リマインドと想起の不一致(24)
学校の行事でバスに乗って筑波に向かっている。クラスは八割方が男性だった。のこり二割がスカートを履いている。ぼくは何らかの対象として彼女らを見ていない。おそらく自分も対象としても見られていない。自由というものは淋しいものだった。
休憩のサービス・エリアで空腹を満たす。数ヵ月前にこの同じ場所に向かったが、中学生が途中で小遣いを使うことなど許されなかった。自由というのは、この場では素晴らしいものであり、無限の乗車券のようでもあった。つまりは土台として、満腹という状態に永続性がなく、一瞬も保てない年頃だったのだ。
広い部屋に数十人で寝る。その前に無数の会話が繰り広げられる。主に女性たちについてのことだった。年金の心配もなく、原油の値段もぼくらには無関係なのだ。恋せよ、青年たちよ!
征服という限定的な対象として女性を考えているものもいた。数が多いということが、その星取り表では正義だった。まだゼロというものも、もちろん多くいたはずだが検証はできない。ぼくも彼らに訊かれる。好奇心なのか、やっかみなのか判断できないが。
「まだだよ」
「彼女は?」
「いることはいるけど…」
「お願いしてみれば?」友人は、見返りとしての駄賃をもらうという感じで言った。
「まあ、時間があえば」ぼくの返事はあいまいだ。このままにしていれば、一回目の結果報告をたずねられる危険性もあった。だが、その時はどうにかなるだろう。歴史をつぶさに検証する年代でもないのだ。
電話もせず、お互いの用事で前より会う時間が確実に減る。散歩を待ちわびる犬のような気持ちになる。「次、いつ外に連れ出してくれるのだろう?」そんな感じでぼくは見知らぬ土地のなじめない布団に入っていた。はっきりとした違和感もこだわりもなかったのか、間もなく寝てしまう。そして、空腹をかかえて朝を迎える。
ぼくは親密になることを拒む傾向があることを知る。同時に無条件に受け入れられたいという気持ちも芯にあった。ロボットでもない普通の青年の感情だ。自分は今まで周囲の環境に恵まれていたことに、この朝、納豆を掻きまわしながら気付いた。恵まれ過ぎていたのだ。
帰りのバスの中で窓の外を見ている。夜はネオンの時間だ。費やされるエネルギーが町を分け隔てなく照らす。ぼくはウトウトする。目が覚めて、ひじりの電話番号を頭に浮かべる。その七つを足したり引いたりして導き出す数字を神聖な暗示のように考える。
家に着き、汚れた衣服を洗濯機に放り込んだ。まだ一度も自分で洗濯したこともない。雨が急に降って、取り込んだ時は数回あった。
世界中で洗濯物が干されている。黄色いハンカチもあるだろう。ぼくはひじりに電話をしようとしたが、いつの間にか眠ってしまう。急を要するという範疇に、もう電話はいなかった。
学校の行事でバスに乗って筑波に向かっている。クラスは八割方が男性だった。のこり二割がスカートを履いている。ぼくは何らかの対象として彼女らを見ていない。おそらく自分も対象としても見られていない。自由というものは淋しいものだった。
休憩のサービス・エリアで空腹を満たす。数ヵ月前にこの同じ場所に向かったが、中学生が途中で小遣いを使うことなど許されなかった。自由というのは、この場では素晴らしいものであり、無限の乗車券のようでもあった。つまりは土台として、満腹という状態に永続性がなく、一瞬も保てない年頃だったのだ。
広い部屋に数十人で寝る。その前に無数の会話が繰り広げられる。主に女性たちについてのことだった。年金の心配もなく、原油の値段もぼくらには無関係なのだ。恋せよ、青年たちよ!
征服という限定的な対象として女性を考えているものもいた。数が多いということが、その星取り表では正義だった。まだゼロというものも、もちろん多くいたはずだが検証はできない。ぼくも彼らに訊かれる。好奇心なのか、やっかみなのか判断できないが。
「まだだよ」
「彼女は?」
「いることはいるけど…」
「お願いしてみれば?」友人は、見返りとしての駄賃をもらうという感じで言った。
「まあ、時間があえば」ぼくの返事はあいまいだ。このままにしていれば、一回目の結果報告をたずねられる危険性もあった。だが、その時はどうにかなるだろう。歴史をつぶさに検証する年代でもないのだ。
電話もせず、お互いの用事で前より会う時間が確実に減る。散歩を待ちわびる犬のような気持ちになる。「次、いつ外に連れ出してくれるのだろう?」そんな感じでぼくは見知らぬ土地のなじめない布団に入っていた。はっきりとした違和感もこだわりもなかったのか、間もなく寝てしまう。そして、空腹をかかえて朝を迎える。
ぼくは親密になることを拒む傾向があることを知る。同時に無条件に受け入れられたいという気持ちも芯にあった。ロボットでもない普通の青年の感情だ。自分は今まで周囲の環境に恵まれていたことに、この朝、納豆を掻きまわしながら気付いた。恵まれ過ぎていたのだ。
帰りのバスの中で窓の外を見ている。夜はネオンの時間だ。費やされるエネルギーが町を分け隔てなく照らす。ぼくはウトウトする。目が覚めて、ひじりの電話番号を頭に浮かべる。その七つを足したり引いたりして導き出す数字を神聖な暗示のように考える。
家に着き、汚れた衣服を洗濯機に放り込んだ。まだ一度も自分で洗濯したこともない。雨が急に降って、取り込んだ時は数回あった。
世界中で洗濯物が干されている。黄色いハンカチもあるだろう。ぼくはひじりに電話をしようとしたが、いつの間にか眠ってしまう。急を要するという範疇に、もう電話はいなかった。