(1988.5.)
これは、まさに映画狂にしか書けない話であり、現在の映画界を支えるスピルバーグを、1938年のハリウッド(『風と共に去りぬ』『オズの魔法使』『駅馬車』などが製作真っただ中)にタイムスリップさせるという突拍子もないアイデアを生かして、見事に映画への愛を語っている。それを自分と同年代の人間に書かれてしまった喜びと悔しさが同時に浮かんできた。しかも表紙の絵は和田誠だ。うらやましい限り。
この小説の“現在”で描かれるのは、『1941』(79)の製作風景だ。俺はこの映画は失敗作だと思うのだが、作者は、この映画はスピルバーグ、ジョン・ランディス、ジョン・ベルーシらの友情の結晶であり、昔のハリウッド映画に対するオマージュを込めた傑作だと捉えている。
このように、映画とは、人によって見方や捉え方が異なる。それが厄介である半面、楽しいとも言えるのだが、そこに共通するのは“映画への愛”なのだ。そんな、ちょっと気恥ずかしいことを改めて感じさせてくれた。で、もしこの小説が翻訳されて、スピルバーグが読んだら…などと考えてみるのも楽しい。
【今の一言】これは、タランティーノの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』にも通じる、作者の夢を反映させたパラレルワールド話だといえる。作者自身がアナザーストーリーを考えていたらしい。
もうひとつの HEY! スピルバーグ
https://note.com/etandme/n/n360d7f2221d4