『騎兵隊』(59)(1975.1.1.)
“フォードの魔法”がない
南北戦争下、敵陣に侵入して破壊工作を行う北軍騎兵隊特務部隊の動静を描いた『騎兵隊』を再見。
オープニングの地平線を行く馬群に象徴される美しい映像、勇壮な音楽、時折挿入されるユーモア、部隊の指揮官(ジョン・ウェイン)と軍医(ウィリアム・ホールデン)の対立と和解、捕らえられた南部の女(コンスタンス・タワーズ)が、指揮官に反発を抱きながら、やがて心引かれるようになり、南部への忠誠心と指揮官を思う気持ちの間で葛藤する姿…と、好みの道具立てを揃えたジョン・フォードお得意の題材のはずなのに、主題の欠落、部隊の行動の現実味の薄さ、半ば無理矢理繰り返される対立劇、ユーモアの空回りなどが感じられ、映画全体の印象もすっきりしない。
この映画の不出来について、フォードの老いを指摘する声も多いが、ピーター・ボグダノビッチの『インタビュー ジョン・フォード』で、この映画について聞かれたフォードは「私はこの映画を見ていないが、幼年学校の生徒たちが北軍に向って進撃するシーンなど、あの中の多くの出来事は、当時の戦時下で実際に起こったことだ」と、いささかとんちんかんな答え方をしている。
つまり、あまりやる気がなかったということなのだろう。フォードの映画の中には、たとえ全体の出来は悪くとも、ある部分で「さすがはジョン・フォード」と感じさせ、見る者をとり込んでしまうものが少なくない。オレはこれを“フォードの魔法”と呼んでいるのだが、この映画にはそれがないのだ。
59年当時、フォード65歳、ウェイン52歳、ホールデン41歳、遥か年上の男たちに囲まれながら大健闘を見せた26歳のタワーズの存在がこの映画の救いか…。フォードに気に入られたのか、彼女はこの後『バファロー大隊』(60)でもヒロインを務めたが、どちらかと言えば、サミュエル・フラーの『ショック集団』(63)と『裸のキッス』(64)での怪演の方が印象に残る。