができる。それをぶらぶら持ち、飲食店を探した。選択というものも限られている。ぼくはピラフを食べて、ももこはグラタンを選んだ。ぼくはグラスの赤いワインを飲み干す。自由という概念の顕在化という気むずかしいことを考えている。それでいて気持ちは、満点の自由だった。
「お父さんになにか言われた?」
「時間通りに帰してくれだって」
「そんなこと。子どもじゃあるまいし」と言ってすこしふくれる。
ぼくは、自分の立場を思い返す。時間通りに帰ることもなく、ここで根なし草のように働いている。だが、よくよく考えればこれも根のひとつだった。根を張り、幹が太くなって大木となる。まだまだ水を注いでいるような状況だが。
映画館で料金を払う。ひとは暗いなかで他人の人生の一端にまぎれ込む。それはぼくが主人公で、ももこがヒロインのようでもあった。ぼくは良枝という存在を忘れていない。だが、鮮明という観点がほどけ、どことなくぼやけていく。さきほどのワインの酔いなのか、最後は眠気と戦うことになる。
外に出ると少しだけ排気ガスのにおいがした。海のにおいではないという事実だけで歓迎だった。会話が次第に先細っていく。
「門限とか、あるの?」
「あるとは思うけど、きょうは親も安心しているから、遅れてもそんなに怒られないよ」
ぼくは、女性とそういう関係になったのは随分とむかしのようだった。かといって用件を遂行できるような場所も探せずにいた。
試しに実家に電話をかけてみると、ぼくの荷物が運送業者によって運ばれてきたらしい。良枝はしびれを切らして実家に帰った。処分も考えたそうだが、結局、何度か行ったことのあるぼくの実家に荷物を送った。その費用を母は良枝の実家に為替かなにかで送ったそうだ。ぼくはこうして帰るところがなくなった。望んでいたことだし、覚悟もできていたのだが、なんだか淋しいものだった。淋しさなんてものも、自分勝手にできている。
ぼくは給料をもらってから隣の大きな町に靴を選びに来ている。横にはももこがいた。彼女と映画を見る予定もあった。
「信頼しているからな」とその前に漁師に言われた。そう宣言されてしまえば裏切ることもなかなかむずかしい。自分の身体が魚くさい気もする。杞憂に過ぎないのだが、世の中のものは、すべてそのような範疇にあるものでもあった。
ぼくは種類の違うものを何足か履き、気に入ったもののサイズが違うものにもいくつか足を通した。結局、ひとつの荷物ができる。それをぶらぶら持ち、飲食店を探した。選択というものも限られている。ぼくはピラフを食べて、ももこはグラタンを選んだ。ぼくはグラスの赤いワインを飲み干す。自由という概念の顕在化という気むずかしいことを考えている。それでいて気持ちは、満点の自由だった。
「お父さんになにか言われた?」
「時間通りに帰してくれだって」
「そんなこと。子どもじゃあるまいし」と言ってすこしふくれる。
ぼくは、自分の立場を思い返す。時間通りに帰ることもなく、ここで根なし草のように働いている。だが、よくよく考えればこれも根のひとつだった。根を張り、幹が太くなって大木となる。まだまだ水を注いでいるような状況だが。
映画館で料金を払う。ひとは暗いなかで他人の人生の一端にまぎれ込む。それはぼくが主人公で、ももこがヒロインのようでもあった。ぼくは良枝という存在を忘れていない。だが、鮮明という観点がほどけ、どことなくぼやけていく。さきほどのワインの酔いなのか、最後は眠気と戦うことになる。
外に出ると少しだけ排気ガスのにおいがした。海のにおいではないという事実だけで歓迎だった。会話が次第に先細っていく。
「門限とか、あるの?」
「あるとは思うけど、きょうは親も安心しているから、遅れてもそんなに怒られないよ」
ぼくは、女性とそういう関係になったのは随分とむかしのようだった。かといって用件を遂行できるような場所も探せずにいた。