『소년이 온다(少年が来る)』韓江(ハン・ガン)著 (チャンビ2014年)
今年も甲子園が始まりますね。甲子園で活躍する選手たちは私よりも年上だったのが、いつの間にか同級生になり、年下になり、今年はついに息子と同じ年!
いつのまにかうちの子と同じ年の子が…という目線で世の中を見るようになりました。
『菜食主義者』が翻訳されている韓江作家の新作は、1980年に起きた光州事件を題材にしています。事件の犠牲になった市民の中には中学生もいたそうです。韓江作家も子供を持つ母親です。「うちの子と同じ年の子が…」と思っただろうことは想像に難くありません。
韓国の近代史に興味のある方はぜひ韓国語で読んでみてください。重く、痛く、つらいですが美しい話です。私は久しぶりに、韓国語で本が読めてよかったなぁ、と思いました。
==以下熱く語りますよ~。ネタバレあります。==
韓江作家の特徴なのですが、文章は短くシンプルなので読みやすいです。が、短い文の積み重ねがグサッと刺さります。物語は章ごとに中心人物と視点が変わり、あの日道庁にいた若者たちとその後の人生、彼らについて語る人たちの思いを描きます。
1章は、二人称で너는(君/お前は)と呼びかけます。呼びかけられているのは学校のジャージを着た中学生のドンホ。ドンホは大学1年生のジンスヒョン、襟の広い制服を着たスフィア女子高のウンスクヌナ、洋装店で働くソンジュヌナを手伝い、被害者たちの遺体を守ってきました。「必ず帰るから」と母に告げ、今夜にも戒厳軍が突入するといわれている道庁にまだ残っています。
2章は、一人称。ドンホに呼びかけていた同級生のジョンデの目線です。ドンホが道庁に行くことになったのは、ジョンデを探してのことだったのですが……。
3章からは時代がやや下って、後日談になります。第1章の登場人物や、登場人物のその後を知っている人たちが、あの日、道庁で何があったのかを紡いでいきます。6章では、ドンホの兄が、母親の気持ちを伝えます。
あの日道庁にいた人も、いなかった人も、生き残った人たちはみな罪の意識から逃れられずに生きています。死んでいった人たちは…?
エピローグは韓江作家の実話とも取れるエピソードで締めくくられます。現在の多くの韓国人にとって、そして光州出身の韓江作家にとって、光州事件とは何だったのでしょう。
そして、それは私たちと全く無関係なものと言えるのでしょうか。考えさせられる1冊です。