田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『ハリウッド映画の終焉』(宇野維正)

2023-12-24 21:10:15 | ブックレビュー

『ハリウッド映画の終焉』(宇野維正)

 配信プラットフォームの普及、コロナ禍の余波、北米文化の世界的な影響力の低下などが重なって、製作本数も観客動員数も減少が止まらない。メジャースタジオは、人気シリーズ作品への依存度をますます高めていて、オリジナル脚本や監督主導の作品は足場を失いつつある。「ハリウッド映画は、このまま歴史的役割を終えることになるのか?」をテーマに、16本の映画から読み解く。

 うなずけるところとそうではないと思うところが混在するが、教えられることも多々あり、好奇心を刺激された。()は自分が付けた見出し。

第一章 #MeToo とキャンセルカルチャーの余波
『プロミシング・ヤング・ウーマン』─復讐の天使が教えてくれること
(男性には考えつかないようなユニークな視点で描かれた)
『ラストナイト・イン・ソーホー』─男性監督が向き合う困難 
(懐かしさと新しさが混在する摩訶不思議な世界が現出する)
『パワー・オブ・ザ・ドッグ』─作品の豊かさと批評の貧しさ 
(カンバーバッチが、複雑なアメリカの西部男を演じた)
『カモン カモン』─次世代に託された対話の可能性
(裏の主役はジェシーの母)

第二章 スーパーヒーロー映画がもたらした荒廃
『ブラック・ウィドウ』─マーベル映画の「過去」の清算 
(スカーレット・ヨハンソンの決着の付け方)
『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』─寡占化の果てにあるもの 
(スパイダーマンシリーズ全体を総括する)
『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』─扇動されたファンダム 
(やっと役者がそろった)
『ピースメイカー』─疎外された白人中年男性に寄り添うこと

第三章 「最後の映画」を撮る監督たち
『フェイブルマンズ』─映画という「危険物」取扱者としての自画像 
(好きなもの、熱中できるものを見つけることが大切と説く)
『Mank/マンク』─デヴィッド・フィンチャーのハリウッドへの決別宣言
(Netflix、悲願の作品賞初受賞なるか)
『リコリス・ピザ』─ノスタルジーに隠された最後の抵抗 
(ディテールに注目するのも、P.T.A映画の楽しみ方の一つ)
『トップガン マーヴェリック』─最後の映画スターによる最後のスター映画
(“生きること”を強調したところに、この映画の真骨頂がある)

第四章 映画の向こう側へ
『TENET テネット』─クリストファー・ノーランが仕掛けた映画の救済劇 
(時間を逆行させて、もう一度最初から見たくなる)
『DUNE/デューン 砂の惑星』─砂漠からの映画のリスタート 
(久しぶりに映画館で見ることが必須だと感じた映画)
『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』─2010年代なんて存在しなかった?
(果たして3D映画に未来はあるのか)
『TAR/ター』─観客を挑発し続けること
(俳優の個性で見せる映画)

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『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』

2023-12-24 13:01:46 | テレビ

『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』(NHK)

 仕事と結婚に失敗した荒井尚人(草彅剛)は、生活のために“手話”という唯一の技能を生かして手話通訳士となる。彼は耳が聞こえない両親をもつコーダ(Children of Deaf Adults)だったのだ。

 やがて仕事にも慣れ、新たな生活を送り始めた尚人のもとに届いた依頼は法廷でのろう者の通訳。この仕事をきっかけに、尚人は、自身が関わった17年前のある事件と対峙することに。そして、現在と過去、二つの事件の謎が複雑に絡み始める。

 ろう者の生活を描き込んだ社会派ミステリーで、原作は丸山正樹。デフ・ヴォイスとは「ろう者の声」を表す。なかなかない形のドラマなので興味深く見た。草彅が好演を見せる。

 『Coda コーダ あいのうた』(21)『エール!』(14)、そして全員がろう者の共同監督と出演者で製作された“無音の音楽映画”『LISTEN リッスン』(16)について、監督にインタビューしたことを思い出した。


『Coda コーダ あいのうた』『エール!』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/19e20cddc0d06a98c490d5663c7cf333

【インタビュー】『LISTEN リッスン』牧原依里 & 雫境監督
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/45c17234fe6009b4a65070438b5b62df

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