作詞家のなかにし礼さんがなくなった記事が新聞に出ている。
新聞には歌手の菅原洋一さんの談話も添えられている。
菅原洋一さんはなかにし礼さん、そして菅原洋一さんの双方にとっての出世作となった「知りたくないの」という歌に関してこのように語っておられる。
“”
彼(なかにし礼さん)は「あなたの過去など知りたくないの」というそれまでの歌にはない言葉を発見した。
流れるメロディーに「過去」という言葉は歌いにくかったけれど「歌手なんだからしっかりと歌え」と譲らなかった。その信念がヒットにつながった。“”と。
過去 この言葉は発音するとカコ カもコも「か行」の音になっている。実際に「カキクケコ」と口に出して言ってみるとわかると思うけれど、「か行」の音はとんがっていてメロディや言葉の流れを止めたり、とがらせたりする作用がある。
昔、阪神の掛布選手が現役だった頃
「かこかけ けこかけ かけふさん 蚊に効くものはなんでしょう?
蚊には 金鳥マットです」
という、うたい文句のテレビコマーシャルがあった。
これは「か行」の音をたくさん使うことで音をとんがらせて印象深くして、金鳥マットという商品名を視聴者の耳に焼き付ける作用があったと思う。
事実、僕の耳にもこの言葉は焼き付いて離れない。
流れるメロディーに「過去」という言葉は歌いにくかったけれど(なかにし礼さんは)「歌手なんだからしっかり歌え」と譲らなかった。その信念がヒットにつながった。と菅原洋一さんは言っておられる。
「知りたくないの」という歌は金鳥マットのようなコマーシャルのうたい文句ではなく、全体に柔らかいメロディラインの中に「過去」という「か行」のみからなる言葉が入っている。
それは確かに「過去」のところだけ他の音とは違う流れで歌わなければならないと言うか、もっと言えば「過去」の二文字のところだけ、音楽の流れを止める、あるいは変えなければならない。
まあ、僕も菅原洋一さんの談話を読んでそのことに気づいたのだけれど、いかにも菅原洋一さんらしいコメントではないかと思う。
菅原洋一さんがいかに言葉を大切にして一つ一つの歌を丁寧に歌ってこられたかの証明になるようなコメント。
せいさんという方が書かれた本の中に「今日のあなたは昨日までのあなたの延長でしかないのです」という主旨の言葉があった。
結局、人間って、何かのきっかけで出るちょっとした言葉のなかにその人が歩んできた道が現れるものだなあと菅原洋一さんのコメントを読んでしみじみと思う。
言葉を大切にしてきたなかにし礼さんと菅原洋一さんの歩みだったのだと思う。
なかにし礼さんのご冥福をお祈りします。
菅原洋一さんが歌う「知りたくないの」の動画です