田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『マタギ』

2024-06-18 12:10:45 | 映画いろいろ

『マタギ』(82)(1982.6.7.新宿東映ホール2)

 巨熊との対決に執念を燃やす老マタギと、マタギ犬を育て上げる孫との情愛の物語。青銅プロダクションが製作。監督は後藤俊夫。

 映画が始まる前に、例によってやたらと~会推薦のテロップが入る。こりゃあ押しつけがましい教育的な映画の一種なのかと思い、ちょっと興ざめさせられたのだが、映画が始まるとそんな杞憂は吹っ飛んだ。いい意味で、大手の映画会社からは絶対に出て来ないような自主映画的な魅力にあふれた映画だったのだ。

 方言丸出しのせりふと徹底した現地ロケが、われわれボンクラ都会人をしばしの間雪深い秋田県の山間の村にいざなう。映画館の中でぶるぶると震えがきたのは決して冷房のせいばかりではない。一時、本当に極寒の地にいるような錯覚を覚えるほどの力をこの映画は持っている。あの『八甲田山』(77)を真夏に見た時の感覚と通じるものがあった。

 そして、全編を貫く自然の素晴らしさと恐ろしさという二面性、その自然を知り尽くした老マタギ平蔵の姿は、黒澤明の『デルス・ウザーラ』(74)をほうふつとさせる。演じる西村晃が、これまた一世一代の力演を見せる。その執念や昔気質ぶりは今では失われようとしているものだけに、寂しさと感動を感じさせられた。しかも、老マタギの孫役の子役が極自然な演技を見せる。これは現地の子どもを使ったことも大きいのだろう。

 とはいえ、本物のマタギ犬と熊が登場するので、役者たちはいくらか損をしているところもある。彼らの持つ迫力と哀愁は決して人間にはまねのできないもの。その点、動物を生かし切った映画としても記憶に残る。

 同じ日にヘンリー・フォンダ主演の『黄昏』(81)を見たので、老いについても考えさせられた。

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『プロミスト・ランド』

2024-06-18 10:08:14 | 新作映画を見てみた

『プロミスト・ランド』(2024.5.26.オンライン試写)

 マタギの伝統を受け継ぐ東北の山間の町。高校卒業後に家業の鶏舎を継いだ20歳の信行(杉田雷麟)は、閉鎖的な暮らしにうんざりしながらも流されるまま日々を過ごしていた。

 ある日、役所から今年の熊狩りを禁止する通達が届く。違反すれば密猟とみなされ、マタギとして生きる道を閉ざされてしまう。町のマタギ衆は仕方なく決定に従うが、信行の兄貴分である礼二郎(寛一郎)はかたくなに拒み続ける。やがて礼二郎は信行を呼び出し、2人だけで熊狩りに挑む秘密の計画を打ち明ける。そして2人は山に入るが…。

 飯嶋和一が1983年に発表した同名小説を映画化。本作の舞台でもある山形県庄内地方のマタギ衆に密着したドキュメンタリー『MATAGI マタギ』(23)の飯島将史監督が長編劇映画初メガホンを取った。

 特に時代設定は明らかにしていないが、舞台は80年代だという。それ故、どこか昔の自然を相手にしたハードな映画を見ているような気になる。特に、西村晃主演の『マタギ』(82)のことを思い出した。若い2人が山中でのロケを頑張っていた。

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『GEMNIBUS vol.1』

2024-06-18 08:45:52 | 新作映画を見てみた

『GEMNIBUS vol.1』(2024.6.4.東宝試写室)

 東宝が手がける才能支援プロジェクト「GEMSTONE Creative Label」初の劇場公開作品として、新進気鋭の監督たちが競作する短編オムニバス映画「GEMNIBUS」の第1弾。

 CGクリエイターの上西琢也監督が2023年にYouTubeで発表し再生数420万回以上を記録したショートフィルムを、迫真の映像と5.1ch音響のシネマティック・バージョンとして上映する『ゴジラ VS メガロ』

 縦型映像のホラー映画「娯楽」がTikTok TOHO Film Festival 2022のサードアイ賞を受賞した平瀬遼太郎監督が、親子の血縁の結びをスタイリッシュな映像で描いたサイコスリラー『knot』。出演は、三浦貴大、SUMIRE、野波麻帆、金子ノブアキ、滝藤賢一。

 テレビアニメ「薬屋のひとりごと」などの絵コンテ・演出を手がけたアニメーターのちな監督とピアニストの角野隼斗がタッグを組み、アニメに生命を吹き込むことの面白さと残酷さを大胆に描いた新感覚アニメ『ファーストライン』

 第75回カンヌ国際映画祭の#TikTokShort Filmコンペティションでグランプリを受賞した本木真武太監督が、少子高齢化問題を背景に撮りあげたSF学園ゾンビ映画『フレイル』。出演は、奥平大兼、莉子、今井柊斗、大石吾朗。

 なかなか面白い企画だが、それぞれが習作や実験作の域を出ていないのは否めない。何だか、某映画祭で審査員をやった時のことを思い出した。この中から、将来大化けする人が出るかもしれない。

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「BSシネマ」『モンタナの風に抱かれて』

2024-06-18 07:21:53 | ブラウン管の映画館

『モンタナの風に抱かれて』(98)

 少女グレイス(スカーレット・ヨハンソン)は、乗馬中の事故で心と体に深い傷を負い、愛馬ピルグリムも事故のため気性が荒くなっていた。母親のアニー(クリスティン・スコット・トーマス)は、娘の回復にはピルグリムの治療も必要だと考え、娘と共に、傷ついた馬を癒やすというカウボーイのトム(ロバート・レッドフォード)のもとを訪れるが…。レッドフォードの製作・監督・主演作。


 

 

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