遊び心は楽しいが、全体的には締まらない
ザ・シネマ 今週の「シネマ・ウエスタン」は、『キャット・バルー』(65)。後にロジェ・バディムが開花させたジェーン・フォンダの色っぽさの萌芽が見られるコメディ西部劇だ。
土地を巡って、開発会社に牧場主の父(ジョン・マーレー)を殺されたキャサリン・バルー(ジェーン)。復讐を誓った彼女は、仲間と共に開発会社の給料を乗せた列車への強盗を企てる。やがてキャサリンは“キャット”・バルーと呼ばれる無法者として名をはせるが…。
監督はテレビ出身のエリオット・シルバースタイン。バンジョー片手に歌いながら、狂言回し的な役割を果たすナット・キング・コールとスタッビー・ケイ、サイレント映画を意識したようなアクションシーン、ボリビアで死んだはずのブッチ・キャシディが、落ちぶれた酒場のおやじ(アーサー・ハニカット)として登場するなど、西部劇に関する遊びをいろいろと盛り込んではいるのだが、全体的には締まらない映画という印象は今回も変わらなかった。
ところで、キャサリンに雇われた飲んだくれのガンマンと開発会社に雇われた凄腕のガンマン(実は双子の兄弟)の二役を演じたリー・マービンがアカデミー賞を獲得している。確かにこの二役は、悪役専門からコミカルな演技にも冴えを見せ始めた、当時の彼には打って付けの役だったと言えないこともないが、主演男優賞を取るほどの名演だったかと考えると、いささか疑問が残る。
恐らく、この年(65年度)は他の候補者がリチャード・バートン『寒い国から帰ったスパイ』、ローレンス・オリビエ『オセロ』、オスカー・ウェルナー『愚か者の船』、ロッド・スタイガー『質屋』という渋い顔ぶれだったことも影響したのだろう。
というわけで、改めて、アカデミー賞は酔っ払いの役に甘い上に、運やめぐり合わせに左右されるものだと感じさせられた。
ちなみに、マービンの受賞スピーチは「この賞の半分はあいつ(馬)のものだ」。アクションシーンで頑張った馬を讃えているのが面白いが、本人もまさか受賞するとは思っていなかったので、思わずこんなセリフが出たのかもしれない。
ジェーン・フォンダのプロフィールは↓
リー・マービンのプロフィールは↓