田中雄二の「映画の王様」

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「原作より面白い映画」『時をかける少女』『異人たちとの夏』『青春デンデケデケデケ』

2014-10-23 22:22:10 | 名画と野球のコラボ

名画投球術 No.8.「(読書の秋)原作より面白い映画が観たい」大林宣彦



 先に原作を読むと、映画化されたものが素直に楽しめなかったり、登場人物や背景が自分の中で作られたイメージに合わない、と感じる人は少なくないだろう。大げさに言えば、読者の数だけ心の中に異なった映像が存在するわけで、たった一人の映画監督が作り出す映像と一致するはずもないのだ。だからこそ、原作に対して自分が抱いたイメージを満たしてくれたり、覆してくれる映画と出会った時の喜びは大きい。

 児童文学作家・山中恒原作の『おれがあいつであいつがおれで』=『転校生』(1982)や『なんだかへんて子』=『さびしんぼう』(1985)を、淡いラブロマンスに仕立て上げた大林宣彦は、良くも悪くも原作をぶち壊して独自の映像世界を作り出す。今回紹介する3本もそれぞれ大林色に染められたものばかりだ。

プリティ・リーグ 『時をかける少女(1983・日本)』 



 放課後の理科実験室でラベンダーの香りをかいだことをきっかけに、芳山和子はタイム・トラベラーに。未来人と彼女の淡い初恋と学園生活を描いたファンタスティックで切ないラブロマンス。

 原作は筒井康隆のジュブナイル(少年少女向け)SF。原田知世の映画デビュー作ということもあり、大林はアイドル映画の手法を用いながら、自身の故郷・尾道に舞台を移し、ノスタルジックな背景を構築。一方で、当時の最新特撮を駆使して、読書では想像の域を出なかったタイムトラベルという非現実を映画の中に取り込んだ。先にドラマ化されたNHKの少年ドラマシリーズ『タイム・トラベラー』と見比べてみるのも楽しい。


フィールド・オブ・ドリームス 『異人たちとの夏(1988・日本)』 



 結婚に失敗した中年の脚本家・原田が、故郷の浅草で12歳の時に死別した両親と再会したことから始まる、懐かしくも切ない奇妙な生活とは…。渇ききった現代人の日常に潜む孤独と幻想が描かれる。

 原作は山田太一。作者が脚本家だけあってもともと映像がイメージしやすい原作ではある。だがこの映画は、夏の風景、浅草という街が持つ独特の懐かしい雰囲気を見事に映し出した映像、そして主人公を演じた風間杜夫、若き両親役の片岡鶴太郎、秋吉久美子の巧みな演技が相まって、映画ならではの表現力の素晴らしさをあらためて感じさせてくれる。特に両親との別れのシーンは絶品だ。


ボーイズ・オブ・サマー 『青春デンデケデケデケ(1992・日本)』



 1965年、香川県観音寺。ラジオから流れるベンチャーズのギターサウンドにしびれた高校生が、ロックバンド結成に燃える様子を描いた青春群像劇。

 原作は芦原すなおの直木賞受賞作。非現実を映像化することを得意とする大林だが、この映画ではあえてドキュメンタリー的な手法を用いて田舎町の高校生たちの日常を活写している。多彩な登場人物たちの点描も面白い。加えてリズミカルな編集と楽曲で観客を乗せ、違和感なく1965年にタイムスリップさせる。映画を見終わった後、ベンチャーズの「パイプライン」が心地良く耳に残るはず。音楽もまた(読書では得られない)映画が持つ強力な武器のひとつなのだ。

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