田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『エノケンと東京喜劇の黄金時代』(東京喜劇研究会編)

2018-03-30 09:06:12 | ブックレビュー

 「わろてんか」で広瀬アリスが歌った「アラビアの唄」で二村定一のことを思い出し、もう一度彼らが活躍した時代について書かれたものが読みたいと思った。そんな中、タイミングよく日暮里の「古書ほうろう」で本書を発見した。エノケン=榎本健一を中心に、過ぎし日の東京喜劇を研究したこの本は、資料としても貴重だ。



 「映画のなかのエノケン」(佐藤利明)、「エノケンとジャズ」(瀬川昌久)、「エノケンとチャップリン」(井崎博之)など、やはりエノケンと映画の関わりについて書かれたものが印象に残る。

 研究員の一人である原健太郎氏があとがきで、エノケンたちの舞台について「わたしたちの世代は、確かに何も見ていません。生まれる以前におこなわれたことなのです。時代を共に生きてこなかった以上、それは不可能です。では、わたしたちは何も言う資格はないのでしょうか」と書いていた。

 この言葉は、自分が生まれる前に作られた古い映画について書いたり、語ったりする時によく感じるジレンマと通じるものがある。ところが自分も、今の若者が1970~80年代の映画について書いたものを読むと「リアルタイムじゃないだろ」などと素直に認めないところがあるのだから、困ったものだ。

「アラビアの唄」 エノケンとその仲間たち
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/c5c5c9c9e274cc51e260d9cdea01cd0a

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『ロンドン、人生はじめます』

2018-03-30 06:01:26 | 新作映画を見てみた
これは本当に“いい話”なのか



 ロンドンの高級マンションに暮らすエミリー(ダイアン・キートン)が、森の中の小さな小屋に住むドナルド(ブレンダン・グリーソン)と知り合い、2人は互いに引かれ合うようになるが…。

 国立公園で暮らすホームレスが、裁判で土地の所有権を手にして資産家となった実話を基に映画化。いかにもイギリス映画らしい、ブラックユーモアと皮肉を交えて描く人間ドラマといったところか。

 ところが、2人の行動の動機や理由の描き方が曖昧なもので、エミリーはただの優柔不断なわがままおばさんに、ドナルドは逃避癖のある頑固者に見えて、あまり感情移入ができない。「これは本当に“いい話”なのか?」と自問したまま見終わってしまった。

 原題は、単に舞台となった「Hampstead=ハムステッド」。この邦題も…。
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