先日「映画の友」との恒例の飲み会を神楽坂で行った。神楽坂が舞台の映画で思い出すのは、名脇役の砂塚秀夫が主演した『毘沙門天慕情』。当日は、奇しくも「くさい役者」の話題になったが、この砂塚や森繁久彌あたりはその最たるものだろう。というよりも、喜劇畑の人たちの演技は総じて“くさい”のだが、それが、時には嫌味になったり、いい味になったりするから厄介なのだ。
『毘沙門天慕情』(73)(2011.1.31.神保町シアター「新春!喜劇映画デラックス」)
この映画、以前から見たかったのだが、いろいろと問題があったようで、公開後は、上映はもちろん、テレビ放映もされず幻の作品になっていた。名脇役の砂塚秀夫が、企画・製作・主演した意欲作で、森繁、伴淳、三木のり平、由利徹など、彼と縁のあった喜劇人がゲスト出演している。
うま過ぎて、見る者にちょっと嫌味な印象を抱かせる砂塚にとっては、太鼓持ち=幇間はぴったりの役どころだが、この映画を見ると、やはり彼は主役ではなく脇役として輝くタイプの人だと感じさせられた。
何しろ砂塚のワンマン映画だから、見せ場はすべて彼がこなし、ゲスト出演してくれた先輩たちの芸も披露させなくては…となると、どうしても全体が散漫になる。だから、たいした上映時間ではないのに、随分と長く感じてしまうのだ。西村晃の“ニコライの鐘蔵”、大泉滉の“おかまのヒーター”など脇で楽しいキャラクターも描かれていただけにちょっと残念だった。
ところで、「あちらが帝釈天ならこっちは毘沙門天」という冒頭の啖呵や、砂塚がさまざまなシチュエーションを演じる夢のシーンは明らかに『男はつらいよ』を意識していると感じた。これは同時代に脇役から主役にのし上がった渥美清への対抗意識の表れだったのだろうか。
逆に、父親(実は育ての親)が森繁で、放蕩息子が、父の死(遺言)で家業を継ぐという設定は、この映画の翌年に放送された石立鉄男主演のテレビドラマ「水もれ甲介」に少なからず影響を与えたのではないだろうか。あのドラマの舞台は鬼子母神付近だったが…。
ところで、この映画は、新東宝出身の監督・土居通芳の遺作らしいのだが、今回クレジットを見て助監督に小栗康平の名を発見して驚いた。
2011.2.【違いのわかる映画館】vol.05 神保町シアター
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