田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『君の名前で僕を呼んで』

2018-03-29 10:06:13 | 新作映画を見てみた
頭では分かっていても…



 1983年、北イタリアの避暑地。17歳のエリオ(ティモシー・シャラメ)は、考古学者の父(マイケル・スタールバーグ)を手伝いに来た24歳の大学院生オリヴァー(アーミー・ハマー)と恋に落ちる。

 オリヴァー役が女性なら何の問題もない、よくある切ない恋物語だが、男同士の恋というところが異色。脚色は自らもゲイのジェームズ・アイボリーだけに心理描写が細かい。その脚本を、監督のルカ・グァダニーノの繊細な演出をはじめ、サヨムプー・ムックディープロムの自然光を生かした撮影、適切な音楽の挿入など、スタッフが見事に映画として完成させた。特に男性美を表す彫刻をちりばめたオープニング、2人のちょっとした仕草や、互いに交わす目線が印象的だ。

 ただ、例えば女性同士=レズビアンの恋を描いた『キャロル』(15)などにはあまり違和感を抱かないのに、『ブロークバック・マウンテン』(05)『ムーンライト』(16)もそうだが、男同士の恋(特にラブシーン)には、見ていてどうにも居心地の悪さを感じさせられる。この映画も、同性愛云々ではなく、恋をする若者の思いを描いた映画なのだと、頭では分かっていても…。これは偏見や差別ではなく、生理的な感覚だから仕方がない。

 それにしても、シャラメもハマーもよくこんな難役を引き受けたものだと感心させられたが、全てを見通し、息子を受け入れる父親を演じたスタールバーグの好演も印象に残った。
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『きみへの距離、1万キロ』

2018-03-29 08:48:00 | 新作映画を見てみた
うなじの匂いをかぎ、キスをし、愛撫すれば分かる



 原題は「Eye on Juliet」。つまり「ロミオとジュリエット」のような、運命の相手との障害のある恋を描いていることを暗示しているのだが、この邦題では…。

 米デトロイトに暮らす孤独な青年ゴードン(ジョー・コール)は、ロボットを遠隔操作して北アフリカの砂漠にある石油パイプラインを監視する仕事をしている。ある日、ゴードンはモニターに映った訳ありの若い女性アユーシャ(リナ・エル・アラビ)に心を奪われ、やがて彼女の姿を追うことが生きがいになっていく。

 中盤、ゴードンが、やはりモニターを通じて知り合った迷子になった盲目の老人に「運命の相手だと知る方法は?」とたずねると、老人が「うなじの匂いをかぎ、キスをし、愛撫すれば分かる。それで違うと感じたらやめることだ」と答える印象的なシーンがある。相手に思いが届かない、触れることもできないというゴードンにとっては反意的とも思えるこの言葉が、実はラストシーンで反芻されるのがこの映画のミソだ。

 また、この映画の設定は、無人戦闘機ドローンにより、戦地に行かずして空爆を行う様子を描いた『ドローン・オブ・ウォー』(14)と似ており、怖さを感じるところもある。加えて、昔の映画では、恋する人の姿を黙って追うのは純愛の証として描けたが、今ではストーカー行為と思われてしまう難しさがある。

 ところが、この映画はカニのように動くロボットを仲介させることで、怖さや不気味さを緩和させ、ファンタジー色を強めることに成功している。このあたり、カナダ出身のキム・グエン監督の手腕を買いたい気もするが、アユーシャの行動がわがままに見えてしまうのが難点だ。

 ゴードンの上司の名はピーター。これは歌手の「ピーター&ゴードン」にあやかっているのだろうか。
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