『メグレと若い女の死』(2023.3.2.オンライン試写)
パトリス・ルコント監督の8年ぶりの長編映画。『仕立て屋の恋』(89)の原作者ジョルジュ・シムノンのミステリー小説を映画化。
1953年。パリ・モンマルトルのバンティミーユ広場で、シルクのイブニングドレスを着た若い女性の遺体が発見される。真っ赤な血で染まったドレスには5カ所の刺し傷があった。
メグレ警視(ジェラール・ドパルデュー)が捜査に乗り出すが、遺体の周囲に被害者を特定できるものはなく、手がかりとなるのは若い女性には不釣り合いなほど高級なドレスのみ。被害者の素性とその生涯を探るうちに、メグレは異常なほどこの事件にのめり込んでいく。
メグレ警視といえば、ジャン・ギャバンが演じた『サン・フィアクル殺人事件』(59)『殺人鬼に罠をかけろ』(58)が有名だが、日本でも、愛川欽也が演じた「東京メグレ警視」(78)があり、『名探偵コナン』に登場する警視庁捜査一課の刑事、目暮十三の名前の由来ともなった。
初めは太りに太ったドパルデューの姿に驚き、違和感があったのだが、見ているうちに慣れてきて、これはこれで味があると思い直した。しかも、これが原作のメグレのイメージに最も近いのだという。
メグレが異常なほどにこの事件に執着し、別の若い女性ベティにも肩入れするのは、果たして亡くした娘への愛の代替行為なのか、それとも若い女への欲望なのか、そのどちらもなのか。そして事件の真相にも、倒錯やフェティシズムを感じさせるところがルコントらしい。
思えば、『仕立て屋の恋』も『髪結いの亭主』(90)も、前作の『暮れ逢い』(13)も、倒錯とフェティシズムにあふれていたではないか。そう考えると、これは紛れもなくルコントの映画だといえる。
オーソドックスなミステリーを89分に仕上げた手際の良さ、いかにもノワールらしい暗く抑えた画調も印象に残る。
「何を期待してパリへ?」(メグレ)「自由。刺激的な人と出会い、本を読み、美術館へ行く」「でも、実際は家政婦になるしかない」(ベティ)。これは昔も今も変わらないのか。
『暮れ逢い』のフェティシズムと『毛皮のヴィーナス』のマゾヒズム
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