JFKへの道
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しばらく経って部屋に入り、音楽をかけた。フランス人の女性歌手が歌う懐かしいポップスが、その日の気持ちには会っていた。そして、ベッドに寝そべりながら、今夜の予定について考えてみた。自分の父親が、芸術の援助にも力を入れていて、ある集いに出席しなければならなかった。いくらか気が重かった。うんちくや思い込みの多い会話が飛び交う席に同席するのに、自分自身が向いていないと何度も思ったりもした。だが、今日は父が欠席するため、自分がある客たちをもてなす役目に廻らなければならなかった。
勢いをつけて跳び上がり、ベッドを後にしシャワーを浴びた。そして、その会合にあった服装に着替えた。服自体がかすかに自己主張をするような色やデザイン。あまり奇抜すぎもせず、また壁に消えてしまうこともない衣装。育ってきた環境にも依存するが、服装のことを考えるのが好きだった。その身につける服によっても、気分が多少、変わることもあった。ちょっと女性的かなと思うこともあったが、直ぐに打ち消す。
また車に乗り、あるホテルに着いた。ある女性の画家。父が注目をしていた。彼女と、簡単だが丁寧な挨拶をすます。会うのは何度目かだが、今日は一緒にその娘もついてきていた。よく似ていた。そして、彼女の周りには、光が放っているような印象を受けた。でも、こうした場に、来るのに馴れていないのか、それとも彼女のもっている朗らかな様子が堅苦しい挨拶やら人間関係にしっくりいかないだけなのか分からなかった。
その場を離れて、彼女と話しても良いかな、と考えてもみたが、今日はそう自由に行動できそうにもなかった。2時間ぐらい、あちらこちらを回り、挨拶をしてお世辞を使い、父親の普段の世話のために頭を下げ、などと行動していたら、あっという間に時間が過ぎてしまった。それから、ロビーで画家の娘にも、今度会えることを楽しみにしていると雰囲気にも、また実際の言葉でも告げ、お別れをした。
車に戻り、ネクタイを緩め、それから安美の家に向かった。学生時代からの因縁。かれこれ6年ぐらいの交際期間が過ぎていた。仕事を終え、一人で簡単に済まそうと食事を作っているところだった。もう、言葉のやりとりも必要ないほどの関係。それが良いことだとも思ってはいないが。ずるずるとそうした関係に終止符を打てずにいる。
「服装、決まってるね」
「そう。いつもの父の趣味の会合でね」
「誰か、面白そうな人に会った?」
「ああした現場、知ってるだろう? 金をもっているおじさん達ばかりだよ」
「そう? お腹空いていない?」
「ちょっとね」
「だったら、ビールでも飲んでて、もう一品だけ作るから」
缶を開けて、最初の泡を口にする。女性の嗅覚。ソファに身体を預け、音楽を小さくかけた。彼女は小さなときから音楽に親しみ、その趣味がとても良かった。高尚すぎて、自分にも分からないことが多いが、彼女が、それについて説明し、自分の足りない部分を補った。ヴァイオリンの音色が好きなときもあるが、安らかに聴けないときもある。しかし、今日は心にしっくり来た。誰の作曲かもわからない演奏だが、幾十年も前から、今日聴くことが約束されていたように隅々まで理解できた。そこへ、彼女が料理を持って入ってくる。良い匂いがして、急に空腹感を感じ始めた。
「疲れたでしょう」
「そうだね」
「なんか顔にそう書いてあるよ。もう二度とごめんだって」
「役が取れない俳優もいるし、それに比べたら演じる内容があるんだから。ありがたいよ」
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しばらく経って部屋に入り、音楽をかけた。フランス人の女性歌手が歌う懐かしいポップスが、その日の気持ちには会っていた。そして、ベッドに寝そべりながら、今夜の予定について考えてみた。自分の父親が、芸術の援助にも力を入れていて、ある集いに出席しなければならなかった。いくらか気が重かった。うんちくや思い込みの多い会話が飛び交う席に同席するのに、自分自身が向いていないと何度も思ったりもした。だが、今日は父が欠席するため、自分がある客たちをもてなす役目に廻らなければならなかった。
勢いをつけて跳び上がり、ベッドを後にしシャワーを浴びた。そして、その会合にあった服装に着替えた。服自体がかすかに自己主張をするような色やデザイン。あまり奇抜すぎもせず、また壁に消えてしまうこともない衣装。育ってきた環境にも依存するが、服装のことを考えるのが好きだった。その身につける服によっても、気分が多少、変わることもあった。ちょっと女性的かなと思うこともあったが、直ぐに打ち消す。
また車に乗り、あるホテルに着いた。ある女性の画家。父が注目をしていた。彼女と、簡単だが丁寧な挨拶をすます。会うのは何度目かだが、今日は一緒にその娘もついてきていた。よく似ていた。そして、彼女の周りには、光が放っているような印象を受けた。でも、こうした場に、来るのに馴れていないのか、それとも彼女のもっている朗らかな様子が堅苦しい挨拶やら人間関係にしっくりいかないだけなのか分からなかった。
その場を離れて、彼女と話しても良いかな、と考えてもみたが、今日はそう自由に行動できそうにもなかった。2時間ぐらい、あちらこちらを回り、挨拶をしてお世辞を使い、父親の普段の世話のために頭を下げ、などと行動していたら、あっという間に時間が過ぎてしまった。それから、ロビーで画家の娘にも、今度会えることを楽しみにしていると雰囲気にも、また実際の言葉でも告げ、お別れをした。
車に戻り、ネクタイを緩め、それから安美の家に向かった。学生時代からの因縁。かれこれ6年ぐらいの交際期間が過ぎていた。仕事を終え、一人で簡単に済まそうと食事を作っているところだった。もう、言葉のやりとりも必要ないほどの関係。それが良いことだとも思ってはいないが。ずるずるとそうした関係に終止符を打てずにいる。
「服装、決まってるね」
「そう。いつもの父の趣味の会合でね」
「誰か、面白そうな人に会った?」
「ああした現場、知ってるだろう? 金をもっているおじさん達ばかりだよ」
「そう? お腹空いていない?」
「ちょっとね」
「だったら、ビールでも飲んでて、もう一品だけ作るから」
缶を開けて、最初の泡を口にする。女性の嗅覚。ソファに身体を預け、音楽を小さくかけた。彼女は小さなときから音楽に親しみ、その趣味がとても良かった。高尚すぎて、自分にも分からないことが多いが、彼女が、それについて説明し、自分の足りない部分を補った。ヴァイオリンの音色が好きなときもあるが、安らかに聴けないときもある。しかし、今日は心にしっくり来た。誰の作曲かもわからない演奏だが、幾十年も前から、今日聴くことが約束されていたように隅々まで理解できた。そこへ、彼女が料理を持って入ってくる。良い匂いがして、急に空腹感を感じ始めた。
「疲れたでしょう」
「そうだね」
「なんか顔にそう書いてあるよ。もう二度とごめんだって」
「役が取れない俳優もいるし、それに比べたら演じる内容があるんだから。ありがたいよ」