リゾット・パルミジャーノ
上野は馴染みの場所だった。
幼少時には最初の行くべき都会として君臨する。盛り場。いまは美術館と昼酒の町である。
どちらに属さない経験もある。女性と歩けば景色も変わる。ビルの地下の異質な食材ですら美しく感じられる。香辛料の強そうな缶詰も小道具としての役割を充分に発揮した。気分は、ミュージカルの主役である。
あとにもさきにもあの料理をここでしか食べていない。ビルの上階にあったイタリアン・レストラン。ワインも飲んだ気がする。大人になってからアルコールを一滴も入れない夕飯など、そうそうもない。日常は安い缶チューハイであったにしても。
前菜もおいしかったはずだ。しかし、かなりの時間が経っても記憶にのこっているのはひとつだけだ。
大きな固まりのチーズにスコップで掘ったような窪みが真ん中にある。それがワゴンで運ばれてくる。テーブルの横に鎮座しても、その後の近い未来の結末を知らなかった。すると熱々のお米が運ばれてきて窪みに落とす。衛生的にどうかと思うほど潔癖にはできていない。
その凹みのなかでチーズと格闘である。熱にほだされたチーズは自分の襟元を緩め、ご飯とからまる次第であった。包容力と溶解のチームワークだ。
スプーンですくって熱々のタッグを舌にのせる。誰がこの乱暴な方法で、繊細な味を発見したのだろう。
この場面は赤ワインを抜きにして考えられない。
お店自体がいまもあるのか把握していない。興味もなくなった。いや、その女性との思い出を今後ものこそうと願っていないのだ。夢よ、さらばであった。
そして、お米というのをできるならば食べたくない。赤貝と日本酒、貝と白ワインが理想であった。胃というのは思い出とはまったく無関係に縮こまる運命を有していた。
上野は馴染みの場所だった。
幼少時には最初の行くべき都会として君臨する。盛り場。いまは美術館と昼酒の町である。
どちらに属さない経験もある。女性と歩けば景色も変わる。ビルの地下の異質な食材ですら美しく感じられる。香辛料の強そうな缶詰も小道具としての役割を充分に発揮した。気分は、ミュージカルの主役である。
あとにもさきにもあの料理をここでしか食べていない。ビルの上階にあったイタリアン・レストラン。ワインも飲んだ気がする。大人になってからアルコールを一滴も入れない夕飯など、そうそうもない。日常は安い缶チューハイであったにしても。
前菜もおいしかったはずだ。しかし、かなりの時間が経っても記憶にのこっているのはひとつだけだ。
大きな固まりのチーズにスコップで掘ったような窪みが真ん中にある。それがワゴンで運ばれてくる。テーブルの横に鎮座しても、その後の近い未来の結末を知らなかった。すると熱々のお米が運ばれてきて窪みに落とす。衛生的にどうかと思うほど潔癖にはできていない。
その凹みのなかでチーズと格闘である。熱にほだされたチーズは自分の襟元を緩め、ご飯とからまる次第であった。包容力と溶解のチームワークだ。
スプーンですくって熱々のタッグを舌にのせる。誰がこの乱暴な方法で、繊細な味を発見したのだろう。
この場面は赤ワインを抜きにして考えられない。
お店自体がいまもあるのか把握していない。興味もなくなった。いや、その女性との思い出を今後ものこそうと願っていないのだ。夢よ、さらばであった。
そして、お米というのをできるならば食べたくない。赤貝と日本酒、貝と白ワインが理想であった。胃というのは思い出とはまったく無関係に縮こまる運命を有していた。